山ちゃんの食べもの考

 

 

その137
 

 世界貿易のシステムによって貧困に追いやられている途上国の人々にたいして、現地の商品を適正な価格で購入することによって、人々が自らの手で経済的な自立を築くのを支えるフェア・トレードがあります。このフェア・トレードについて、足立恭一郎氏は次のように述べています。
 社会的に公正な取引=フェア・トレードは

@農業労働者への正当な賃金の支払いと良好な労働条件の確保。
A牛・豚・鶏など量産家畜に対する生き物としての適正な扱い(たとえば、鶏のくちばし切除・豚の尻尾切除・動物用医薬品の多投・過密飼育などの禁止)。
B環境汚染や環境破壊に対する適切な防止策。

など、人・動物・自然環境などに「優しい(fair)」「適正・公正(fair)」な方法で生産された農畜産物かどうかを、購入(取引・貿易)時の判断基準にしようということである。
 それはアメリカやケアンズ・グループ(カナダ、オーストラリア、ニュージランド、ブラジルなど18カ国)など、農産物輸出国が主張する貿易保護削減(完全自由化)論に対する対抗概念となっている。
 参考までに解説すれば、農産物輸出国側も輸出補助金、国内価格支持、高率関税、輸入割当、非関税障壁(検疫の強化など関税によらない障壁)などを、保護貿易主義的で「不当・不公正=アンフェア(unfair)」な措置だと撤廃を求め、公正(fair)な競争を主張する。
 だが、「健全な未来のための倫理的また道徳的基準」を重視する人々は「資源を使い捨てにする効率一辺倒の≪粗野な生産方式≫と、環境保全などに留意した持続的で≪慎み深い生産方式≫とを、無条件に市場競争させるのはフェアではない」と反論している。
 このように、同じ≪フェア≫という言葉を使用していても、アメリカやオーストラリアなど新大陸型の志向と、EUなど旧大陸の思考との間には大きな違いがあることに、留意する必要がある。


 「フェア・トレード」ただ資金的援助をするのではなく、途上国の弱い立場の生産者を、彼らの作る商品を買うことにより、持続的な生活向上が得られるように支援しようとするものです。従来のような強者が弱者を搾取するような貿易では切り捨てられがちだった途上国での生産が、環境に与える問題も考慮しつつ、かつ生産者が継続的に自立することを支援していいこうとするものです。買い物を通してできる身近な国際協力をしようとする考え方です。
 しかし、これらは理解のごく限られた人々による消費者運動であって、大量に流通される一般のマーケットとの接点は小さく、輸入額も限られています。
 そこで、途上国の生産者の声にもっと多くの人々の理解を求め、フェアな値段でこの運動に応えて欲しいと考え出されたのが、フェア・トレード・ラベル運動です。1988年にオランダではじまり、1997年には、世界各国にあるフェア・トレード・ラベル運動組織が一つにまとまり、FLO( Fairtrade Labelling Organizations International ) という国際ネットワーク組織が設立されました。現在の加盟国は、ヨーロッパのほぼ全域と、アメリカ、カナダ、日本の計17ヶ国。中南米、アフリカ、アジアの計29ヶ国、350生産組合がFLOに生産者登録しているといいます。


 日本では、1993年にいくつかの市民団体(NGO)と教会組織が集まってトランスフェアジャパンが設立されました。FLOは、フェア・トレードの国際基準を設定し、それを守って輸入された商品にラベルを与えることで、それまでなかなか一般のマーケットに広げにくかったフェア・トレード商品のマーケットシェア拡大を目指しています。
 一般の業者でも、このルールに賛同しフェア・トレードに参加することができるようになり、スーパーにもラベル商品が並ぶようになりました。
 基準を守って輸入された商品には、フェア・トレード商品であることをあらわすラベルを貼ることが許され、消費者はそのことを理解して、あえて割高でもラベル付き商品を選んで購入し、途上国の生産者を支援することができます。
 この運動の中心的役割を果たしてきたオランダでは、消費者の90%がラベルの意味を知っているほどに普及していますが、日本での理解者はまだまだ少数です。
 「第一に現地の人たちの自立を目指す」というフェア・トレードの考え方は、お金やものを与えるかたちの援助ではなく、現地の人たちが自分の手で問題を解決していくことを重視しています。


「フェア・トレード」運動を推進しようと人々は次のように呼びかけています。

@、買う前によく考えよう!
 スーパーやコンビニであふれんばかりに売られる食品。「安い!」と買い物かごに入れる前に、その食品の「素性」を考えてみて。もしかしたら、あなたの買い物が途上国の貧しい生産者を食べていけなくすることに加担しているかもしれないのです。

A、フェア・トレードで輸入された食品を買おう!
 フェア・トレードの食品は農民の協同組合で生産されており、生産者は労働の対価に見合った収入や、より良い労働条件を得ることができます。日本でも無農薬で栽培されたコーヒーや紅茶、ドライフルーツ、バナナなど、様々な食品がフェア・トレード団体によって紹介されています。フェアト・レードの食品を一人でも多くの人が購入することが、一人でも多くの生産者の生活向上の機会をつくることになるのです。

B、もっと、この問題を知ろう!
 私たちにとって、世界経済の実態や決定プロセスは見えにくく、受け身になりがちです。でも無関心でいることは現状を追認することになります。現状の貿易のあり方に異議を唱え、積極的に自分から情報にアクセスして確かな目を持ちましょう。より良い貿易、フェア・トレードを実現するために今こそ行動しましょう。

C、NGOの活動に参加しよう!

 フェア・トレード団体の多くはNGO(非政府組織)でフェア・トレードの他にも貧困の解決を目指したサポートを行っています。また、フェア・トレードに限らず国際協力を行っているNGOは数多く、植林、医療活動、人権擁護など様々な活動をしています。「政府」でも「企業」でもない「市民」の団体であるNGOの活動に参加することは、問題解決のために私たちにもできる重要なことなのです。


フェア・トレード運動の考え方を次のように述べています。

1、継続的な取引を前提とする

2、環境に配慮し、持続可能な生産を前提とする

3、伝統的な技法、農法による生産を行っている

4、生産者の自立の為のプロジェクトとして行われている事業である

5、支援事業であると同時に、貿易事業としても収支が合う物である

6、商品として一般市場に流通可能な品質のものを提供できる

7、生産者の要請、ニーズに基づいた対等な事業である

などを満たす事業と考えます。
 しかし、欧米を中心に発展してきたフェア・トレードの概念ですが、強国の発想には、施しの感覚が強いと言わざるを得ません。つまり途上国の物を慈善的な意識で購入する、その商品が欲しいというよりは、募金の変わりに購入するといった感覚が強いのです。このような感覚があるために、一部からはフェア・トレードとは先進国の押し付け的な考えである、という批判もでます。
 商品として市場に通用する物である事で初めて継続的な取引が可能になります。現に欧米の手工芸品に関するフェア・トレードでは、その取引量が下降の一途を辿っています。アジアの中の一員である日本は、アジア圏の唯一のバイヤーであると同時に欧米とは異なる価値観を持つ事が出来ると考えます。今後、日本と他のアジアのNGOを中心に新たなフェア・トレードの概念を築き上げることが重要な課題となるでしょう。と述べています。


 貧困な途上国では、先進国の巨大資本によって、人々が低賃金で扱われていること、子供たちが学校にも行けず働かざるを得ないこと、過酷な条件のもと奴隷のごとく強制的に働かされていることを聞きます。
 グローバリゼーションの増加、アンフェアな自由貿易の拡大が貧富の格差をさらに増大させ、途上国の環境破壊をますます悪化させています。
 グローバル化が進められると、競争力のない地域の人々はますます経済的にも政治的にも弱者へと追いやられ、その地域に根付いている産業も文化も押しつぶされてしまいます。力を持った国や企業が力を持たない国や地域の資源を収奪することでますます強く大きくなり、収奪された国はますます弱体化するという、いびつで不公正な構造に拡大するばかりです。現在、60ほどの巨大企業が世界の食品加工の70%を支配するようになり、20ほどの企業が世界の農産物取引の大半を占拠し、穀物からコーヒー・紅茶・バナナ、そして鉱物資源に至るまで、その貿易の6割から8割が3から5ほどの巨大多国籍企業によって取り引きされているという。
 貧富の格差はますます広がるばかりで、世界で最も裕福な20%の人々は、最も貧しい20%の人々の60倍もの収入を得ているといいます。
 外国から多くの食べものが安く買える私たちは、それらの商品がフェアな取引によっておこなわれたものなのかどうかを考えてみる必要があります。


 エリック・シュローサー著『ファストフードが世界を食い尽くす』(草思社)によると、一世代前のアメリカでは食費の4分の3が家庭で作られる食事に当てられていたが、今日では食費の半分が外食店、それも主としてファストフード店に支払われているという。アメリカでは母親の3分の2が就業しており、食卓が巨大企業の支配下に組み込まれ、もう家庭料理が消え去ったという。
 ファストフード・チェーンはアメリカ農業を牛耳る頂点に立ち、多国籍大企業が、商品市場を次から次へと独占していく。農家や酪農家は自営できなくなり、大企業の下請けになるか、泣く泣く土地を手放し、家族経営の農場は大企業の経営する農場に取って代わられる。
 エリック・シュローサー氏は言う。「私が何よりも気にかけているのは、子どもたちへの影響だ。ファストフードは子どもたちを対象に大量に販売され、その子どもたちとはさほど年齢の変わらない子どもたちによってつくられる。この業界は、年少者に食べ物を提供すると同時に、年少者を食い物にしているのだ。」


 世界各地から安い食料を買いあさって食の多様性を誇るわが国ではありますが、本当にそうであろうか。見せかけの豊かさや多様性とは正反対に、私たちの食卓は、食の外部化の拡大にとって自然から遠のいた、人工的に作られた食べものや味に画一化されていていないだろうか。
 大企業の資本力によって、農産物の品種や栽培管理、その加工方法や食品の開発が集中化され画一化の方向に進んでいっています。グローバルスタンダードの拡大によって、世界の農業も食糧も、暮らしぶりや文化をもが、独自性・多様性を失っていきます。
 私たちの食卓の豊かさは幻のものであり、日本という地域の豊かな自然、気候風土に根付いてきた農業、伝統的な食文化、環境、景観、社会システムを崩壊させていくようです。






 

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生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
L ife A griculture F oods

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池田 優

 

 

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