山ちゃんの食べもの考

 

 

その165
 
『食は生命なり』 【23】




食は生命なり
「生命なきは食にあらず」とも云われますが、
人は多くの生命を頂く事で生かされている。
植物の生命も動物の生命も微生物の生命も、
土の生命も水の生命も空気の生命も、
すべての生命がつながって生かされている。
そんな「共生」の世界で生かされている。
「人は何を食べるのかによって決まる」とも云う。
肉体的な健康、長寿のみならず、
知性、思想、性格までをも決すると。
その食べ物の作り方、その食べ物の商いほう、
その食べ物の選び方、買い方、食べ方は、
その人の生き方、その考え方そのものであると。

                                   
(山ちゃん)
『食は生命なり』と「永山久夫」 その14

永山久夫 「百歳までの健康ライフ 健康食・健康百科」 より

★★★★★「和食」日本人の健康を守る★★★★★

■ 漬けものでお腹もスッキリ
● 季節感を演出する漬けもの
伝統的な日本の食事は、漬物に始まって、漬物で終わるといわれるくらい、その存在は重要です。
前菜としての一片の香の物で、まず味覚を覚醒し、それから食事に入ります。
つまり、和風オードブル。
食事中はもちろん食味のアクセントとして不可欠な脇役であり、食事が終わったら漬物の小片によって、口中を清めます。
 
漬物は、季節感を食卓に演出する上でも重要でした。
日本人ほど季節感を重要視する民族はありませんが、食事の場合、それをまず漬物の素材で表現するのです。
 
季節も前ぶれを漬物にするためには、当然浅漬け(一夜漬け程度のもの)でなければなりません。
熟成発酵の味ではなく、新鮮な季節の香味を素朴な塩味だけで楽しむのです。
伝統的な漬物というと、塩分がらみで目のかたきにされがちですが、そのようなものばかりではありません。
現在でいったらサラダに近いもので、日本人は浅漬けという方法で、ビタミンCの多い、非常に健康的な漬物のとり方もしてきたのです。
漬物は、料理の内容によって全体的なバランスを考えて出されますが、また漬物の鉢に何種類かの組み合わせで出すのも日本独特の流儀で、食べる人の好みで選択できるように配慮した、やさしい心づかいが込められています。
 
漬物はカリウムやナトリウム、カルシウムを多く含んだアルカリ性食品で、また繊維質も多く、これが腸の運動をよくしますから、便秘の予防にもなります。
小・中学生の慢性便秘が問題になっていますが、精白食品の常食が原因で、繊維質をもっととることによって居眠りや集中力の欠如につながる便秘の解消をはかるべきです。
 
旬の野菜や山菜、海藻などの浅漬けは、いずれも便秘を防ぎ、人間に強い生命力を補強してくれるすぐれた食べものなのです。
世界中で、日本人ほど漬物好きな民族も少ないでしょう。
日本人の漬物好きは、実は主食の米の味と密接な関係があるのです。
 
西洋の四味(甘い、辛い、塩っぱい、すっぱい)、中国の五味(甘い、辛い、塩っぱい、すっぱい、苦い)に「渋み」と「うまみ」を加えた”七味”が日本人の味覚といわれています。
渋みというのはお茶やフキノトウなどの味であり、うまみは「米の味」が基準になっています。
上手に炊けたご飯を噛み続けていると、口の中にかすかな”甘み”が広がっていきますが、あれが「米のうまみ」なのです。
 
日本料理の”味の演出”の原点は、いかに米のうまみを引き出しかから出発したものなのです。
日本に多彩な漬けものや梅干しなどユニークな酸味発酵食品が発達したのも、奥深い米の味を引き出すためにほかなりません。
 
● 古代人の漬けもの『草醤(くさひしお)』
漬物の発生は、「餌の保存」という、たいがいの野生動物が普遍的に持っている、ごく自然的な本能から出発していますので、人間が道具を使うようになった時点で、すでに何らかの“漬物技術”を持っていた可能性があります。
 
ボルネオのオランウータンは、生のままでは有毒な木の葉を集めて浅い穴に埋め、土をかけて数週間放置し、発行させてかゆ状にしたものを食べるという報告があります。
日本の野生猿も冬になると積雪をかきのけ、腐葉土を掘り起こして食用にします。
 
人間の先祖も同じような方法で、発酵食品を作っていたのではないでしょうか。
野草類をくぼみに詰め、重石を乗せていく程度から出発したものが、やがて海水や岩塩を利用するようになり、原始的な塩漬けに進歩していきます。
塩は味をよくすると同時に、腐敗を防止します。
 
いまから1万年も前から縄文時代は始まりますが、その縄文人も素焼きの土器に山菜や果実、海藻などを漬けていますし、弥生人はその技術をさらに発展させました。
古代塩の場合、その製造技術を考えても不純物が混入してくるのは不可避ですから、非常に溶解しやすく、放置しておくとドロドロになって流れてしまいます。
そこで塩をほかの材料に吸収させて保存する方法をとりました。
塩の保存が、漬物や塩辛類の発展をいっそう促進することになったのです。
 
縄文時代や弥生時代の素材は、ほとんど野生種(山菜など)とみて間違いありませんが、奈良時代になると蔬菜園で野菜も作られるようになります。
しかし栽培物の大部分は上流階級用だったために、庶民の野菜は相変わらず山菜中心でまかなわれていたようです。
 
このため、山菜摘みは女性や子供たちの大切な仕事で『万葉集』の中にも、菜摘みの歌が収録されています。
   明日よりは春なつまんとしめし野に
     昨日も今日も雪はふりつつ
   ますらおと思へるものを太刀はきて
     かにはの田井に芹(せり)ぞ摘みつける
 
古代漬物を「草醤(くさひしお)」といいますが、奈良時代から平安時代にかけてどのような種類のものがあったか、当時の資料をもとにして漬け方と素材を見てみましょう。
まず漬け方の主となるものとしては塩付けを筆頭に醤漬け、甘漬け、須々保漬け(米や大豆を混入したものであるが実体はよくわからない)などで、素材としては次のようなものです。
 
大根、ウリ類、キュウリ、青菜、高菜、ナス、ショウガ、クワイ、ユリ、ワラビ、ミョウガ、ゴボウ、レンコン、フキ、セリ、ニンニク、ネギ、サンショウ、カブラ、梅、桃、かき、ナツメ、橘など。ほかに、海藻類も多数用いられています。
 
● 『香の物』はみそ漬け
平安時代の『新猿楽記(しんさるがくき)』という書物に、「香疾大根(かはやきだいこん)」という文字が出てきます。
「かはやき」は「香(かおり)の疾(はや)きこと」で、”匂い”をさし、ここでは”大根のみそ漬け”のこと。
漬けもののことを”香の物”と呼ぶようになったのは室町時代からで、当時流行の湯漬けめしには必ずつきました。
湯漬けに漬けものがつくのは現在のお茶漬けも同じです。
 
古くは、みそ漬けだけを”香の物”といっていたようで、「香の物はみそを本来とするが、その理由はみそを”香”と称したからだ」と江戸時代の『守貞満稿』に出ていますが、同じく江戸時代の『本朝食鑑』には、「一飯一汁だけで魚菜の肴がないとき、香の物で茶のたすけとする」とあり、また「煎茶を飲むときにもやはり香の物が茶のたすけをする」ともあります。
 
食後の湯茶の温度を香の物で加減する風習は今でもありますが、『醒睡笑』という小話集に、次のような笑い話がのっています。
 
湯で行水していた男が
「この湯は熱くてたまらない。早く香の物をもってこい』という。
「何にするのか」ときくと
「めしの湯が熱いとき、香の物を入れてかき回せばぬるくなる」。
 
江戸時代になりますと、ぜいたくな世相をバックに味覚の多様化が進み、さまざまな新しい漬けものが生まれてきますが、特に江戸の場合、はしりものを好む嗜好を反映して、短時間で仕上げる浅漬けが多くなっていきます。
 
江戸時代の日本各地に、どのような漬け物があったか、その中から主なものを拾いあげて見ますと、
麹漬け、 辛子漬け、 梅酢漬け、 味噌漬け、 塩漬け、 浅漬け、 沢庵漬け、
糟漬け、 甘酒付け、 酢漬け、 山椒漬け、 茎漬け、 奈良漬け、
梅干し漬け、 醤漬け、 阿茶羅漬け、 木芽漬け、 諸味漬け、 無尽漬け、
昆布漬け、 加薬漬け、 富田漬け、 守口漬け、 茶漬け、 大阪切漬け、
桜漬け、 印籠漬け、 千枚漬け、 日光漬け、 だるま漬け、 納豆漬け、
初夢漬け
と多彩で、むしろ現代よりもはるかにバラエティに富んでいます。
 
白米食の普及とお茶漬けの流行が、漬け物の消費を急増させたのです。
微妙な発酵の香味とほどよい塩気が食欲を増進させますから、米のうまさと相乗してついついご飯を食べ過ぎてしまいます。
このため、元禄や文化文政といった町人文化が開花した時代には、決まって”江戸わずらい”という脚気が流行しました。
ビタミンB1の欠乏で白米の糖質をエネルギーにするため、つまり代謝するためには不可欠のビタミン不足に陥ったのです。
農民のように麦や?(かて)の入った、バランスの良いご飯ではなしに、美味にまかせて白米飯だけを食べた弊害が、江戸っ子の脚気となってあらわれたわけです。
 
● 米ぬか漬けにはビタミンB1が多い
白米食の普及は、副産物としてぬかを大量に発生させましたが、それを活用して新しく登場してくるのが沢庵漬けとぬかみそ漬けです。
沢庵漬けは品川の東海寺を開山した沢庵和尚(1573−1645)の考案とか、和尚の墓石が丸くて漬けもの石に似ているためとか、さまざまな由来説がありますが、いずれも確たる証拠はありません。
当初は「たくあん大根」、「たくわえ漬け」であったものが、訛って「たくあん漬け」になったという説もあります。
 
いずれにしても、「日用の経済の品にして、万戸一日として欠くべからざる香の物の第一なり」(『漬物早指南』)のとおり、米ぬかの発酵でかすかな甘みとほどよい色素のついた沢庵漬けは、江戸時代を代表する漬けものとなるのです。
 
お茶漬けのあとの箸休めに、沢庵漬けにかなうものはありません。
京都では「辛漬け」、九州では「百本漬け」と呼びました。
江戸では武州の練馬大根が特上とされ、これを20日ばかり干して米ぬか、塩、こうじで漬け、重石を軽くのせます。
また、現在でも人気のある米ぬか漬けは米ぬかのビタミンB1が漬けものに移行しますから、ビタミンB1の多い食べものになります。
 
★ ことわざ
● 野菜は長生きの薬
邪馬台国で有名な『魏志倭人伝』をみると、「倭人(古代日本人)は長生きで、百歳ないし8、90歳まで生きる」と、当時日本にやってきた中国人が長生きぶりに驚嘆して記したくだりが出てきます。
これを額面どおりに受け取るわけにはいきませんが、卑弥呼が女王になったのは十代であり、彼女が死亡したのは『魏志倭人伝』によって正始8年(248)以降とわかっているから、逆算すると80歳前後まで生きていたのは間違いありません。
つまり、「倭人長命である」という記述もあながち否定できないのです。
いまから1800年前の人たちが、なぜそれほど長生きできたのか、その秘密が同書に記されています。
「冬も夏も生野菜を食う」がそれで、この書物が世に出た後同じく中国であらわされた『後漢書倭伝』にも、「四季温暖、冬夏生菜茹」とあります。
とにかく倭人は山菜や野菜が大好きで、冬も夏もごく簡単な調理で食べていました。
野菜を食べる目的はビタミンCを主体とするビタミン類、薬効成分やミネラル、繊維質などをとることですから、料理はごく簡単なほどその効果も大きい。
だから「生食」に近い「ゆでる」程度が一番良いのです。
これが倭人の長生きの秘訣であり、日本各地にある長生き村でもだいたい同じような食べ方をしています。
 
● ぬかみそ漬けは知恵漬け
「ぬか味噌漬け、は知恵漬け」ということわざがあります。
ぬか味噌漬けには元気で健康に生活するための知恵や工夫がぎっしりこめられているという意味です。
米ぬかと塩を中心に熟成させた漬け床に、新鮮な野菜を直接漬けこみ、発酵したぬか床のうまみと栄養を短時間に野菜に吸収させる日本独特のたいへんヘルシーな漬けもの。
ぬかみそ漬け独特の、あの食欲を増す風味はどこからくるのでしょうか。
米ぬかに含まれている炭水化物やたんぱく質などの成分が自然に混入した乳酸菌や酵母の発酵作用によって、うまみばかりでなく、甘みやほどよい酸味、香りなどをかもし出し、それが美味しさの素となっています。
「ぬかみそ漬け」は関東地方の呼び名で、関西では「どぶ漬け」。
米ぬかは、玄米の胚芽と外皮が中心ですが、粗たんぱくや粗脂肪、ビタミンA、B1、B2、E、ニコチン酸、レシチン、繊維質、その他各種のミネラルが豊富に含まれています。
玄米の生命源ともいうべき胚芽や外皮などを活用したのが、ぬかみそ漬けで、ぬか床に含まれている豊富な栄養素を、ナスやキュウリ、カブ、ニンジン、大根などに吸収させ、そっくり回収して食べる。
つまり、野菜自体に含まれているビタミンAやB、Cをほとんどそこなわずに、さらにビタミン類を強化させるわけですから、実に健康にいい食べ方といってよいでしょう。
まさに“知恵漬け”ではありませんか。
 
 
■ 大根おろしはガンの予防食
● 食べもので『薬』を作る
日本人は、食べ物を上手に活用して薬にしてしまう。
このような生活の知恵が、実に発達しています。
 
その代表的な例が「大根おろし」。
昔から、食べ過ぎたといっては大根おろしを食べ、飲みすぎたといっては、大根の絞り汁を飲んできたのです。
 
大根には消化酵素のジアスターゼがたっぷり含まれていますから、下手な胃の薬よりよほど効果があるのです。
昔の人は、経験の積み重ねで、大根の効果をちゃんと知っていたのです。
 
大根を別名「かがみ草」とも言いますが、「かがみ」は「もち」のこと。
つまり、もちは「大根おろし」がつきものという意味で、もちの消化のたすけに利用してきたわけです。
 
● 大根おろしはガンの予防食
サンマやイワシの焼き魚にも大根おろしは欠かせません。
天ぷらやそばにもつきます。
焼き魚に大根おろしを添えるのは、脂っこさを中和すると同時に、消化をよくして、ビタミンCを補給する役目も果たしています。
 
また、刺身の添える糸きり大根のつま。
刺身はきれいに食べても、大根のつまはたいがい残してしまいます。
この食べ方は大損と知るべきでしょう。
大根にはジアスターゼやビタミンCのほかにリグニンという繊維質が豊富に含まれているのです。
リグニンは、がん細胞の発生を防ぐ成分として注目されています。
このリグニンは、切り口を多くすればするほど増えるというユニークな性格を持っています。
ですから、大根おろしでもいいし、刺身のつまの糸きり大根でもいいわけです。
刺身皿に盛られた「糸きり大根」を残すということは、消化薬とがん予防の特効薬をみすみす捨てるようなものといってよいでしょう。
これからは残さずにきれいに平らげるようにしたいものです。
 
● おろし器の始まり
「大根」の文字が使われるようになるのは奈良時代からですが、日本に中国から渡来してきたのはそれよりも早く弥生時代と見られています。
当時は「大根」と書いて、「おおね」と呼び、女性のやわ肌の白さをたたえる形容としても使われています。
渡来したときから、石皿を用いて「大根おろし」を食べていたものと推測されますが、焼き物の「下ろし用器」が出現するのは、室町時代の初期ですから。
それ以前から使用されていたといたしますと、今日まで600年くらいの歴史があります。
「大根おろし」は、ずっと日本人の「薬味」として用いられてきたわけです。
 
● 「やくみ」は薬
「薬味」というのは文字を見てもわかるように、単に味にアクセントを添えるだけではなく、それぞれの”薬効成分”をもつけます。
「薬味」というのは文字どおり、「薬」を加えて「味」を添える作用を持った植物のことをいいます。
 
「薬味」の作用は、すでに縄文時代にはかなり発達していたものと思われます。
どうして、そんなことがわかるのかというと、各地の縄文遺跡からサンショウの実やノビル、シソの実が出土しているからです。
これらの薬味を刺身に添えたり、イノシシの肉のシチューなどに用いていたのでしょう。
日本人の先祖は、たいへんなグルメだったのです。
 
「刺身」に添える薬味を、特に「つま(妻)」といいますが、「けん(献)」と呼ぶ場合もあります。
「つま」は「妻」で、刺身を「夫」と見立てているわけです。
材料としては、ショウガやウド、シソ、タデ、大根、ニンジン、キュウリ、セリ、防風、山イモ、ミョウガ、オゴノリなどがあり、いずれも魚の味を生かして、消化をよくし、毒消しもかねており、一緒に食べてもよく、健康にも良いものばかりです。
 
麺類や鍋物にも用いたり、あるいはつけ汁に入れて用いるものに次のような「薬味」があります。
ネギ、大根おろし、のり、ワサビ、ショウガ、ニンニク、トウガラシ、春菊、ミツバ、梅干しなど。

 

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池田 優

 

 

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