山ちゃんの食べもの考

 

 

その141
 



野菜の鮮度と栄養 (2)

●冷やして眠らせる「低温管理」
人間でも安静に眠っているときが一番エネルギーの消耗がもっとも少ないですね。熊など、冬眠してエネルギーの消耗を防ぎ、何も食べず長い冬季を過ごす動物がいます。

野菜の保存にも、無駄なエネルギーを消耗しないように、もっとも適切な環境条件を整え、やさしく休眠状態で保存することを心がけましょう。
野菜の中でも、呼吸作用の激しい葉物野菜などは、低温下に置くことによって休眠状態となり、呼吸量が低く抑えられるので自己消化活動が緩慢となります。したがって水分や糖分などの減少が抑えられ、その効果は顕著に現れます。だからスーパーなどでも、多くの野菜は低温管理され、冷蔵ケースに入れて販売られています。
 
ただしこの場合、たとえ低温化においても、周りが乾燥していたり、風に当たったりしていたのでは、洗濯物を物干し台に吊るしたようなもので、水分がどんどん蒸発(蒸散作用)して萎びてしまいます。切り干し大根や干し大根を寒風下にさらすようなもので、乾物になってしまいます。だから、適度な湿度与え、ビニール袋に入れたり、ポリエチレンでラッピングして乾燥を防せぎ、低温保存します。
 
この時、袋を完全に密封してしまうと、呼吸をして生きている野菜や果物は窒息して死んで(腐って)しまいます。野菜や果物包装の袋に小さな穴が開いているのはそのためです。また、野菜を丸ごとラッピングしている野菜用のラップには、目には見えませんが空気が通る微小な穴が開いていて、わずかな呼吸ができるようになっているのです。それで内部が蒸れたり曇ったり水滴が溜まったりすることがないのです。
 
だからといって、どんな野菜でも冷やせば良いというものではありません。低温障害というのがあって、熱帯生まれの野菜や果物は概して低温に弱く、冷やしすぎると逆に鮮度低下を早め、障害を受けてまずくなり食べられなくなり、傷んでしまいます。
ナス・キュウリ・トマト・カボチャ・サツマイモ・サトイモ・ショウガ・ジャガイモなどで、10〜15℃の冷暗所で貯蔵するのがよいとされます。

●栄養・おいしさを逃さない「適温管理」
先にも述べたように、どんな野菜でもただ冷やしさえすればよいというものではありません。野菜には、それぞれに適した貯蔵温度があります。大まかな目安としては、その野菜・果物の原産地が南方のものか北方のモノかによって区別できます。
原産地が南方産のものは、冷やしすぎると低温障害で風邪を引き腐ってしまうものだってあります。ナス・キュウリ・ピーマンなどの夏野菜や、バナナ・アボガド・マンゴーなど熱帯産の果物、サツマイモやサトイモが代表的なものです。
 
野菜それぞれの貯蔵適温は次のとおりです。
0〜3℃――アスパラガス、ホウレンソウ、ニンジン、キャベツ、ハクサイ、イチゴ、ゴボウ、ダイコン、ネギ、ブロッコリー、カブ、タマネギ、レタス、葉物類、カリフラワー、セロリー、スイートコーン(皮付き)、エダマメ、キヌサヤ、モロヘイヤ、ワサビ、ニンニク、ヤマイモ類など
4〜8℃――フキ、サヤインゲン、ジャガイモ(晩生)、完熟トマト、メロン、
10〜12℃――キュウリ、サトイモ、ヤマイモ、ナス、スイカ、オクラ、ピーマン、
ゴーヤ、少し青いトマト、ジャガイモ(早生)
13〜15℃――カボチャ、サツマイモ、バナナ、ショウガ
 
しかし、家庭用冷蔵庫の野菜貯蔵室は、低温貯蔵すべき野菜について大体のところ大まかにくくって、短期貯蔵に効果のあるよう、5℃を中心に設定されています。品種ごとの最適温を考慮したものではありません。いろんなものを混然と入れるために、必ずしも最適の貯蔵環境とはいえません。あくまでも短期用(2〜3日、長くて7日)のものと考えるべきでしょう。
 
高温の夏場にあっては、呼吸も激しく水分の蒸発も激しいので、すぐに鮮度劣化してしまいますから、その日に使うものであっても、買ってきたらポリエチレンなどの袋に入れるか、ラップに包んで貯蔵庫に入れたらよいでしょう。
 
注意すべきは、リンゴは成長・熟成を早めるエチレンガスを大量に放出しているので、他の野菜や果物の熟成・老化を早めてしまいます。リンゴを冷蔵庫に入れる時は、ポリ袋に入れ、野菜室とは離して保管してください。
逆に、この作用を利用して、メロンや他の果物を早く熟させたいときは、1個のリンゴを同じ袋に入れて保存すれば早く熟すことができます。
低温貯蔵(冷蔵庫内)は乾燥しやすく、特に葉物はしおれやすいので、ペーパータオルや新聞紙を水で湿らせて包み、ポリ袋に入れて野菜室にいれてください。
 
●「亭主と立ち野菜は立てて置け」
野菜は収穫後も呼吸を続けて生きていますが、呼吸が盛んな野菜ほど自己消化活動が活発となり、野菜のうま味成分である糖分やアミノ酸を消耗し、急激に老化していきます。
 
その野菜を貯蔵する第一のポイントは温度管理=低温管理によって呼吸量を抑え、冬眠状態にすることでしたが、もうひとつ大事なポイントは、野菜それぞれに適した置き方を守ることです。野菜を貯蔵するに当たって、その置き方を誤ると、鮮度・栄養・おいしさが激減します。留意すべきは〈立ち野菜〉と呼ばれる野菜です。
 
立ち野菜とは、地面に立ち、天に向かって伸びている野菜です。ネギなどで経験がおありかと思いますが、これを横にして置くと、たちまち上に向かって伸びようと起き上がって曲がってくるのをご覧になったことがあると思います。収穫後も野菜は生きていますから、畑にあるときと同じように、天に向かって成長しようと働きます。不自然な形に寝かされた野菜が立ち上がろうとする時には、大きなエネルギーを必要とし、短期のうちに多量の糖分やアミノ酸を消耗するのです。
さらにこのとき植物は、呼吸作用がさらに活発となり、成熟促進ホルモンであるエチレンガスを多量に発生します。これがまた、野菜の栄養やおいしさを奪い、傷みを早くさせる要因になります。
 
ホウレンソウを冷蔵庫で2日間、立てて保存するか、寝かせて置いたかで、美味しさの主成分グルタミン酸が34〜35倍も変わり、また、スイートコーンを、一晩、寝かせておくと、立てて置いたものと比べて、美味しさの主成分である糖分が、なんと30%も低下するといいます。
そこで相馬博士は、賢い主婦は「亭主と立ち野菜は立てて置け」と教えています。亭主はともかくとして、立ち野菜は畑にあったときのような自然な形で立てて保存するのが、栄養を失わず美味しくいただくための大切な原則なのです。
 
立ち野菜にはホウレン草・コマツナ・シュンギク・チンゲンサイ・ハクサイ・キャベツ・レタスなどの葉物野菜、菜の花・ブロッコリー・カリフラワーなどの花芽野菜、アスパラ・セロリー・ウド・タケノコなどの茎菜類、それに、ネギ類とスイートコーンなどがあります。
 
これら立ち野菜の大きな特徴は、呼吸作用も蒸散作用も大きく、したがって鮮度劣化、栄養劣化、おいしさ劣化の激しい野菜ですから、低温貯蔵し、風や乾燥からの蒸散作用を防ぎ、立て型貯蔵します。たとえそうしても長期保存の難しい野菜ですから、鮮度のよいものを求め、早いうちに食べきることが大切です。

 
●〈ぶらり野菜〉と〈土つき野菜〉
〈立ち野菜〉に対して〈ぶらり野菜〉と〈土つき野菜〉があります。
〈ぶらり野菜〉とは、茎や蔓からぶら下がって生育する野菜で、果菜類のキュウリやトマト、ナス、ピーマン、イチゴやメロン、スイカ、豆類の枝豆、インゲン、さやえんどうなどがあります。それに果実類です。
これらぶらり野菜には上下感覚があまりないといいますから、立てて保存しても横にして保存してもさして問題はありません。
ぶらり野菜の多くは南方・熱帯が原産のものが多く、とても低温に弱いので、冷蔵貯蔵にも向かないものが少なくありません。早く使い切ることです。
〈土つき野菜〉は土壌中で生育する野菜です。土の中で、立っているものと横に伸びているものとがありますが、土によって支えられて生育しているので、上下感覚には鈍い野菜ですから、貯蔵には置き方を気にすることはありません。
昔は越冬用野菜として長期保存するとき、土つきのまま土の中に埋めたり、莚や藁などに包んで湿度や温度の安定した床下などの冷暗所に、生育しているときの姿で保存しました。
最近の土野菜・根菜類は土を落として洗ったものが多く、これらは表皮を一皮剥いた裸同然の状態です。大根・にんじん・洗いごぼう・洗いレンコンなどは思ったより日持ちが悪く腐りやすいものです。これら洗い野菜は水分を含んだペーパーや新聞紙に包んで低温貯蔵します。
サツマイモや土サトイモは例外で新聞紙などにくるんで常温貯蔵します。

 
●植物成熟促進ホルモン、エチレンとは
野菜や果物は収穫後も自分の持っている養分を消耗して呼吸をしており、エチレンという、熟成や成長を促進するホルモンのを発生しています。野菜の呼吸作用が激しくなるほどエチレンガスの発生が激しく、鮮度や味が落ちてしまいます。
 
エチレンは、作物の成長や成熟を促し、葉の黄化や落葉、また開花や呼吸作用等を促進するために発生する植物ホルモンの一種ですが、収穫後においてもなお活発に発生し、熟成と老化を早める原因になります。
 
このエチレンガスは、僅かな量でも新鮮な農産物を早く老化させ腐らせる原因になります。収穫後の野菜や果物をそのまま放置していくと、自らが排出したエチレンガスでさらに自らの寿命をどんどん短くしてくということになります。
 
エチレンガスによって、葉物野菜やナスに褐色の斑点ができます。キュウリやブロッコリー、芽キャベツなどが黄色く変色します。ニンニクやタマネギが嫌な臭いを発生するようになります。野菜やしぼんだり、リンゴがブヨブヨになったり、ミカン類の表皮が黒ずんできたり傷んだりします。
 
野菜や果物は低温貯蔵(冷蔵庫に保存する)や蒸散作用防止(湿気を与え乾燥を防ぐ、風に当てない)で腐敗を遅らせる事はできますが、このことで有害なエチレンガスの発生を食い止める事はできません。そのため野菜や果物などの鮮度保持には低温貯蔵に加えて、このエチレンガスの発生を抑制しなければなりません。
一つの方法としては、冷蔵庫や収納容器の中に野菜・果物と一緒に、エチレンガスを吸着除去してくれ木炭や竹炭を入れておくと効果があります。
 
リンゴは大量のエチレンガスを発散する果物です。自ら発生したエチレンガスによって急速に鮮度低下をきたし腐ってしまいます。そのためリンゴの産地では、長期貯蔵のため、CA貯蔵といって、低温管理に加えて、貯蔵庫内の酸素と炭酸ガスの濃度をコントロールして<低酸素・高二酸化炭素>の状態に保ちます。このことでリンゴを休眠仮死状態にします。このことで、呼吸作用とエチレンガスの発生はを最小限に抑えられます。CA貯蔵によって、秋に収穫されたリンゴが、収穫時に近い品質・鮮度で、夏場まで長期保存することができるようになりました。
 
一方、エチレンガスを応用した物にバナナの色つけ・熟成があります。バナナは、遠く南方の地で、まだ硬い緑色の未熟なうちに収穫され、船に乗ってはるばる日本に運ばれてきます。港に着いた真青で硬い未熟のバナナは、バナナ加工場に運ばれ、エチレンガスの成熟、老化を促進する原理が応用され、黄色く適度な熟度に成熟させられます。

 
●なぜポリ袋に入れるのか(エチレンガス対策)
野菜や果物は収穫した後も呼吸をし、成長を続けようとします。そのため、栄養分が失われ、発生したエチレンガスによって老化します。どのようしたら家庭で野菜の呼吸を抑えエチレンガスの発生を抑制することができるでしょうか。
野菜を冷蔵庫で低温貯蔵する場合には、ポリエチレンの袋に入れるのは、このエチレンガス対策でもあるわけです。ポリ袋に入れて低温管理するることによって、冬眠状態となり、野菜の呼吸は抑えられ、水分の蒸散が抑えられ、蒸れや乾燥が防がれ、エチレンガスの発生が抑制され、鮮度を長持ちさせることができます。
 
鮮度のよい野菜を買って来たら、まず冷水でサッと洗い、余分な水気を振り落とします。シャキッと蘇生した野菜をポリ袋に入れ、封をし、冷蔵庫に入れます。
生きている野菜は袋の中の酸素を吸い、二酸化炭素を吐き出します。
袋の中は次第に低酸素・高二酸化炭素状態になっていきます。
ポリエチレンフィルムには微小な穴が開いていて、わずかに空気を通しますので、窒息死することなく、適度な低酸素・高二酸化炭素状態を保つようになります。
CA貯蔵のミニ版です。
冷蔵庫内で袋の中は低温で高湿度が保たれ、かつ、ガス調整機能が働いてエチレンガスの発生も抑制されます。
したがって野菜にとって最適の休眠状態が保たれ、鮮度の低下を遅らせることができるわけです。






 

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生命の農と食を考える
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池田 優

 

 

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