山ちゃんの食べもの考

 

 

その17
 

 

 先日、北海道と長野県で、豊作による価格の大暴落で、1,500トンものレタスが現地で廃棄されたといいます。天候不順や災害などでの不作も困るが、何につけても豊作になることを、喜べないというのが日本に実情です。一方、JR東日本では国民の安全健康志向に応えるためと称して、オーガニックの素材による弁当をアメリカで製造調整し、冷凍で輸入したものを販売するという。米あまりで減反を強られられている最中に、調整品で輸入すれば米の高い関税を免れるという戦略です。もうすでに、私たちの身体は、60%以上が外国製になってしまってはいるとはいうものの、消費者の要望に応えるためという大義名分で、自企業さえ儲かればいい、自分さえ良ければいいと言う商行為や消費性行でいいのでしょうか。このようなことはほんの一例です。日本の食糧事情に割り切れないものを感じます。

 

 食糧自給律40%、穀物自給率29%という日本の食糧事情ですが、だからといって私達は食べ物が不足して飢えているわけでは決してなく、先にも述べたように世界の人々の平均2倍もの食料を消費しているのです。 

そこで、真崎正三郎著『日本の輸入食品』より、平成7年度の食糧自給率の内容を見てみましょう。 

米103%、小麦7%、豆類5%(うち大豆2%)、野菜85%、果実49%、肉類57%(うち牛肉39%)、鶏卵96%、牛乳・乳製品72%、魚介類74%、砂糖類35%となっています

  今や輸入なしではこの豊かな食生活はあり得ないものとなってしまいました。わずかの期間のうちに、なぜこのようになったのでしょう。工業立国として高度成長を成し遂げ、経済大国となった私たちは、その財力に任せて世界のどこからでも買ってきて食べる力がついたということでしょう。また、わが国のような狭い山岳地帯における農地での非効率な家族的小規模農業では、大型機械類を駆使した工業的な大規模農業による輸入品に太刀打ちできないということ。さらには、所得が増え、だれもが経済的に豊かになって人件費が高騰、重労働で儲からない農業を推進するよりも、工業製品を作って世界に売り、見返りに安い食料を買った方が日本としてはうんと儲かり効率的だということなどが考えられます。

 

  しかし私は、日本がこのような世界一の食料輸入大国となり、世界の貴重な食料を浪費し、かつ、自国の農業・食料生産を滅亡寸前まで衰退させたものは、戦後30年代から始まる私たち一人ひとりの食の堕落にあると思うのです。古来より伝統的に培ってきた、ご飯を中心とする国民の理想的な食文化を放棄したからです。そして日本人の食性を無視した欧米風の、しかも、決して欧米の伝統的な賢い食文化を取り入れたり真似たりしたのではなく、やってはならない「いのち」より経済性優先の、退廃的な食べ物の作り方や食べ方を手当たりしだい無造作に組み込んでしまったのです。

  化学肥料や農薬を使用した換金作物としての農産物、化学物質を使用し、科学的な手法を応用した工業製品的な加工食品、「家でつくるより買って来た方が安くて美味しいし便利だわ」何がどこでどのように作られどのようにしたらそんなに安くできるのか、正体不明の外食メニューやファーストフード、お惣菜。私たちは簡単便利で欲望のままに食い散らかす体系のない飽食社会へと転落していったのです。

 

  たとえば、子供たちに与えているおやつ・お菓子類を考えてみてください。50年前と比べてその豊かさは想像だに出来なかったもので、まさに雲泥の差です。そのおやつの質や与え方に何の疑問も不安も抱いていませんか。子どもたちの食のあり方や食に対する感性は50年前と比べて雲泥の差と言えるくらいレベルの高い食文化にあると言えますか。

  子どもたちの食べているお菓子や大好きな食べ物は、それを製造したメーカーがどの国であれ、使われている原材料の多くが外国産(国産の場合はおおかた国産の表示あり)のものであり、使われている添加物の多さに気づかれることでしょう。あのお菓子や飲み物、食べ物の色艶、香り、甘味、食感、その他子供の喜ぶ味覚の実体は何なのかご存知ですか。

  今日の健康な長寿者、つまり数十年前までの子供たちが食べたこともない、人類には未経験のものを毎日食べさせられ、人体実験されているといえるのです。

 

  また、お近くで繁昌している大きなスーパーマーケットの売り場をごらん下さい。そのスーパーマーケットが繁昌しているわけは何でしょうか。そのお店の新聞折り込み広告には、何をどのように訴えていますか。あなたやあなたの大切な家族のかけがえのない命の健康を支えていこうとする本気の気持ちが読み取れますか。

  さあ、通路を順に品揃えされている商品群を見ていきましょう。どんな商品に多くの陳列スペースがとられていますか、どんな商品が大量に並べられ販売に力が入れられていますか。お店の政策にもよりますが、大筋それはそのお店の売れ筋です。つまりはその地域のお客様方の平均的買い筋、食べ筋ということになり、地域の人々がどのような食生活を営んでいるかの傾向を見ることができるということです。それらの売れ筋商品、買い筋商品と思えるものの原材料の多くが外国産(ほとんど表示されていないので判別は難しいでしょうが、国産の良質なものを使用してある場合は、おおかた国産原料使用の表示があります)を使用するものが多く、加工方法や使用添加物(良質の物には、おおかた加工方法や無添加の表示があります)に不安があるものが多いことに改めて驚かれることでしょう。

  では、振り出しにもどって、改めてこのスーパーの入り口から順に、これならきっとまちがいのない健康・安心・美味しさを兼ね備えた良質な商品だ、本物の食べ物だと思えるものを厳しくチェックしながらまわって見ましょう。判断しかねるものや疑問なものは除いてください。良い物にはたいがい納得できる表示がなされているはずですから。

  私たちは、まともな食べ物と呼べるものを食べたり食べさせたりしていないことに気づくはずです。「あなたのようなことを言っていたら、買うものも食べるものもなくなる」と、先日も家内から言われました。そうです、その通りなのです。それくらいに私たちの普段の食べ物がわずかの間に様変わりしたのです(ごく少数ですが、地域のお客さもの健康な暮らしを考え、本気でご努力なさっており、ぜひ非繁昌してほしいと願う素晴らしいお店もあります)。

 

  食糧自給率から読み取って見てもわかるように、米を食べなくなった私たちの日本は、パンや油脂、動物性食品、加工食品等を多食する異質な食形態に変わってしまいました。例年のように減反減反の政策がとられているにもかかわらず米余りで、風土にそぐわない農産物や食べ物を輸入によって増やしていっています。

  現状の自給率40%は、いろいろな輸入規制や制限がとられている上での数値なのです。いま、WTO交渉等で国際分業論が唱えられ、世界的な食料の規制緩和による自由貿易を推しすすめようとしており、米をはじめ、わが国への農産物等の輸入拡大が迫られているのです。この上に、さらに自由化が緩和されれば大変なことになるでしょう。

  また、中国や韓国をはじめとする東南アジア諸国、アメリカやカナダの他、多くの国々で、日本向けの農産物や食料が開発されております。それに、日本の業者などの手よっても、コストの安い海外での日本向け輸入農産物や各種の食料品が積極的に開発され、買い付けがすすめられているとも聞きます。このままではますます生産農家が減り日本農業は壊滅的な状況を招くことになるでしょう。

  近い将来には、世界的食糧危機が到来すると予測され、警告されています。そんな中で、日本は食べ物では自立できないという大きな問題を抱えることになったのです。未来永劫とはいわずとも、どんな事態が起ころうとも、日本はいつまでも世界に冠たる経済大国として覇を競い、その経済力をして世界に食を買い続け食べ続けることができるのでしょうか。

  自分の食べるものも自分では作れないように、自らその権利を放棄してしまって、果たして健全な独立国家といえるのでしょうか。食糧危機が再三報じられているあの北朝鮮人民共和国の食糧自給率は70%だと聞きます。政府では、食糧自給率向上を掲げ、当面45%を目標とすると発表していますがどうなることでしょうか。

 

  私たち一人ひとりが消費者、一方では生産者でもあるという立場で、近未来の日本の食料をどのように考えるかが根本になるのです。まず、日本の風土にかなった安全な食料を安定的に、自らの手で確保することと、そして、日本人の食性にかなった日本の食体系、食文化を確立すること、さらに、緊急に安全安心な良質の食べ物にするために、ふだんの買い物で良心的な店を選び、良心的な生産者やメーカーの良質なものを吟味して選ぶこと、化学肥料や農薬、化学物質や添加物を極力控えた農業や食べ物作りを積極的に支援し、健康な命を蝕む危険性のある商品は買わない、食べない工夫をすることだと思います。

 

 

  過日、参議院議員選挙の投票がありました。投票前日の日本農業新聞に「自民党の農業公約」が全面広告で掲載されていた。とくに真新しい内容はないが、後々のためここに転載しておくことにする。

 自民党の農業公約

 

食糧自給率の向上、活力ある農山漁村づくり、安心で豊かな食生活の実現を目指します

 

@ 生産性の高い持続的な農業の振興と食糧自給率の向上

  食料・農業・農村基本法に促して新たな農政を積極的に展開し、生産性の高い持続的な農業の進行に取り組むとともに、食糧・農業・農村基本計画に掲げられた食糧自給率目標の達成を目指して、生産者、消費者とも一体となって取り組みます。

 

A 野菜等輸入急増に対処する一般セーフガードを含めた万全の措置

  野菜などの輸入の急増は、国内の農家などに深刻で致命的な影響を及ぼしています。ネギ、生シイタケ、畳表(イ草)の3品目について、WTO協定に基づく一般セーフガード(緊急輸入制限措置)を含め、万全の措置を取ります。他品目についても引き続き検討を行います。特に、足腰の強い野菜農家を育成するため、生産流通コストの削減・高付加価値化など改革を進める産地を積極的に支援します。

 

B 意欲ある農業担い手への経営所得安定対策の確立

  新基本法が目指す望ましい農業構造の確立に向け、意欲ある農業の担い手に対して施策を重点的・集中的に講じていくとともに、担い手農家の経営所得の安定を図るため、農業経営所得安定対策の確立に向けて全力を尽くします。

 

C 安心・安全な食生活のための食品表示等の徹底

  野菜などの生鮮食品の原産地表示、遺伝子組み換え食品の表示や有機農産物の表示規制などの徹底に努めるとともに、加工食品の原料原産地の表示制度の充実を図るなど、安心・安全な食生活の実現を目指します。

 

D WTO農業交渉における食料輸入国の立場を踏まえた貿易ルールの確立

  WTO農業交渉においては、わが国を始めとした食料純輸入国における食料の安定供給の確保などが図られるよう、農業の多面的機能の維持発展、食糧安全保障の確保など「多様な農業の共存」を基本的目標としたわが国の提案を強く主張して、それが貫かれるよう、全力を尽くします。

 

E 農山漁村の生活環境整備の推進と中山間地域の活性化

  すみよく魅力あふれる農山漁村づくりを推進するため、農山漁村の生活環境整備や中山間地域の活性化に全力で取り組みます。また、都市農業の振興に取り組むとともに、グリーンツーリズムなどによる都市と農村の交流を推進します。さらに、中山間地域における農業の多面的機能を確保するため、中山間地域など直接支払い制度の円滑な実施を図ります。

 

F 森林の多面的機能の持続的発揮のための森林整備の推進

  国民の森林に対する要請にこたえ、緑豊かで災害に強い国土づくりをすすめます。このため、新たな森林・林業基本法に即し、広葉樹や混公林などの多様な森林の整備、間伐の推進など、国土・環境の保全や、地球温暖化の防止をはじめとする森林の多面的機能の持続的発揮のための森林整備を強力に推進します。

 

 

  健全なる農業の振興は、ひとり農業者のためのものだけでないことは言うまでもありません。農政のあり方についてはこれまでいろいろ論議されてきましたが、農業の堕落や衰退は、私たちの住む環境と食べ物の危機を意味し、生命存続と健康で心豊かな暮らしの破滅をも招来しかねません。

  私たちの健全なる生命の原則は「身土不二」にあり、食の本質は「地産地消」「旬産旬消」「自給自足」にあると考えます。 

 

 


 

ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。

 

 


生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
L ife A griculture F oods

FAX :076-223-2005
mail :m.ikeda@ninus.ocn.ne.jp

池田 優

 

 

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