山ちゃんの食べもの考

 

 

その117
 
[医食同源]を考える<7>

 今回は、同じくアンドルー・ワイル博士の「医食同源」を中心にタンパク質について学んでみたいと思います。
 さて、私たちは、日頃食べている食品から必要な栄養を摂取しています。その中で有機養分には、炭水化物、脂肪、タンパク質があり三大栄養素と呼ばれています。特にタンパク質というのは、私たちの体を構成する物質で、水分の次に多い物質です。体の中の臓器や、筋肉、酵素やホルモンをつくったりしている主成分になっています。
 タンパク質には動物性タンパク質と植物性タンパク質がありますが、ともすると植物性タンパク質が良質のタンパク質で、動物性タンパク質の過剰摂取についていろいろ聞きますがそのあたりはどうなのでしょう。
 タンパク質はアミノ酸で構成されており、良質のタンパク質とは、人間の体内で合成できない10の必須アミノ酸が多く含まれているものを指します。そしてこの必須アミノ酸が多く含まれていればいるほど良質で栄養価が高いタンパク質といわれます。
 しかし、ただタンパク質を取ればいいというのではなく、アミノ酸価の高いタンパク質を取ることが重要になりますが、卵や牛乳、豚肉はアミノ酸価が100だが、動物性脂肪が多いので取りすぎに注意が必要だという。
 魚のアジなどではアミノ酸価が100で、EPAやDHAも多く含まれ、良質のたんぱく質源として見直されています。また畑の肉といわれる大豆製品のアミノ酸価は85くらいで、カロリーが低く、その他の栄養成分も注目を集めよい食材として評価されています。


 ワイル博士の「医食同源」によると、植物が第三の多量栄養素であるタンパク質を作るとき、単糖類と空気や土壌から固定した窒素とを結合させて、タンパク質の材料であるアミノ酸をつくります。タンパク質は炭水化物や脂肪に比べるとはるかに巨大かつ複雑な分子で、入りくんだ特徴的な立体構造をしています。
 多くの生き物に共通するタンパク質に加えて、個々の生き物は生物学的なアイデンティティを示す独自のタンパク質を持っています。(体内に入ってきたものが異物かどうかを見極めるとき、免疫系はもっぱら侵入者のタンパク質の化学的性質に着目する。生き物が「自己」と「非自己」を決定するマークとなるのがタンパク質なのです)。水を除けば、タンパク質は人間の体重で最大の比率を占めものです。


 動物は食べたタンパク質をいったんアミノ酸に分解し、アミノ酸という材料を使って生長や修復など、自分に必要なタンパク質分子に作り変えます。
 動物は自分でも一部のアミノ酸を作ることができますが、必要なアミノ酸のすべてを作ることはできません。
 人間の「必須」アミノ酸は10種類ですが、「必須」とは自分では作れないから食物からとらなければならないという意味です。常に必須アミノ酸を摂取し続けなければ、たちまちタンパク質が欠乏し、病気になってしまいます。なぜなら、体は炭水化物や脂肪のような方法ではタンパク質の窒素やアミノ酸を貯蔵することができないからなのです。
 動物のアミノ酸は全部で20種類ありますが、個々のアミノ酸を一つの文字だと考えてみればよい。20種類の文字を組み合わせれば、実に多くのタンパク質「言語」を書くことができます。
 細胞には小さなタンパク質工場(リボソーム)があり、それが核にあるDNAからの暗号化された指示を受けてアミノ酸を組み合わせ、長い鎖を作ります。鎖ができ上がると、それは電気化学的な性質とアミノ酸の序列が決定する複雑に編みこまれた環状の立体構造を呈しはじめます。体のタンパク質の仕組みの巧妙さは、その特徴的な立体構造によります。
 たとえば筋繊維を作るアクチンとミオシンは、神経からの信号に反応して互いにスライドしあうような形態をしており、その結果筋肉の収縮がおこります。皮膚に柔軟にしてかつ強靭という驚異的な性質を与えているのは、コラーゲンやエラスチンというタンパク質です。


 タンパク質のもう一つ重要な役割に酵素があります。植物や動物が、光合成の産物である基礎材料のグルコースをさまざまな糖質、澱粉、脂肪、タンパク質に転換していく錬金術は、化学反応を制御する特殊なタンパク質分子、酵素の働きにかかっています。
 酵素は生き物の必要に応じて糖分を澱粉に変え、澱粉をグルコースに変え、糖を脂肪に変え、脂肪を燃料のアセテートフラグメントに変え、アセテートフラグメントをコレステロールに変え、糖をタンパク質に変え、タンパク質を糖に戻している。
 こうした転換法の多くは植物と動物に共通するものですが、動植物間の最大の相違は、植物だけが二酸化炭素・水・光からグルコースを作り、土壌の窒素を使ってアミノ酸とタンパク質を作ることが出来るという点にあります。こうした反応のすべてに関与しているのが酵素なのです。


 酵素は生命の化学反応の触媒となる。つまり、反応が平衡に達するまでの時間を速めますが、そのプロセスで酵素自体は変化を受けません。酵素がなければ体内の化学反応は生命を支えるだけの速度に達しないので、酵素は生命の必須要素といわれます。
 私たちが食べたものは身体の中で消化され必要な栄養を吸収し、骨や筋肉になったりエネルギーになったりします。また、不必要なものは老廃物として排出されます。これら人間の営みすべてにおいて酵素が作用しているのです。このように酵素は人間の体にとっては無くてはならないものであり、生命の源といっても過言ではありません。
 酵素はタンパク質の一種で体内には数千種類もの酵素が存在し化学反応の手助けをしています。以前は、タンパク質さえとれば酵素は無尽蔵に作られると考えていましたが、最近の研究では酵素をつくる能力は一人一人遺伝子によって決まっていて限界があることが分かってきました。加齢や誤った食生活で酵素の生産能力は低下していきます。 そのため発酵食品など酵素を多く含む食品をとる必要があるのです。細胞中の酵素は、生命というマイルドな条件下における化学反応の触媒作用を可能にし、しかも、人工的な触媒よりはるかに効率よくそれを行います。だから、酵素は高度に複雑かつ効率的な分子機械だと考えられているのです。
 では、酵素はどのようにして働くのか。その答えは酵素の立体的構造に関係があり、その立体構造が、極めて特異的に他の分子(基質)と結合し、反応の傾向を加速させていることを可能にしています。酵素には大きく分けると食物酵素、消化酵素、代謝酵素に分けることができます。消化酵素は私たちが食べた物を分解し体が吸収しやすい物質に変えてくれます。唾液がデンプンを分解する実験を理科の時間に習ったりしますが、これも唾液に含まれるアミラーゼと呼ばれる酵素の働きによるものです。
 酵素が不足すると食物が分解できなくなり栄養が吸収されなくなるばかりか、そのまま蓄積され有害物質も排出できずに溜め込んでしまいます。そのため中年太りや血液がドロドロになり糖尿病、高血圧などの生活習慣病になってしまいます。


 牛乳を飲むと、お腹が痛くなるという人がときどきいます。“乳糖不対症”といって、牛乳の糖質(=乳糖)を消化する酵素が少ない人に起こりやすいといわれています。一般的に、乳児期には乳糖を分解する酵素(ラクトース)が腸内に多くありますので、母乳を飲んでもなんともありませんが、この酵素の働きは離乳とともに落ち始め、成人ではラクトース活性はかなり低下するといわれています。
 したがって、牛乳を摂取すると、乳糖が分解されずに腸内に多量残るため、腸内の浸透圧が高くなり、そのため牛乳を飲むとお腹の調子が悪くなる人が出るというわけです。さらに、白人と比べて私たち東洋民族には乳糖分解酵素ラクトースが欠乏する傾向が多いといわれています。
 乳糖不対症の人は、ラクトースというたった一つの酵素の欠乏または欠損が問題になるわけです。体がラクトースを作っても、それが正常な形態からわずかでもずれていると、乳糖分子と結合できなくなり、乳糖を単糖類のグルコースやガラクトースに変えて消化するという反応の触媒作業ができなくなるのです。


 体内のタンパク質の活動でもう一つ重要なものにレセプター(受容器)があります。レセプターも鍵と錠のように特定の分子とだけ結合するところは酵素と似ていますが、酵素のように生化学的に速度を高めるのではなく、細胞間および細胞内の情報を伝達するところに特色があります。
 細胞の周囲の脂質でできや膜には、たくさんのレセプターが存在します。たとえば、たいがいの細胞の表面にはインスリンレセプターがあり、膵臓が血中に分泌したインスリンホルモンはインスリンレセプターと結合し、レセプターの形態変化が引き金となって細胞内に変化が起こり、その結果、細胞がグルコースを取り込んで酸化反応を起こさせ、エネルギーを作り出します。
 インスリンレセプターの欠乏または欠損は、生化学的にはインスリンの抵抗性と相関関係をもつことになります。すなわち、その極端なケースは成人型糖尿病(タイプU糖尿病、またはインスリン非依存性糖尿病)の直接的な原因になるものです。
 この病気は、膵臓がインスリンをつくっても細胞がそれに反応できない状態、つまり細胞のインスリンに対する感受性が消失している状態のあらわれです。その結果、血糖値は執拗に上昇し続けて、体のエネルギー経済全体が乱れてしまうわけです。


 生命維持にタンパク質が果たす重要な役割について、又、維持・成長・修復など、体が必要とするタンパク質を、必要以上に摂取したときに、余剰のタンパク質が燃料として代謝されるということも知っておく必要があります。
 摂取したタンパク質は消化器系でアミノ酸に分解されるわけですが、アミノ酸の多くは容易にグルコースに変わり、必要とされるエネルギー量によって、それが燃やされたり、グリコーゲンに変わったり、脂肪に変わって貯蔵されたりします。エネルギー源としてのタンパク質は脂肪や炭水化物のそれとはまったく違い、その理由は、タンパク質に含まれる窒素にある。
 脂肪や炭水化物はクリーンな燃料であり、酸化の最終副産物として二酸化炭素と水しかつくりません。
 ところがタンパク質は、同じ過程に加えて、アンモニアという廃棄物を残します。アンモニアは洗浄剤や肥料として知られているように、窒素と水素の単純な化合物です。アンモニアは毒性の強いものであり、特に脳細胞に深刻な損傷を与えます。体がアミノ酸を燃料として使うとき、酸化の過程でできるアンモニアの体外への排出法が問題になります。


 体が脂肪からグルコースを得られないときには炭水化物からそれをつくります。アミノ酸の多くは肝臓でグルコースを合成するときに基質としても使われます。飢餓状態になると、体は脳に必要なグルコースを供給するために、筋組織を犠牲にしてグルゴネオジェネシス=糖新生(かすり傷からグルコースを作るという意味)の体制に入ります。
 飢餓で体重が減少するのは貯蔵されていた脂肪が代謝されつくしてしまうばかりではなく、やせたからだの筋肉そのものが萎縮するからなのです。低炭水化物食の実行者にも同じことが起こる可能性があり、一部ではそれが心配されています。たとえタンパク質をたくさん食べていても、体は炭水化物の欠乏に危機感を覚えて、筋組織をアミノ酸源として利用しはじめ、グルゴネオジェネシス体制に入って脳にグルコースを供給しようとする可能性があるからです。
 脳はグルコースしかエネルギーにできないので、空腹時でグリコーゲンによる血糖値調節もできないとき、脳に必要な血糖値を維持するために、グルコースがアミノ酸、ピルビン酸、グリセロールなどから形成されます。このような糖新生(グルゴネオジェネシス)は、主に肝臓で行われます。




 

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生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

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