山ちゃんの食べもの考

 

 

その138
 

 食料自給率が40%、世界一の食糧輸入大国になって、スーパーマーケットなどでは外国産の農産物や食品が多く出回っています。なるべく国産をと思っている人でも、私たちが実感している以上に外国産の食べものに依存しています。それは消費者には直接それとは目に付かない形で、輸入食品の多くは外食産業や食品加工産業によって大量に使われているからです。
 そして、それらを原料とする、いつでもどこでも、簡単、便利、安価で食べることのできるファスト・フードやファミリーレストラン、弁当、惣菜、調理済み食品として私たちの食生活に大きな場を占めるまでに定着しました。
 その影響で、食生活の急激な変化が起こり、人々の健康生活を脅かし、伝統的な郷土料理や家庭料理を喪失させる状況なって来ました。
 これに対して、伝統料理や郷土の食べものを大切にしようとする「スローフード運動」が世界的に広がってきました。料理等の多様な味の世界を大切にしようという「スローフード運動」が広がりつつあります。スローフード運動は@伝統料理を守る。A質の良い食材を提供する生産者を守る。B子供達を含めた消費者に味の教育をすすめる。という3つの考えを基本に活動されています。
 日本には「身土不二」や「地産地消」という言葉があります。人々は住んでいる土地で、その季節に取れた農産物を食べてきました。そして、それが一番体にいいという意味で、少なくとも国産にこだわりを持ちたいものです。


 「食事くらい、ゆっくり食べようじゃないか」と、イタリアのジャーナリスト、カルロ・ペトリーニ氏が提唱した「スローフード」運動。その「スローフード宣言」のなかで「私たちはスピードに束縛され、習慣を狂わされ、家庭のプライバシーにまで進入し、ファスト・フードを食べることを強制されるファース・トライフというウィルスに感染しています。そこで、ホモ・サピエンスは聡明さを取り戻し、我々を滅亡の危機へと追いやるスピードから、自らを解放せねばなりません」といっています。
 「“早い(fast)、気ぜわしい食事”に対抗する“遅い(slow)、ゆったりとした食事”があって然るべし、というのが命名の動機だ。スローという表現はファストの反対語。ちょっとしたジョークだった」いう。
 1985年に起きたマクドナルド第1号店のローマ進出をめぐる騒動を機に、86年イタリア北部エモンテ州トリノ市の南にアタブラという町で「スローフード協会」が誕生。ファスト・フードによって、全世界で味の均質化が起こっていることに危惧を抱いたイタリアの人たちが、地元の食材と「食」にまつわる文化を大事にしようと取り組み始めたものです。
 89年に「スローフード宣言」を発表し、それに共感する人々がいま日本を含めた45カ国に約7万人がいるという。彼らは世界の百数十都市に設けられたコンヴィヴィアと呼ばれる500ヶ所以上の拠点を中心に、「スローフード運動」を展開しています。


 島村菜津著『スローフードな人生!』によると、ファスト・フード的な思考及び生活様式、すなわち「現代世界を席捲する“急ぎの生活(fast life)”という病菌、効率主義、画一主義、割安原料の地球規模的買い漁り、また、フォーディズム(ベルトコンベア式生産ラインによる規格品の大量生産・大量消費・大量廃棄)、などに由来する「食の均質化」「没個性化」といった全世界的な狂気に立ち向かおうとするものだという。
 「スローフードとは、ただ単純に“ゆっくり食べること”でも“伝統的な食事にかえればいい”ということでもなく、ファスト・フード的な物の考え方や暮らし方に反旗を翻すことなのです。小規模であっても良いものを作り販売している人たちが経済優先・効率本位に進める大量生産・大量販売の波に飲み込まれないように守っていきましょうということ。子どもたちも含めて確かな食べものの味の教育をしていきましょう。そして、世界の各地域に根付いてきたそれぞれの食材や郷土料理、食文化を大事にしていきましょう。というものです。」
 「食は人と人をつなぐきわめて文化的な行為だと思います。スローフードの流れが、現在の生活習慣そのものの流れを変えることもできると思います。また、地方から世界の流れを変えることだってできます。」


 足立恭一郎氏は「思うに、フード・マイル、フェアトレード、スローフードなど、現在ヨーロッパ諸国を中心に展開されている“食のパラダイム(価値体系・思考の枠組み)転換”の試みは、30年以上も前から、草の根運動として展開されてきた日本の有機農業運動、すなわち、生産者と消費者の“顔と暮らしの見える有機的な人間関係”を基盤にして展開する産直・共同購入運動(産消提携運動)に似ている。否、有機農業運動の理念そのものといっても過言ではない」と述べています。
 フード・マイルは、1971年に約3000名の会員によって結成された日本有機農業研究会が掲げた、「身土不二」「地場生産・地場消費」「地域自給」「地産地消」のどの理念に一致する。
 日本有機農業研究会はつぎのような主張を掲げています。
* 消費者と生産者は生命と暮らしを守る同行者(パートナー)
* 生産者は消費者の生命に責任をもち、消費者は生産者の生活に責任をもつ
* 食べものを工業製品と同次元の≪商品≫とはみなさない
* 自給する農家の食卓の延長線上に、都市生活者の食卓を置く
* 献立に合わせた食材の選択から、四季折々に供給される自然の恵みを「間引き菜から薹(とう)が立つまで」(一物全体=畑まるごと)利用する≪畑に合わせた献立の工夫≫へ
足立氏は、これらの行間から、日本の有機農業運動においては、《土との関わり方が己の生きかた》だと価値転換した生産者と、《食べ方はすなわち行き方》だと心得る消費者が固く連携していることが伺える。と述べています。


 日本有機農業研究会が発足した1971年当時は、高度経済成長期の真只中にあり、農業においても生産性を上げるために農薬・化学肥料・薬剤を大量使用する近代化農業が推進されていました。そうした中で、生命・健康を脅かされ、家畜の異変や土の疲弊、環境の悪化等を感じとった生産者やその家族たちが、環境や健康を破壊しない農業を実践し始めたのです。
 一方、食べものの安全性と農業・環境の現状に強い不安を抱いた消費者(都市生活者)たちは、無添加食品や 安全な卵・牛乳などを求めて活動を始めました。
 日本有機農業研究会の結成は、これらの生産者と消費者を結びつけるとともに、相互の協力連帯のもとで有機農業を確立し、社会的に広げていくことになりました。
 会の目的には、「環境破壊を伴わず地力を維持培養しつつ、健康的で味の良い食物を生産する方法を探究し、その確立に資するとともに、食生活を はじめとする生活全般の改善を図り、地球上の生物が永続的に共生できる環境を保全すること」を掲げています。
 現在約4000名の会員が各地で活躍しています。


 生産者と消費者が協力して有機農業を進める活動の方法について、日本有機農業研究会創設者の一楽照雄氏が起草した「生産者と消費者の提携」は当会の基本的な活動の指針となっています。
 生産者と消費者の提携の本質は、物の売り買い関係ではなく、人と人との友好的付き合い関係、対等の立場で、互いに相手を理解し、相扶け合う関係であるとする相互扶助の精神。それは生産者、消費者としての生活の見直しに基づかねばならない。生産者は消費者と相談し希望する物を、希望するだけ生産する計画的な生産。希望に基づいて生産された物は全量を引き取り。交流を深め相互理解の努力。農産物の選別・包装を簡略化する。自主配送を原則にする。自給する農家の食卓の延長線上に都市生活者の食卓をおく。間引き菜からとうが立つまで食べる。一物全体食などに努める。
 また、消費者も農作業を手伝い、農業に触れること、互恵精神に基づき、話し合って価格を決めること、学習活動を重視するなど、理想に向かって共に有機農業を実践、自然を大切にした有機農業的な生活をしていくこと。を説いています。


 人間の自立と互助を根底にすえ、協同組合運動に情熱を注いだ一楽照雄氏。協同活動の目的は、構成員の暮らしを守るだけでなく、公正な社会の実現にあるとした。あるべき姿の農業に思いをめぐらし、有機農業を提唱し、生命と環境を何より大切にする社会を描き、1971年に日本有機農業研究会を設立した氏の高い理想と哲学は、世に一楽思想と呼ばれ、また、すぐれた指導性によって有機農業の師父と敬われました。
 「有機農業」という言葉は、昭和49年にアメリカのJ.I.ロデイルの著書を訳す際に訳者の一楽照雄氏がはじめて使ったという。そして、その目指すところは、化学肥料や農薬の多投によってゆがめられた農業を、本来の姿に可能な限り近づけようとするものでした。
 また、一楽天皇の異名を取った故一楽照雄氏は、“有機野菜は商品ではない、対価のお金は代金ではなくお礼だ”、という有名な言葉を残しました。
 有機農業を考えていくうえで大切なことは、その栽培方法や技術的な視点にあるのではなく、最も大切なことは、人間の健康や伝統的文化、自然環境等を破壊して省みない経済効率優先の大量生産、大量消費、大量廃棄物という、歪められた現代の科学的農法や社会経済的構造を変革していくことにありました。
 自然生態系を重視した自然循環的な農法、安全で安心な食べ物を持続可能な農法によって確保し、人々の健康な生活を創出する新しい農業生産の仕組みと身土不二の真に豊かな暮らしを構築しようとするものでした。


 大量生産・大量消費・大量廃棄という、歪められた資本主義的な市場経済に対応した大規模生産による急激な農業生産力の発展は、農薬・化学肥料等化学物質の大量使用をつくりだしました。その結果、食の安全と健康問題は、大きな社会問題となって現れてきており、農業による土壌汚染、水質汚染、大気汚染という深刻な環境破壊の問題が生まれています。人間の生活にとって、あたりまえに存在していた美しい自然、空気・水・土・森林・河川・湖沼が、環境破壊によって危機にみまわれているのです。
 産消提携による有機農業運動は、こうした農薬や化学肥料を多用する大規模化した農業による弊害から、きれいな環境を守り、健全な農業を守り、食の安全と人々の健康を守ろうとする、自然循環的な農村と都市の住民との連帯と共生の考え方、人間としての生き方を問う社会的な実践運動として生まれてきました。
 有機農業研究会の「有機農業辞典」の中で、天野慶之氏は,有機農業運動について、「有機農業運動は、無農薬栽培とか化学肥料拒否農法などの即断することがありとすれば,やや本義から外れる結果になりかねない。つまり,そのような技術的解釈だけでは済まされないものが、有機農業、少なくとも有機農業運動の中に込められているということである。人の命を維持する貴重な食糧の生産が、いまどのような状況下で行われ、どのようにして人びとに届けられているのか。それに無関心でいてよいのか、修正するとすればどの部分なのか、あるいはすべてにわたってなのか――こうした日本人の生き方にかかわる問題を含んでいるということなのである。」と述べています。


 

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生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

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