山ちゃんの食べもの考

 

 

その21
 

  河野武平著『野菜が糖尿病を起す!?』の核心部分に入りましょう。

  河野氏は仕事がら、熊本や宮崎の園芸地域にでかけるが、たびたび透析患者と出会う機会があり(透析とは腎臓病や糖尿病によって腎臓の機能が低下した人に対し、器械を使って人工の腎臓の働きをさせ、血液や尿を浄化する治療法のこと)、農業地域に多い硝酸塩との関係が気になりはじめた。そこでいろいろ調べた結果その関係がハッキリしてきたとして、この著書の中で、日本全国の地域における硝酸塩濃度と糖尿病、透析患者、腎臓・膵臓の疾患、アトピー性皮膚炎、ガン、胃炎、甲状腺疾患、アルツハイマー病等の関連を独自の具体的資料で明らかにしています。高野氏の書より要点を抜粋します。

  「現在、日本の糖尿病患者は約700万人、境界域の人を含めて1,300万人と推定されている。高濃度の硝酸塩と糖尿病の関係について、アメリカ・コロラド大学保健センターのコストラバ博士は『体内に取り込まれた硝酸塩は、消化器官内のpHの影響を受けて亜硝酸塩に還元され、二級アミンと結合してニトロソミアンを生成する。これが強力な発ガン物質である。中毒値に達したニトロソミアンは遊離基を放出し、これが膵臓にあるβ細胞を傷つけてインスリンの生成を妨害する。このため、高濃度の硝酸塩はインスリン依存糖尿病を引き起こす』と述べている」

 

  「腎臓は、血液や老廃物をろ過して排出する大切な器官であるが、糖尿病で腎臓の機能が低下した場合、人工腎臓を取り付けなければならなくなる。いったん透析を始めると生涯続けなければならない。

  慢性透析の患者は、1988年の統計では約88,0000人、10年後の1998年には186,000人と2倍以上に増加している。この間10万人以上の患者が死亡しており、実際には約3.5倍に増加していることになる。1988年には糖尿病患者から慢性透析に移行した患者は1割に満たなかったが、1998年になると3割を超えている。2000年現在、慢性透析の患者数は推定20万人以上、年間約2万人が死亡している」

 

  河野氏は、全国にまたがる各種データから一つの傾向を導き出したのです。

  「慢性透析患者の多い地域は、すべて耕地に投入する肥料が全国平均より多い地域と大規模畜産、養鶏団地が集中している地域と一致しているのである。環境庁の調査でも、施設園芸の多い地域の地下水からは高濃度の硝酸塩が検出されている。厚生省が定めている飲料水の硝酸塩(硝酸性窒素)基準の1リットル当り10mgを超えて、中には50mg、80mgを超えているデータもある。日本土壌学会が調査した資料でも、地下水の硝酸態窒素の濃度が基準の10ppmを超えた地域は、圧倒的に畑作地帯で、水田の平均値0.28ppmと比べると桁違いである。高濃度の硝酸に汚染されているのは畑の多い地域、それも施設園芸地帯がとりわけ高い。

  農業とその食生活が、人類に対して影響を与えることが、疫学的に明確になったといっていい。特に飲料水として利用される地下水が高濃度の硝酸塩を含んでいる場合には要注意である」

  【慢性透析多発地帯の特徴】

1、施設園芸が多く促成栽培が盛ん

2、投下肥料の量が多い

3、野菜の作付面積が大きい

4、農業収入が多い

5、畜産団地と養鶏団地が集中している

6、地下水の硝酸塩濃度が高い

 

  河野武平の著書『野菜が糖尿病を起す!?』を中心に、かなり長々と現代の経済性優先の化学的農法による食べ物の質的劣化、硝酸塩高濃度による地下水汚染、糖尿病はじめ疾病へとの関係、環境問題等について述べてきました。そして、私が常日頃考えているところの、健康長寿の生命の基本は「身土不二」にあり、食の本質は「地産地消」「旬産旬消」「自給自足」にあることについても若干触れさせていただきました。そして一日も早く、誤った化学物質偏重の現代農法を改め、環境にやさしい生命産業としての健全な農業に改め、健康な食べ物を復活させていかなければならない。そのためには国民一人ひとりが自分のこととして、有機栽培農家をはじめ安心な食べ物としての農産物を作ることに労苦を惜しまず、努力する生産者を支援し育てていく実践的な消費行動が必要であると。

 

  オーバーストアーといわれるほど、どの地域においてもスーパーマーケットが多店舗展開し、激しい競争に生き残りを賭けて凌ぎを削っています。価格競争をはじめ、あの手この手の戦略を使って顧客の収奪合戦、販売高の占拠率を競い合っていますが、よい食べ物よい食生活の提案といった点から見ると、その競争の質も納得できないものが多く、必ずしも消費者にとってプラスになっているとは思えません。あるスーパーの社長さんに「さっぱり売上が伸びず困った」といわれましたので、「それは結構でしたね。どうせロクな食べ物を売っていないんですから」と本音を申し上げて、たいへん不機嫌な顔をされたことがあります。

  物の数はドンドン多くなり、便利になり、安くなってきていますが、質はドンドン悪くなり、本物が少なくなってきています。私に言わせれば食品という売り物は多くなってきていますが、まともな食べ物と呼べる物が少なくなってきているのです。

  戦後の貧困な物不足からようやく抜け出し、高度成長の波に乗って、人々のもの豊かな楽しい生活に貢献を目的として発展した来たスーパーマーケットですが、現在では国民の大多数が毎日の食材をお任せしているのです。「お医者さんは病気をお預かりしますが、スーパーは地域の人々の命と健康をお預かりしている」という使命と責任のあることを、いま一度厳しく自覚していただきたいと思うのです。

  全国には尊敬するよい商品を売る良心的なスーパーも結構あるのですが、近所の安売りの店に食われて、必ずしも繁盛していないようであります。

  私自身、スーパーマーケットに長らく身を置き、その実務経験から、また流通業者としてスーパーに有機農産物等を販売してきた経験から、現在のスーパー事情もある程度は理解もできます。

  消費者の豊かな生活実現のために古い体制や商習慣を打ち破り、流通革命に立ち上がったスーパーは、消費者の多くの支持を得て大発展してきました。しかし今や戦後の経済最優先型の社会システムは終焉を迎え、利己的な競争原理の仕組みは総決算の時です。農業も食べ物も健康もこのままでは行き止まりどころか取り返しのつかないことになってしまいます。

  地域の人々の尊い命の健康を預かるスーパーマーケットは、「作り手」と「食べ手」の中間に立っています。その「つなぎ手」であり「商い手」として、新しい使命感に燃えて「よい農業、良い食べ物、よい食生活」が広がるよう全力投球していただくことに、大きな期待を持っています。

 

  昨今、厳しい競争とデフレ傾向の不況にさらされながらも、これからの時代はいい物を売らなければなければいけないと、よい食べ物販売に真剣に取り組むスーパーが出てきているようで、たいへんありがたいことである。しかしまだまだ体制は旧態依然たるものが多いといえます。それをどのように見分けどのように利用するかは、私たち一人ひとりの判断と決断によります。これまでお伝えしてきたこと、また引き続いてこれからお伝えすることについても参考の一助にしていただければありがたいと思います。

  前出の河野氏は「スーパーマーケットは有機野菜が嫌い」として、次のように述べています。

  「バブル時代の延長で小売業が継続されている。小売業が陳列業になるとその業者は衰退の道に入る。量販店は目先だけの都合で青果物を陳列しており、本部の計数管理だけが優先していて、小売業としての顔が見えていない。なぜこの青果物を選択して販売しているのか、この青果物の良さは何か、その消費の対象は誰なのか。

  スーパーマーケットでは有機農産物も取り扱っている。むしろ有機表示の農産物を販売しないストアはまれだ。しかし、決して好んで推進し販売する姿勢ではない。有機と表示すれば消費者のウケがいいという程度であり、店頭に並べられている有機農産物も単なる儀礼的な販売である。

  それだけではない。正しい農業生産の知識が低下している中で、スーパーマーケットの担当者が農産物の関係する業界を混乱に陥れているのだ。“われわれは大量の青果物を取り扱っているのだから、われわれの要求は消費者の要求である”というものだ。その要求には生産内容や野菜の知識はまったく無視されている。取りやすさ、陳列の簡便さだけを青果物の品質として産地に要求した結果、農業生産の内容まで変えてしまったのだ。一方の生産者や流通業者は、お得意様のスーパーマーケットを無視するわけにはいかない。

  食品を取り扱う業者は、最低のモラルとして国民の基礎的健康に寄与する責務があるという認識は持つべきである。これこそ商品選定の常識であり、基礎的な理念でなければならない。流通業者が量販店の意向に沿って農産物の品質を品定めし、その結果要求する商品基準は生産者の農業生産をゆがめ、外観だけ形状だけがいい野菜を低価格で流通する結果をもたらした。

  多くの消費者が量販店を頼りに日々買物しているが、これでは私たちの健康は守れない。量販店の買い付け姿勢は、健康な農業や消費者の健康を考えているとは思えないからである。消費者が商品選択の目を正確に持つ以外に量販店に改善を求めることは期待できない」

 

 河野氏は続いて次のようの述べている。

  「スーパーマーケットで有機野菜が定着していない。それには消費者、流通業者、農協組織、生産者にも多くの原因がある。

  有機のほうれん草は葉が外に大きく広がっており、結束するときに茎が折れやすく、見た目には美しくない。土や砂が茎と芯の間に入っていることも多く、消費者から嫌われる。さらに有機栽培では葉に穴があいていたり、時には虫がついていたりすることがある。虫が付いていると販売店にクレームを持ち込む消費者もある。有機栽培で虫の付くことのあるのは当たり前のことではあるが、消費者は当たり前とは言わない。これらのクレームは仕入れ担当者にはね返る。

  どのような店でもクレームを最小限にすることが仕入れ担当者の役割である。穴あきも虫付きも健康な食べ物のためには必要だ、と消費者に正しく説明できない担当者は、トラブルを回避する傾向が強い。仕入れ担当者は何を選択し、どのようにして売り場に立つ担当者に正しい情報を流すべきか常に迷っている。

  その結果、クレームが少なく日々の業務がスムーズにいく無難な商品の選択となる。それは見た目がよく、虫の付いていない化成肥料や農薬を使った栽培の野菜ということである。スーパーマーケットの要求が流通業者や市場の要求となり、農協組織や生産者に「無難な商品」を求めることになって、外観や形状重視の農産物が蔓延していく。

 

  「最近、デパートや生協、通販が好調に伸びてます。このままではスーパーはまったくダメだと思いますが、池田さんはどう思いますか」。

  先日、こだわって良質の農産物を生産流通している、有機関係の業界では有名な企業の役員から電話があった。彼の会社は、デパートやスーパー、生協、通販にも直接納品しており、この業界の実情には詳しい。

  この春に東京のデパートを見学している私は彼の言葉に納得がゆき「でしょうね、生協や通販のことはわかりませんが、デパートの変身には感心しました。スーパーは二極化の方向ですが、大勢としてはもっともっと悪くなって当然だと思うのですが」といって、彼のお話を具体的にうかがいながら私なりの見解を申し上げました。

  今朝(8月2日)、友人が2、3日前のものですがと『読売新聞』の切抜きを持ってきてくれた。記事の一部をご紹介します。

  「西部、東急、伊勢丹、「デパ地下」に高級スーパー」「高級スーパーは、価格は一般のスーパーより高めだが、無農薬や有機栽培の生鮮食料品、輸入食材など品質の高い品ぞろえが人気だ。スーパー業界の全国売上高が31ヶ月連続で前年実績を割り込んでいる中でザ・ガーデンは前年比5%増と好調だ」

  6月1日の『日本農業新聞』にこんな記事が載っている。

  「食料品14.9%増・6月の日本通販協会」「日本通信販売協会が31日までに発表した6月の通信販売売上高によると、前年同月比1.8%と前月に続き増加した。商品別では、食料品は14.9%と5月(25.4%)同様高い伸びだった」

  景気低迷、厳しい中でも伸びるべきところは伸びている。ちなみに同日の『日本農業新聞』に次のような生活の厳しい世情を表す記事が出ている中でである。

  「農業所得5%減、野菜価格の低迷響く、農水省統計」「6月の完全失業率4.9%で最悪続く、失業者3ヶ月連続の増」「2ヶ月連続で給与総額減少、厚労省調べ」「消費支出3.3%減、6月のサラリーマン世帯」

  国民の暮らしは厳しい。「生活応援」だとか「奥様の家計を支援します」などと銘うって、農家や生産者、仕入先を泣かせて「さァ、安いよ!安いよ!」だけでいいのかどうか。

  余談であるが、私は食品に「高級」という言葉を使うのは嫌いだ。高級とは何を指しており、またどういう意味なのだろうか。高額である?高品質である?和紙に包んで桐の箱に入っている?季節外れ?○○でしか売っていない?……。何かおそらく厳選された特別なものということなのかもしれないが、特別な人が特別な時しか利用せず、一般の人が普段の食生活にはとても買えたものではないということでは、食べ物としての意味がない。高級食品とは必ずしもいい食品とは一致しない。特別にこだわって作られた高級茶なるものには、硝酸塩濃度が高いという話もある

  ついでながら価格の高い安いについても一言述べよう。いわゆる高級なるものにつけられている高価格についても、安さを全面に打ち出した商品の超低価格についても、食べ物としての質とか値打ちから考えて納得いかず、どうして、おかしいんじゃないの、とその生産者やメーカー、販売企業の姿勢に疑問を持たざるを得ない物が多い。

  国民全ての人々の健康な命を育み支えていく大事な食べ物なのです。誰しもが毎日食する当たり前の食材だからこそ、真面目に良心的に作られたまともな良い食品にこそ、余分なものを足したり大事なものを引いたりせず、生産者も、商人も、消費者も三者が成り立つ、納得すべき価格をつけ、真心込めて販売して欲しい。

 

 

 

 

 


 

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生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
L ife A griculture F oods

FAX :076-223-2005
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池田 優

 

 

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