山ちゃんの食べもの考

 

その15
 

こんなにぜいたくをしていて、美食飽食、食べ過ぎの実感がない

 前回、筑波大学名誉教授・村上和雄博士著『生命の暗号A』や食生態学研究家・西村震哉著『41歳寿命説』で述べられていることを引用し、風土が育んだ伝統食を放棄した現代の美食・飽食・乱食が、日本人の健康をいかに蝕んでいるか、そして食べ過ぎがもたらす数々の疾病、健康不安からくる多くの健康補助食品、薬漬けの悪循環を繰り返していることを述べました。これは農産物栽培の場合でも全く同じであり、経済性を最優先し多収穫を目的とした現代農法では、主要素に偏重した化学肥料の大量使用が病虫害を多発させ、さらなる農薬散布で有効微生物群は死に、土が病み死んでいく。そんな悪循環を繰り返して、作物は生命力のない外観重視のものに形骸化されていくのです。そして命の本源である食べ物の作られ方、商われ方、食べ方を「悔い改め」「食い改め」なければならないと。

 以前にも記しましたが、食料自給率が40%を割り込んでいる私たち日本人の一人当り平均の食料総消費量は、世界の一人当り平均のほぼ2倍になっています。世界の人々から見ると、私たち日本人はお金の力で世界中から珍しいもの美味しいものを買いあさって、贅沢三昧の食生活をおくっているのです。その比率は日々の食の60%を越え、食べ過ぎて苦しんでいながら、美食・飽食、食べ過ぎの実感がないのです。それが恐いのです。

 

人の身体には飢餓状態がちょうどいい!?

 上智大学教授・渡部昇一、イシハラクリニック院長・石原結實共著『東洋の知恵は長寿の知恵』(PHP研究所)で、現代病は「過食」が原因である、現代日本の食生活のあり方がいかに誤ったものかを指摘し警告を発しています。

 石原先生は「人の身体には飢餓状態がちょうどいい」「もともと人類の歴史を振り返ってみますと、つい最近まで200万年の間はつねに飢餓の時代でした。私たちの祖先は、氷河期、大雪、日照り、洪水、動乱、戦争などによって起こる飢えの時代を生き抜いてきたのです。こうした経緯を経てきた結果、人間の身体には飢えに対する生命維持能力が備わりました。つまり、人間の身体はある程度の飢えには十分に耐えられるようにできているということです。

 ところが、数十年前に人類は初めて「飽食」の時代を迎えました。「飢餓」の時代から「飽食」の時代へと、新たな環境の下に置かれたのです。しかし、環境が変わっても、身体のほうは依然として飢餓に対する処理能力のみしか持ち合わせておらず、直ちに過食に適応できるようにはなりません。その結果、多くの人が糖尿病、通風、心筋梗塞、肝炎、ガン、アトピーといった様々な文明病に悩まされるようになったのです」。

 

家畜も美食・飽食・偏食の不健康体

 日本の全食料の自給率は40%弱ですが、穀物の自給率にいたっては30%を割り込み29%と世界最低レベルです。主食の米は農民に減反を強要しながらもガット・ウルグアイランドの合意に基づき余儀なく輸入を続け、米あまり現象という皮肉です。大豆の自給率2%、小麦の自給率7%程度というのも問題ですが、穀物の大量輸入を押し上げている最大の要因は、3,500万トンとも4,000万トンとも言われる膨大な家畜の飼料用穀物です(ちなみに米の消費量は約1,000万トンです)。

 ワラや草を食べる牛や、雑食動物である豚や鳥に栄養価の高い穀物を主体の濃厚飼料を与え、密殖飼育で運動を抑え、早く太らせ換金するという経済的効率を優先するものです。畜肉の生産についても多くの問題が指摘されましたが、ほんらい粗食動物であり自由に動き回って運動すべき家畜を、このような飼い方をするのですから、当然食べ過ぎ、栄養過多、運動不足でいろんな病気が発症します。そこに抗生物質、ホルモン剤、薬剤等の投与が必要になってきたわけです。

 このような飼育方法で育てられた肥満体の動物たちは健康体といえるのでしょうか。畜肉やその加工食品は、本当に安心して食べることの出来る良い食品と呼べるものなのかどうか心配です。家畜の罹患率は高く、屠殺の段階で病気になった部分が廃棄される割合が何十パーセントにものぼると聞きます。家畜の飼育の目的は、家畜の健康長寿の生命を願ってのものではなく、人間の食べ物として生産される換金動物でありますから、ある程度効率を考えねばならないことは当然ですが、良質な食べ物として考えた場合の生産方法が疑問です。

食糧不足で困っている人々が世界には8億とも10億ともいわれているのに、本来、穀菜食民族であった日本人が、人間の食料である穀物を草食動物に与え、畜肉に変えて食べるという、人類全体ではたいへん非効率なことまでして、過食や動物性食品の摂り過ぎによる病気を心配するということに、大きな矛盾と怒りを覚えるのです。

 畜肉やその加工食品については後日改めて考えてみたいと思います。

 

現代人は栄養過剰な栄養失調?

 さて、『東洋の知恵は長寿の知恵』より石原先生のお話を続けてご紹介しましょう。

 「動物は必要な分しか食べないのに、人間は食べたくなくても昼が来た、夕方が来たといって食事を摂る。必要以上に食べてしまって、それがどうしても処理しきれなくなってしまって、成人病になってしまいます」。

 ――人間は、食べる4分の1で生きている。残りの4分の3は医者が食べている――これは6,000年前のエジプトのピラミッドの碑文に書かれているもので、食べる量のうちの4分の3は食べすぎだから病気になる、それが医者の食い扶持になるのだという意味だそうです。

 「食物を摂ると人間は体中の機能、とくに消化・吸収機能をフル回天させます。そのために、排泄させる機能は低下します。つまり、過剰な摂取は排泄を抑えてしまうのです。ですから、反対に食物の摂取をやめると、ふだん食べ過ぎて処理しきれずに体内にたまっている老廃物が排泄され、自然治癒力が高まります」

 

断食で「血の流れ」を一掃できる

 石原先生は、食べ過ぎによるいろいろな現代病を治療しています。村上和雄先生が述べているように、ウッスラ飢餓感や適度な断食が、私たちの生命をつかさどる遺伝子が良い方向へONするために、想像を超えて自然治癒力が高まるからでしょう。

 「断食中にはいろいろな排泄反応が起こり、たとえばくさい息がでる、舌苔が厚くなる、皮膚がベタベタする、口内炎ができる、汚い痰が出る、色の濃い尿が出る、黒褐色をした便がでる、発疹が出るなどです。これは漢方でいうところの「万病一元血の汚れ」の考え方で説明できます。すべての病気は血の汚れによって引き起こされる、だから血の汚れをとれば体調がよくなる、あるいは、病気の進行を食い止めることができるということです。血の汚れをとる方法として、もっとも手っ取り早いのが断食療法なのです」(断食は非常に効果がありますが、自分勝手にやることは大変危険であり、専門家の指導なしにやることを厳しく戒めています)

 動物は病気になると食べることを断ち、薬を飲まないで自然治癒力に任す。

 朝食を無理して食べる必要はないし、朝食を軽くするのが知的生活をするための第一歩であるとも述べています。

 

医学博士・甲田光雄著『少食が健康の原点』(たま出版)

 大阪八尾市に断食療法で有名な甲田医院・八尾健康会館長の医学博士、甲田光雄先生がいる。多くの病院を転々としても癒されることの出来なかった難病に苦しんむ患者さんたちが、最後に甲田医院の門を叩く。先生は断食療法や少食指導で多くの人々に真の健康の喜びを与えています。

 以下、『少食が健康の原点』の「はじめに」より、一部をご紹介いたします。

 「長年の臨床経験から、次第に明らかになってきたのは、患者さんたちの病気を治し健康を増進させるキメ手となるのものはその「心」と「食」にあるということでした。筆者自身の体験からもこれを痛感させられてきたものですが、臨床体験が増えるほどますますその実感を深めることになったのであります。

 しかも、食の問題では、古来から伝えられてきた「少食に病なし」という格言が、健康長寿の秘訣として要約されることを確信できるようになったわけです。 「食」とはつまり「いのち」であって「もの」ではなく、この天からいただく「いのち」によって私たちは生かされているのであり、この「いのち」をできるだけ殺生しないという「少食」が実は愛と慈悲の具体的表現であったのです。

 この愛と慈悲の行為である少食がまた、健康法の秘訣であることを知った筆者は、宇宙の法則(神のみ心)の素晴らしい深さに感動を覚えたものであります。

 また、実際に少食を実行した人々の中から、長年困っていた胃腸病から解放されたとか、血圧が高かったのも正常に下がってきた、糖尿病、通風も治った、アレルギー病(気管支喘息、アトピー性皮膚炎など)も治ってきた等々、喜びの声があいついで聞かれるようになってくるではありませんか。

 これによって少食健康法の正しさをますます強く確信できるようになりましたが、それにつけ、少食研究への熱もいよいよ高まってまいりました」

 

空腹を大切にしなければ病気は治らない

 自然食料理研究家の榊叔子先生は、その著書『何をどう食べたら体が回復するか』(経済界発行・タツの本)の中で、ときには「食べない」ことも健康を守る秘訣です。「空腹を大切にしなければ病気は治らない」と次のように述べています。

 「一日三食は間違い」という説がありますが、三食をとってはいけないという意味ではありません。食事の時間だからと、空腹でもないのに無理食いすると病気を招くことのなるという意味です。空腹でないということは、内臓器官の受け入れ態勢が整っていないということです。そこに食物を入れたら、腸の中に消化しきれない食べカスがつかえて、宿便として溜まります。「君子の便は下痢に近し、いつも腸中さわやかなるべし」とあるように、いったん空腹にして、腸のカスをすべてなくすことも、健康と長寿のポイントの一つです。腸ガンは便が溜まる部分に発生するといわれますし、また、腐敗物が腸中に長く居すわると血液も汚れ、体中のすみずみに悪い影響を与えます。

 誰でも経験することですが、病気になると口が渇いて唾液が出なくなり、食欲がなくなります。周囲の人は大変心配しますが、実はこの現象は喜ばしいことなのです。それは、体が病気を治そう、健康をとり戻そうと働き出した証拠だからです。つまり、これ以上ものを食べてはいけないと、体の安全弁が働き出して食欲を止めてくれたと考えるべきなのです。

 人間の体はそれ自体で、「一大製薬工場」の働きを持っています。体に備わる自然治癒能力は、食べることで損なわれてしまいます。体中に存在するエネルギーが、食物を消化することに回されるからです。しかも胃に詰め込まれた食物は十分消化されず、不完全燃焼を起こして害を及ぼします。「空腹」こそ、病気回復の第一歩です。

 

「医食同源」と言われますが、私たちは過食や、過剰栄養の摂取によって、また「いのち」をないがしろにした粗悪な食品によって、健康への不安に怯え、そして病んでいるのです。それでも抑えきれない欲望のままに美食・飽食に浸っているのです。


ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。

 


生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
L ife A griculture F oods

FAX :076-223-2005
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池田 優

 

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