山ちゃんの食べもの考

 

 

その118
 
[医食同源]を考える<8>


 今回も、「ワイル博士の医食同源」を中心に進めます。
 人にとって最も重要な栄養素は何か。炭水化物(最近は糖質というようになった)である。ヒト(動物としての人)は大脳が発達した動物でする。発達しているといっても、脳は体重の2%を占めるに過ぎませんが、そのエネルギー消費量は全エネルギーの20%(400から500kcal)にも達します。しかも、脳は専らグルコースを利用します。
 脳は1日24時間休みなく働いていて昼夜分かたずグルコースを消費していて、人が生きているということは脳が機能しているということです。そして、脳が機能するためには少なくとも1日120gの糖質が必要であり、脳で使われるグルコースは都度炭酸ガスと水に変えられて排泄されますから、脳には絶えずグルコースが補給されなければならないわけです。
 人は肝臓と筋肉に糖質をグリコーゲン(動物デンプンともいう)という形で貯蔵していますが、その量は肝臓に60グラム、筋肉に120グラムほど。肝臓のグリコーゲンは分解されて、グルコース(血糖)として血中に放出されますが、筋肉中のグリコーゲンの分解で生じるグルコースは筋肉のために使われ、血液にグルコースを供給することはできません。ですから、絶えず食事から糖質を補給する必要があるわけです。


 筋肉はグルコースを乳酸に分解する過程でエネルギーを獲得します。生じた乳酸は肝臓あるいは腎臓に送られ、再びグルコースに作り換えられます。これが糖新生とよばれる作用です。
 また、心筋、副腎髄質、赤血球などもグルコースを唯一のエネルギー源としており、1日40グラムほど消費します。したがって、ヒト(他の動物も同じ)はグルコース源としてデンプンを摂らなければ生きていけません。
 デンプンが多量に存在するのは植物だけです。動物の肉を食べても糖質はごくわずかしか補給されません。デンプンが少ないときは、やむを得ず、タンパク質の構成成分であるアミノ酸からグルコースを作って(糖新生作用で)、脳や心筋にグルコースを供給しなければならなくなります。
 食事制限をしてダイエットを行う場合、筋肉組織のタンパク質が不足分のエネルギーに換えられて筋肉が減る現象が起こります。これが「糖新生」ですが、長期にダイエットを行っているとき、筋肉が減った分、基礎代謝カロリーが減って1日の消費カロリーが減ってきます。すると途中から体重の減少がしなくなりなったりします。今度は同じ食生活をしていても、1日の消費カロリーが減っていているので摂取カロリーの過剰という現象がおきます。すると、また太ってくるのでダイエットを行うと筋肉が糖新生を起こして、さらに筋肉が減る。さらに摂取カロリーの過剰が起こって太る。またダイエットを行う、という悪循環に陥ります。これがリバウンドの原理です。


 人の身体にはタンパク質(肉)もあるし、脂肪(室温で固くなる飽和脂肪酸が主体)もあります。しかし、人は食べるものがなくなれば、他人の肉を食べないけれども自分の肉は食べるのです。口に入れるものが少なくなれば、自分の身体の筋肉(タンパク質)や脂肪からエネルギーを得ます。痩せるということは自分の肉を消費した結果なのです。病魔に襲われて、口からものが入らなくなると、ひとは「骨と皮」という状態になります。自分の肉を消費しつくした状態なのです。
 ウシ、ウマ、ブタなどはヒトと同じ哺乳類の仲間です。彼らの身体はヒトの身体と基本的に同じだから、本来、ヒトが哺乳類を食べる必要はないのです。ヒトが哺乳類を食べるということは、牛がウシを食うことと基本的に変わりはないわけで、人が哺乳類の肉を食べるというのは、人が自分の肉を食べることと理屈の上では同じことであり、他に食べるものがないときだけ食べればよいわけです。普段は食べても役立たないのです。


 ワイル博士は、ヒトの食物としては鳥類は哺乳類よりましで、魚類は鳥類に比べてさらによい。魚の油はエイコぺンタエン酸やドコサヘキサエン酸などの、室温で固まらない不飽和脂肪酸(ただしこれらの多価不飽和脂肪酸はもろ刃の剣で、過酸化脂質になり易いという欠点がある)を多く含んでいるからです。
 ヒトの食物はヒトからの遺伝的距離が離れているものほどよい。つまり、ヒトの食物としては植物が最高である。植物は、ヒトにとって最も大切な糖質(デンプン)の供給源なのです。昨今、繊維、センイと食物繊維の摂取がやかましく言われていますが、センイを供給してくれるのは植物だけである。と述べています。 
 不飽和脂肪酸の酸化生成物は、過酸化脂質と総称されまていますが、過酸化脂質は、細胞膜を障害したり、動脈硬化の発症に関係します。血液中の過酸化脂質は、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病、急性肝炎などで増加するので、不飽和脂肪酸の摂取は過剰にならないよう注意することが必要です。同時に抗酸化物質ビタミンCやEを多く含む緑黄色野菜などを十分に摂取することが大切です。


 ヒトは、歯や爪などからだの構造から見ても、植物から必要なものを補給するように進化してきた動物であることは明らかなのです。とごろが、ウシやヒツジと違って、硬い草や木の葉のセルロースを利用するようにはなりませんでした。
 ヒトは、穀物や果実や根茎など、植物が光合成で蓄えたデンプンを利用することによって、生命を維持するようになった哺乳類の一種です。それは、エスキモーとて例外ではなく、彼らが移り住んだ地がたまたま食糧となる植物がなく、クジラなどの海に棲む哺乳類を捕食する以外に生きる術がなかっただけのことだといいます。
 寒い北欧に住む西洋人がウシを食べミルクを利用するのは、穀物や野菜・果物が十分得られず、人間が食べて消化吸収することのできない草を食べる牛や羊を養い、その肉やミルクを食用にしなければならなかったからで、彼らがその風土に適応してきただけのことに過ぎないといいます。いわゆる西洋人の食生活は、西洋という地にあって長い時間をかけて築き上げられた食体系なのです。
 しかし、西洋の地で発達した近代栄養学(タンパク・ビタミン・ミネラルという成分栄養学)を、高温多湿で穀物や野菜が豊富にある日本で、そのまま盲目的に翻訳すべきではないのです。


 御茶ノ水クリニックの森下敬一先生は「人間は草食動物である」と、以下ののように述べています。
 われわれにとって一番の蛋白源とされている「肉」は、実は人の体に適していないのである。本来、人間の食性は雑食性のように思われているが、実は草食性なのである。草食動物にしか見られない歯の並び方が、それを物語っている。
 そもそも私たちの体の蛋白は、全部自分の消化器官で造っているから、さらに肉食で蛋白質をとる必要はまったくない。あくまでも、嗜好(しこう)食品としてなら食べてもいいという程度のものである。肉を食べなければ生活できないとか、スタミナがつかないとか、成長しないとか、というのはデタラメもいいところである。
 消化液の性質をみても、肉食動物と草食動物は違っていて、草食動物は、肉食動物のような強力な蛋白質分解酵素をもっていない。肉の中に含まれている蛋白を、アミノ酸くらいの状態に、ある程度分解する作用はあるが、それ以上の作用をもっていない。また、肉食動物と草食動物では、腸の長さが異なっている。肉食動物は短く、草食動物はかなり長い。人 間は、腸が長い部類に属している。
 草食動物の野うさぎには、大きな虫様突起がついているが、人間にも盲腸(虫様突起)がある。よく、盲腸は不要な器官だといわれるが、本来、草食動物である私たちにとっては、活動していて必要な部分である。盲腸炎にかかるのは食べるものが悪いからであって、植物性のものを食べていれば盲腸が腐ったりする心配はない。肉食動物でないのに肉をどんどん食べるから、盲腸炎にかかるのである。
 これらのことを総合してみても、人間は明らかに草食動物であり、草食動物の中の穀菜食性の動物である。


 高畑康子・福原洋子両氏は「元気な子どもを育てる健康レシピ」の中で、やはり、人間は穀菜食型の動物であるとして、以下のように述べています。
 明治以降の欧米崇拝は第二次大戦後にますます拍車がかかり、欧米流の栄養学や育児理論が自明の理として受容されるようになりました。パンと牛乳を中心とする学校給食も一役買って食のスタイルは様相を新たにし、日本人の舌はすっかり変わってしまいました。私たちが祖先から長い時間をかけて受け継いだ伝統的な食文化が破壊されたのです。
 1960年ごろから増えはじめた糖尿病、高血圧、肝臓病、ガン、脳血管疾患、心臓病、そして最近ではアトピーなどのアレルギー疾患。こうした病気の急増は急激な食生活の変化が日本人の体質と相容れないことを、何よりも雄弁に物語っています。
 そもそも人間の「食性」は穀類、野菜を中心とした<穀・菜食>型なのです。生物としてのヒトの源流は亜熱帯地域にあると言われています。この地域はまた、穀物や野菜の一番よく実る地域でもあるのです。欧米人の食性は肉や乳製品を中心とした<肉・乳食>型ですが、これはそもそも寒冷地で十分な穀物がとれないために生み出された代用食文化にすぎません。
 草食動物は、本来は肉食をしません。この自然の摂理に反する行為が何をもたらすか、日本でもついに狂牛病が出現したという「事件」から私たちが学ぶべきことは多いはずです。私たち人間は肉食動物より草食動物に近く、<穀・菜食>型の食性に従って、動物性の食品の摂取はほどほどにするのが賢明です。
 マクガバン・レポートが出てから25年、アメリカ人の食生活改善の効果が出はじめているという事実は日本では意外に知られていません。ここ数年次々に発表される食生活改善ガイドピラミッドでは、底辺に未精製の穀物をおいて、次に野菜や果物をおいています。特に幼児向けの食ピラミッドでは、豆類を毎日食べるように力説しています。上昇を続けていた子ども達の血中コレステロール値に歯止めがかかったとも言われています。
 

 ワイル博士は言う。牛乳を飲まないでカルシウムが充分に摂れるのか。この問いには「象を見よ、象は牛乳を飲んでいますか」と答えよう。
 アフリカ象の巨大な骨格、2メートルにおよぶ立派な牙。あれはみな草木に含まれるカルシウムから作られたのだ。大地に根を張る植物は土壌のカルシウムを吸収して根や葉に保有する。陸上の巨大な草食動物はみなこのカルシウムによってあのような巨体になった。
 ひとが食べる野菜もそれなりのカルシウムを含んでいる。太陽光の少ない地域の習性だろうか、西洋人は生野菜を好む。困ったことに、最近の若い女性も野菜サラダを好む。理由を尋ねると「生野菜は新鮮だから」という。生の植物の葉や茎はウシやヒツジの食べ物であって人間の食べるものではない。
 植物は生き物だ。植物の葉は、虫に食べられないように、保護膜(自然の農薬)で覆われている。草木のセルロースを利用する草食動物は胃腸内の微生物がその保護膜も含めて分解してくれるのだ。野菜は、茹でこぼす、油通しする、漬け物にする、あるいは味噌汁の具にして食べるのが一番だ。
 古来、アジア人(日本人もしかり)は、野菜を茹でたり、油で炒めたり、漬け物にしたりして食べてきた。調理すればかさが減ってたくさん食べられる。野菜中のカルシウムは牛乳のカルシウムと同程度に吸収されるのである。


 

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生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

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