山ちゃんの食べもの考

 

 

その135
 

 現在、日本人の平均寿命で男女ともに世界一です。その最も主なる要因が、日本型食生活あると、世界から注目されています。米(穀類)を中心として、四季折々に採れる色んな野菜類や海藻を食べ、動物性蛋白源としては魚類を食べる伝統的食生活であります。
 欧米の食生活に比べてカロリーの摂取量も低く、理想的なPFCバランス(栄養バランス)、つまり「カロリー摂取における三大栄養素タンパク質(P)・脂肪(F)・炭水化物(C)のバランス」がそれぞれ適正比率(P=12〜15%、F=20〜25%、C=60〜68%)に近いといわれてきました。
 しかし、食生活の欧米化が急激に進み、主食のごはんは少なくなり、農家にさえも輸入小麦で作るパン食が増えました。副食も肉類などが多くなって、脂肪の摂取量が急速に増加してきました。反面、炭水化物の摂取量の減少が加速しました。
 このため、日本人の体格も向上したといわれながらも、理想的だといわれた日本人の栄養バランス(PFCバランス)が崩れ、糖尿病や高血圧症、肥満や心臓病などの生活習慣病と呼ばれるさまざまな厄介な病気が増加し、多くの人々に健康への自身を失わせています。現代日本の食生活はもう日本型食生活とは呼べないという人もいます。
 昭和40年代のPFCバランスは12:18:70でしたが、現在のPFCバランスは14:32:54で、急激に変化しています。
 一方欧米では、従来の日本型食生活のバランスの良さが注目されるようになりました。世界がモデルとするのは決して私たち現在の日本人が営んでいる日常の食生活ではありません。私たちは今ここで、ごはんを中心とした日本型食生活の素晴らしさをあらためて見直さなければなりません。 
 しかしながら、その日本型食生活であるにしても、現在では大量の輸入農水産物に補完されて実現されているのが実情です。食料の輸入なくしては、もう日本型食生活もPFCバランスも、日々の生存さえもがままならないという状態に陥っているのです。ちなみに、こんなデータがあります。

――≪日本を代表する“天ぷらそば”の材料はどこからやってきたのか≫――
*大豆(ダシ)――アメリカ77%、ブラジル11%、パラグアイ6%、日本3%
*そば――中国71%、日本18%、カナダ8%、アメリカ6%、
*えび――インドネシア22%、インド21%、タイ13%、日本7%
*小麦――アメリカ48%、カナダ25%、オーストラリア19%、日本9%
さて、あなたの食べる天ぷらそばの自給率は何%でしょうか。


 食生活の内容は、食糧自給率に大きな影響を与えています。ごはん食を毎日しっかり食べることは、食糧自給率アップのためにも大切です。ごはんを中心とする日本食が世界中から健康食として注目を浴びている理由は、PFCエネバランスのよさにありますが、それは、日本人がふだん食べてきた朝食の「ごはん+具たくさんの味噌汁+漬物+日本茶」の組み合わせのことです。
 ごはんを主食とし、野菜や海藻、芋や大豆、魚を中心とした伝統的な食事に、わずかの肉類や乳製品、果実などが加わったものが、最も理想的とされる「日本型食生活」であるとして、今、世界的にも注目され広まりつつあるのです。
 ところがその本家である日本では、どんどん米の消費量が減少し、一時の半分になっているのです。当然の結果として副食も大きく様変わりしてきました。年々食事が洋風化して高脂肪となり、PFCバランスがくずれ、これが食料自給率低下の大きな原因になっているのです。

 例えば朝食の食料自給率を和食・洋食で比べた場合、

■和風メニュー:――ごはん、みそ汁(豆腐、わかめ、米味噌)、ほうれんそうのおひたし、生卵、納豆(1/2パック)、さわら(一切れ)
◇熱量:561 kcal、◇脂質エネルギー比率:25 %
この場合、食料自給率は56 %、になります。

■洋風メニュー:――トースト(食パン、バター)、オムレツ(鶏卵、油)、ウィンナー(2本)、野菜サラダ(レタス、きゅうり、ドレッシング)、牛乳
◇熱量:555kcal、◇脂質エネルギー比率:53%
この場合、食料自給率は14%、となります。
 あなたの日々の買い物行動や食のあり方は、食料自給率何%になるのでしょう。


 最終消費された飲食費の「産業部門別」帰属割合、つまり、「消費者(国民)が支払った飲食費の何%が生産者、食品メーカー、飲食店、流通業者の収入になったか」を示す農林水産省の資料があります。
 それによると、平成7年度、国民は飲食費として約80兆円を支出しました。そのうち、関連流通業が手にしたのは全体の34.7%にのぼります。食品工業が手にしたのは32.1%、 飲食店が手にしたのは19.1%です。そして、農水産業が手にしたのは総支出額のわずか14.1%に過ぎないのです。つまり消費者が支払った飲食費100円のうち、農水産業が受け取ったのはわずか14円ということになるわけです。
 これを昭和50年度でみると関連流通業は25.7%、食品工業28.8%、 飲食店15.0%であるのに対して、農水産業が手にしたのは30.8%でありました。
 消費者が飲食費に支払った金額100円当たり、昭和50年度には30円あった農水産業の手取りが、平成7年度では半分以下の14円になったのです。
 私たちの食生活の変化、つまり食の洋風化、食の外部化、調理の簡便化、加工食品の多用、ハレ(祭事など特別な)の日の食事の日常化などが、具体的には手作りに代えて冷凍食品・レトルト食品・インスタント食品・惣菜・外食などの「簡便性とサービスの購入」が増大するにつれて、日本の農水産業を衰退させてきたのです。私たちは、そんな意識のないままに、“農家や漁業家を豊かにしない食べ方”を選択してきたことになるわけです。


 また、私たちの食生活の大きな変化<洋風化、簡便化、加工食品の多用>などが、食料品の消費・購入形態の変化となって現われてきました。「食」の外部化が加速度的に進んでいます。その結果、≪食と農≫、≪食と生産現場≫の距離がだんだん拡大していき、人々の「食」に対する基本的な知識も乏しくなって、健康志向が高まりつつも、けっして健全な食生活が営まれているとはいえない状況です。ことに子供たちや若い世代ほどそれが顕著です。
 消費者が自分の口にする毎日の食べものについて、それがどのように作られたものなのか知らされないまま、分からないままになっています。その生産段階への関心や知識を持つことは、良い生産者や流通業者を育て、生涯にわたって健康な生活を送るためとても大事なことなのです。
 買い物の仕方によって農水産業が受け取る金額が異なってくることを示す農林水産省の「食品購入形態別帰属統計」があります。それによると、1990年についてみれば、消費者が調理の手間を惜しまずに野菜や魚介類などの生鮮品を直接利用すれば、消費者の支払う金額の58%が国内の生産者の所得になることがわかります。
 これに対して、レトルト食品やインスタント食品など加工品の購入した場合にはわずか10%、外食では、なんと7%しか生産者の所得に結びつかないといいます。
 つまり、私たちのあまりにも簡単・便利・安価を求める購入態度は、国内生産者への帰属割合(手取り)を低下させ、結果的に日本の農水産業を衰退させることになっているのです。私たち消費者は、以上のような食品購入形態と帰属割合との関係を「食の基礎知識」として知っておく必要があるのです。


 ところで、私たち日本人の飽くなき「巨大な胃袋」は、環境に対してもさまざまの弊害をもたらしています。世界一の食糧輸入国であるということは、世界一の窒素輸入国でもあるとうことです。大量の窒素の流入で日本は深刻な窒素過剰の状態に陥り、窒素循環を狂わせ、国土・環境の汚染を引き起こしているのです。
 日本の窒素循環は、袴田共之氏らがまとめた92年のデータよると、外国から食料・飼料の形で入ってくる窒素はざっと92万トンで、これは化学肥料の57万トンよりはるかに多くなっています。 食料・飼料の窒素の大部分はめぐりめぐって、人や家畜から排泄(はいせつ)されます。その量は生ごみなどを含めて人が74万トン、家畜が75万トン。人間の分の多くは高い経費を払って焼却していますが。環境への影響が深刻なのは家畜です。
 日本土壌学会編『土の健康と物質循環』によると、輸入及び国産の食料や飼料を消費することにより発生する人間・家畜・家禽の排泄物および残飯、食品加工業から出る有機性廃棄物は、1992年度時点で175万トン。そのうち農地にリサイクルされたのは約53万トン、残りの約120万トンは農地以外の環境中に放出されたと推計されています。
 これは1960年時点の3倍強に当たります。これら環境中に放出された有機性廃棄物は、地下水の硝酸汚染、河川・湖沼・内海・内湾における富栄養化(青子や赤潮の発生)、水道水の異臭味などさまざまな環境汚染や健康被害を引き起こします。この点を指して、三輪睿太郎氏は「食糧の輸入は“地力”の輸入であり、“汚染”の輸入である」と指摘しています。窒素汚染の大きな原因は化学肥料や農薬、家畜の糞尿、生活排水でありますが、この観点に立てば、食料の最終消費者であるわれわれは、食べ方(食のスタイル=食の近代化)を介して間接的に窒素汚染に関与しており、応分の責任があるといえます。


 個々の企業や団体にとっては当然とされる合理的な経済活動や利潤追求のありかたが、結果的には日本農業を農薬・化学肥料多投型の農業に変質させてきたといえます。ここの立場による要求と行動は大まかに次のようにいえます。
@【生産者】の要求と行動――市場で高い評価を受け手取引される見栄えよく客受けする商品価値の高い商品、売れる商品を、できるだけ手間隙をかけず合理的に大量に生産し、農業所得を高めたい。
A【消費者】の要求と行動――キズや虫食いの痕がなく、姿形が良くや色艶のよいきれいな農産物を、一年中好きな時に好きなだけ、できるだけ安い価格で購入したい。
B【卸売市場の荷受会社】の要求と行動――取引き荷口単位の大口化や生産物の規格化などにより、市場取引の合理化・効率化・差別化および取扱量の増加等を図り、経営を合理化し、それに市場を誘導して手数料収入を増やしたい。
C【スーパーマーケットなど小売店】の要求と行動――消費者ニーズに合致する色艶・形状の良い「規格品」を、一年中豊富に品揃えして、顧客に低価格で提供し、販売成績を高めたい。
D【外食産業】の要求と行動――チェーン化・集中調理・調理の全国統一マニアル化などによる省力化・コスト削減・商品標準化のため、「規格化された安い農産物」を、一年中、安定的に確保したい。
E【国や自治体の農業政策+大学・試験研究機関での技術開発】の要求と行動――省力・多収穫の効率的な栽培技術を開発・普及し、かつ、収益性の高い、消費者ニーズに合致した市場適応型農業を政策的に推進して、「産業として自立できる農業」を確立させたい。
 こうした個別のミクロ・レベルにおける合目的的行動選択の集積が、日本農業のあり方というマクロ・レベルにおいて矛盾した結果を招来しているのです。
 私たちは誰はばかることのない「消費者としての当然の要求」だとして供給側に突きつけている諸条件が、結果的に「生産の大規模単作化・施設化、産地の遠隔地化、地方卸売市場の弱体化、青果物の過剰規格・過剰選別、農薬・化学肥料・動物医薬品への過度の依存、地力低下、連作障害の多発、野菜の硝酸汚染」などの悪循環を生み出しているのです。
 いな、消費者だけではなく、農業、食品加工業、流通業、外食産業、小売業、農林水産行政、試験・研究などに関わる人々すべてが、「安全性に疑問のある食べものが氾濫する悪循環の形式」に関与(加担)しているのです。そうとは意識せずに加担したという意味において、無意識の加担者になっているのです。


 生産者にとっての農法とは、つまるところ、その「生産者の『農』に向かい合う姿勢の表現であり、生産者個々人の生きかたや価値観そのものを端的に示したもの」であります。
 同様に、買い物は「消費者一人ひとりの『食』に向かい合う姿勢、生き方、価値観を端的に表現したもの」であります。(安達生恒『日本農業の選択――農と食をつなぐ文化の再生』友斐閣選書)。
 私たちの買い物は選挙の投票に似ている。と足立氏は以下のように言います。
 さしずめ、紙幣は投票用紙であろう。候補者名を記入する代わりに、消費者はそれを支払う。消費者が支払った紙幣は最終的に農業所得となって、生産者のもとに集積する。そしてその多寡が、当該生産者(あるいは国内農業)が消費者に支持されたか否かの判断指標となる。
 支持なき候補者は落選する。同様に、支持なき生産者は経営に窮する。国内生産者の≪得票率(支持率)≫が時間の経過とともに継続的に低下しているという、厳然たる事実がある。つまり、日本の消費者は投票(買い物の仕方)を通じて、結果として、国内生産者への不支持を明確に表明しているのである。
 そういう解釈は本意に反する、と消費者は言うかもしれない。各種の世論調査では、農業・農村の存在意義を評価し、基本食料の自給率向上を求める声が多数派を占めているにもかかわらず、飲食費の帰属割合に現れる≪支持率≫は明確に逆の報告に推移している。それはなぜなのか?
 商品陳列棚の前に立ったとき、価格、外観、サイズ、品質保持期間、消費期限などのほかに、何を規準にして毎日の商品選択を行ってきたか。消費者一人ひとりが自分の購買行動を振り返ってみれば、本音(支持率の低下)と建前(世論調査)との間になぜ乖離が生じるか、理解できるに違いなかろう
 選挙で候補者の選択を誤れば、ヒトラーが政権につく。同様に、われわれ一人ひとりの食べ方の歪み(熟慮なき投票)がマス(衆・塊)となり、時代を反映した歪んだ消費の型と思想を形成するとき、生産の型も歪む。その歪みは国境を越えて海外にまで波及し、第三世界に住む人々の生活破壊や資源収奪につながる危険性を孕んでいる、猪口邦子氏の表現を採用すれば、その意味において、≪食・農・環境の質は、消費者(国民)一人ひとりの質の投影≫ということができよう。


 行政もマスコミも、口を開けば「消費者ニーズに合った生産を」とか「消費者の視点に立って」といいます。しかし、よって立つべき消費者の視点、消費者の選択や需要の実体が自覚のないものであるとすれば、消費者ニーズへの適応は単なる無思慮な迎合となり悪循環を繰り返すことになるわけです。
 現実、これまでも時代の要請にこたえ、消費ニーズに合った生産システムが、理論と政策の両面から推奨されてきたのです。消費者ニーズの大きな流れに適合してきた結果が今日の日本の食糧事情であるといっていいでしょう。
 この悪循環からの脱却には、私たち一人ひとりの食に対する考え方、買い物の仕方、すなわち投票の仕方の変更が必要なのです。


 

ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。

 

生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
L ife A griculture F oods

FAX :076-223-2005
mail :m.ikeda@ninus.ocn.ne.jp

池田 優

 

 

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