山ちゃんの食べもの考

 

 

その160
 
『食は生命なり』 【18】




食は生命なり
「生命なきは食にあらず」とも云われますが、
人は多くの生命を頂く事で生かされている。
植物の生命も動物の生命も微生物の生命も、
土の生命も水の生命も空気の生命も、
すべての生命がつながって生かされている。
そんな「共生」の世界で生かされている。
「人は何を食べるのかによって決まる」とも云う。
肉体的な健康、長寿のみならず、
知性、思想、性格までをも決すると。
その食べ物の作り方、その食べ物の商いほう、
その食べ物の選び方、買い方、食べ方は、
その人の生き方、その考え方そのものであると。

                                   
(山ちゃん)
『食は生命なり』と「永山久夫」 その11

永山久夫 「百歳までの健康ライフ 健康食・健康百科」 より

■ 長寿者はなぜワカメがすきなのか


欧米では大豆加工品や米はすでに健康食品として定着しつつありますが、このところ評価を高めているのが海藻です。
それまで海藻は「海の雑草(sea weeds)」と呼ばれ、海岸の邪魔者扱いをされてきました。ところが最近の呼び名は「海の野菜(sea vegetable)。」

この評価の大転換は、まさに、"食べ過ぎ時代"が生んだ、象徴的な出来事といってよいでしょう。

海藻料理といえば和食の一方の柱であり、日本人はすでに石器時代から食料資源の一つとして大事にしてきました。
アメリカで海藻が見直されている大きな理由は、ノーカロリー食品である上に食物繊維の含有量がきわめて多い点にあります。

食物繊維によって腸壁が刺激され、便通がよくなりますから宿便も解消されて、大腸がんの発生が予防されるだけでなく、便秘によるさまざまな害が予防できます。

しかもアルギン酸は腸内で余分なナトリウム、つまり塩分と結合して体外に排泄する作用をしていますので、塩の害を防ぐ上でも効果があります。

ナトリウムだけでなく、体内に蓄積されたカドミウムや水銀などの重金属やPCBなどを排出する能力も持つといわれ、公害時代のまさに救世主といってもよいでしょう。

第二次大戦の末期に長崎に原爆が投下されたとき、爆心地かや1.5kmの隣接地に所在していたある病院では、医師をはじめ職員、入院患者の全員がワカメのみそ汁を普段から食べ続けていたおかげで、放射能障害を被らずにすんだと「みそ先生」として有名な川村渉氏が『みそ汁風土気』の中で述べていますが、この場合もアルギン酸が重要な役割を果たしているといってよいでしょう。


海藻を食用にする民族はほかにもありますが、その種類の多さと料理法、加工法の多彩さにかけて、日本人をしのぐ民族はこの地球上にありません。
日本人は古くから海藻をよく食べ、健康に役立ててきたのです。

日本は暖流、還流が入り組んで岸部を叩く四面環海の島国であり、列島周辺は世界でもまれな海藻の種類の豊かな海でした。

その種類はざっと700種といわれて世界一ですが、食用になるのはその内のほぼ1割に当たる70種。もちろん、こちらも世界一です。

海藻がなぜこれほど日本人の味覚をとらえたのかといいますと、色、香り、薄味を大切にする「和食」の特徴に海藻がぴったりしていたからなのです。
それと製塩産業が確立されるまでは、山間部に居住する人たちにとって、塩分の供給源としても重要でした。

平安時代の百科事典とも言うべき『和名抄』では、ワカメに「海藻」のも字を当て、俗事として「若布」も使用しています。「若布」の読みは「にぎめ」で、別の書物には「女」の字を当てて「め」と読ませています。すべすべしていてなめらかなその感触を、女性のやわ肌になぞらえたものでしょう。

当時、「め」は海藻類の総称としても使用されていましたので、ワカメが海藻を代表するほど広範囲にしかも頻繁に食用にされていたことがわかります。
「にぎめ」と「わかめ」はいってみれば"親子関係"で、にぎめの若芽がわかめ。
ワカメの場合、食用にするのは殆んどが"若芽"の部分ですから、中世に入るころには「にぎめ」の呼び名は自然消滅し、現在同様の「わかめ」に統一されてしまいます。

いまから2500年ぐらい前の縄文時代末期に、本州北端の津軽に突然ダイナミックな文化が燃え上がります。
一見宇宙人と見まがうばかりのなんとも異様な、巨大な雪めがねをかけた遮光器土偶を押し立てて栄えた亀ヶ岡文化。
この亀ヶ岡の泥炭遺跡から、ワカメに似た海草が束になって詰まった土器が出土しており、保存食として用いられたらしいことが推測されます。

古代人にとって海藻は栄養価地だけでなく、塩分の補給としても貴重でした。

昆布やワカメにはうまみのもとであるグルタミン酸<アミノ酸の一種>が多く、塩付きのまま里芋の煮込み料理などに使用しますと、うまみ効果がある。

昆布は今でもだしとりに用いられていますが、日本人がグルタミン酸系の味にうまみを感じるのは、縄文人以来の"海藻料理"の伝統なのかもしれません。

弥生時代になって、それまでの狩猟採集経済から稲作農耕社会に大転換し、豆をベースにした古代みそなどの原始調味料が出現しますと、海藻料理も飛躍的に発展します。
古代みそを使ったワカメ汁や万葉集にも出てくる「醤酢」(ひしおす)、つまり"酢みそあえ"風なワカメ料理、さらには海藻の漬物、つくだ漬けなどもあったでしょう。

奈良時代に入るとワカメを中心とする海藻が全国各地から貢納品として、平城京に運ばれています。
それらは貴族や役人、僧侶、神職などに支給されましたが、余分なものは平城京のメイン・ストリートの朱雀大路を挟んで東西にあった市場で売り出されました。
海藻の専門店には「にぎめ店」と「ところてん店」があります

ワカメがなぜこれほど大量に各地から都に集荷されたかといいますと、記録によれば「米と大豆と海藻(中心はワカメ)」が当時の食生活の土台になっていたからで、ワカメは大豆と同じように必需品でした、

保存性が高く、野菜の代用品になるという点も、奈良や京都といった内陸部で生活する人たちにとっては貴重なものであったに違いありません。
佃煮やみそ汁、漬物、おひたしなどにして食べています。


みそ汁の実の三大横綱は、古来、大根と豆腐、ワカメと相場は決まっていますが、ワカメ汁にはその代表チャンピオンが2つも入っているのです。

みそや豆腐の原料である大豆たんぱくには、8種の必須アミノ酸がバランスよく配合されていますから、牛肉や豚肉と比較しても、決して見劣りのしない優秀なたんぱく質です。
従って、豆腐の入ったワカメ汁は味は淡白ですが豚汁などよりはるかに健康的なたんぱく質といってもよいでしょう。

しかも、ワカメと大豆食品の組み合わせには、実は非常に理にかなった面が隠されているのです。
よいことずくめの大豆製品にもたった一つだけ欠点があって、それは大豆の中のサポニンという物質が甲状腺ホルモンの生成に不可欠のヨード分を搬出してしまう作用があることです。
ヨードはミネラルの一種で、欠乏すると甲状腺ホルモンの生成能力が低下し、バセドウ病などの原因になったりしますが、それだけでなく細胞の代謝能力が鈍くなって体に必要な物質を満足に合成できなくなり、さまざまな障害が出てきます。
子供なら精神的、肉体的な発育の遅れ、大人の場合でしたら気力の衰え、血管がもろくなるなど全身の老化が進んだりするのです。


ヨードは海産物中に多く、陸のものには殆んど含まれていません。
海に囲まれた日本では、海の幸の入手は容易ですから、甲状腺の機能低下症は少ないといわれていますが、最近のように食生活の中で出加工食品や合成食品のウエートが高まってきますと、慢性的なヨード不足に陥る心配が多分にあります

山間部や寺院で生活する人たちにとって、ヨードを濃厚に含んだワカメなどの海藻は大切でした。
とくにお坊さんは、殺生につながる動物性たんぱく質を絶対排除した菜食主義、つまり精進料理だけで健康を維持する必要上、大豆たんぱく質は量的にもたくさんとっています。
それだけに生理的にヨードの多い海藻は欠かせませんでした。精進料理には、必ず海藻が混じっている理由がここにあります。

刺身のつまにワカメが用いられるのは、魚肉の酸性を中和するためで、ワカメは代表的なアルカリ性食品なのです。
また良質のカルシウムを100gあたり1000mg前後(乾燥ワカメ)と、きわめて豊富に含んでいる点にも注目すべきでしょう。

ワカメ汁をとると気持ちが落ちつきなごむといわれているのも、ワカメの中のカルシウムの作用のためで、カルシウムが欠乏するとイライラしたり怒りっぽくなります。
「非行や犯罪はカルシウム不足のせい」という説もあるくらいですから、ワカメ汁を見直す必要があります。

妊婦や産後の女性にワカメを食べさせる習慣が古くからありますが、親子の骨格と歯を丈夫にするためで、きわめて科学的な伝承です。

「若女」とか「若芽」、「若目」などとも書かれてきたのも、古くからワカメは若返りの妙薬と信じられてきたためで、カルシウムとヨードによる細胞の活性化能力の向上を指しています

ワカメの食べ方としてはみそ汁が一番ですが、タケノコや豆、ジャガイモなどと煮合わせてもよく、酢みそや三杯酢など、和えものにもよく合います。
新鮮なワカメなら遠火であぶってよくもみ、あつあつご飯にうす塩とともによく混ぜて食べても美味しいものです。




 

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生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

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