山ちゃんの食べもの考

 

 

その263
 



食は生命なり
「生命なきは食にあらず」とも云われますが、
人は多くの生命を頂く事で生かされている。
植物の生命も動物の生命も微生物の生命も、
土の生命も水の生命も空気の生命も、
すべての生命がつながって生かされている。
そんな「共生」の世界で生かされている。
「人は何を食べるのかによって決まる」とも云う。
肉体的な健康、長寿のみならず、
知性、思想、性格までをも決すると。
その食べ物の作り方、その食べ物の商いほう、
その食べ物の選び方、買い方、食べ方は、
その人の生き方、その考え方そのものであると。

                                   
(山ちゃん)
『食は生命なり』 【120】
 
生田 哲  著   PHP新書
『食べ物を変えれば脳が変わる』
その9
 
 
第5章 うつを撃退する栄養素
 
● あなたの気分は?
 
うつは、あなたがかかっているとか、かかっていないとかいうタイプの病気ではない。
わたしたちの「感情」あるいは「気分」は、機嫌がいい状態からひどい落胆までの範囲のどこかに位置する。
 
ただしアメリカ精神医学会が作成しわが国でも採用されている診断マニアル(DSM−W)によれば、悲しみや落胆、興味や喜びの喪失、体重の増加や減少、睡眠障害、あせり、疲労感など9つの症状がかかげられ、これらの症状のうち5つの症状が少なくとも2週間つづくと「うつ病」と診断されることになっている。
要するに、不幸で落ち込んだ気分に2週間ひたればうつ病と判断される。
 
病症から起き上がることができないほど深刻なうつ病患者は少数派で、多くは軽症のうつ病患者である。
本書で取り扱うのは深刻な「うつ病」ではなく、軽症のうつ病であることから「うつ」と表現する。
なお、既存の調査結果をしめすケースではうつ病と記述する。
 
一生のうちに一度は「うつ病」にかかる割合は、女性は10〜25%。男性は5〜12%と見積もられている。
また、WHOの推計によると、日本人のうつ病患者は人口の4〜5%とされているから、約480〜720万人がうつ病に苦しんでいることになる。
 
現在、わが国には500万人のうつ病患者が存在すると見積もられている。
だが、この数値は日照時間の少なくなる冬に増加する傾向にある。
季節性うつ病とか、ウインターブルーなどと呼ばれている、うつである。
 
わたし達の多くは、気分が低調だと嘆いたりするが、自らを「うつ病」と考えることもなければ、治療を受けるために病院を訪ねようとは思わない。
 
心の病というほどではないが「気分が低調」「ブルー」の状態にある人は多いに違いない。
この心の状態が本書でいう「うつ」である。
うつで毎日を送るより、幸福を感じ、やる気に満ちた人生を歩みたいものである。
 
本書では、うつを改善することが知られている栄養素を紹介する。
 
まず、あなたの気分がどんな状態なのかを調べてみよう。
以下の問いにあてはまれば□にチェックし、その数を点数とする。
 
□ 朝気分が悪いことが多いですか?
□ しばしば、がっかりすることがありますか?
□ 1日がはじまるのが嫌なことがありますか?
□ 夜、眠りにつきにくかったり、夜中に起きたりしますか?
□ イライラしたり、怒ることが多いですか?
□ 以前は習慣にしていたことを、今はするのにかなりの努力を要しますか?
□ 人とのかかわりを避け、孤独でいたいと思いますか?
□ 食欲はありますか?
□ ダイエット中でもないのに体重は落ちていますか?
□ あなたはみずからを魅力的でないとか、愛されてないと思いますか?
□ 意思決定ができないことがありますか?
□ 以前なら楽しかった活動が今ではそれほど楽しいとは感じませんか?
□ 恐いと感じることが多いですか?
□ 未来について希望が持てないと思いますか?
 
1〜4点
時々ややブルー内分になることがあっても、あなたは正常といえる。本書のアドバイスにしたがって、よい気分を維持してほしい。
 
5〜10点
気分を押し上げる必要がある
 
11点以上
あなたはうつ状態にある。
 
 
● うつの気分に2面あり
 
気分が落ち込む原因は、2つの面から考えることができる。
「心の問題」と「脳の生化学」である。
 
まず、「心の問題」から見ていこう。
 
抗うつ薬を服用している人が根本的に問題を解決するには、彼らの人生でうまくいっていない事柄に真正面から取り組まねばならない。
 
うつは、彼らの怒りの表現であることが多い。
悲しみとは、突き詰めて考えると、ほんとうは怒りであることが多い。
怒りがうまく表現できないで育つと、それが心の中で蓄積していき、やがて、うつという形になってあらわれるのである。
 
もしあなたがそうなら、静かなところにいき、素直な気持ちになって、あなたが何に対して怒っているのか、みずからに問いかけてみよう。
人間関係でうまくいかないことがある、仕事に満足できていない、夢がかなえられなかったことなどが思い出されるかもしれない。
 
また、なすべきことをしないために、うつになる人もいる。
本当にしたいと思っていることをしないために、すなわち、みずからを裏切ることによってうつになるのだ。
 
あなたの心の声に忠実に生きているだろうか。
「どうせできるわけがない」などと、みずからに限界を設けてなすべきことをしないで、妥協して生きているのではないだろうか。
仕事、人間関係、人生においてあなたの心や感情を思うように表現しているだろうか。
 
もし、これらのことに思い当たるなら、心理カウンセラーに相談したり、自己啓発の書物を読むとよいかもしれない。
 
 
● 気分の落ち込みとやる気の喪失の原因
 
そして、もう1つのアプローチは、あなたの脳をチューンナップし、伝達物質のバランスをとったり、伝達物質の流れをよくすることである。
気分というのは、心のもち方だけで決まらないこともあるのだ。
そこで「脳の生化学」からのアプローチが重要になってくる。
 
脳を最適な栄養状態にすると、気分が向上するだけでなく、元気になるし、人生を変えるんだという気概も出てくる。
筆者のよく知る数人の心理カウンセラーによると、クライアントが脳の栄養状態を改善し、脳をチューンナップするようにカウンセリングすると、芳しい結果が得られることが多いという。
 
脳の生化学という面から見たとき、気分が落ち込み、やる気を失いやすくなるのは、つぎの3つのケースである

● 血糖値の乱高下
● 栄養素の不足(ナイアシン、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、ビタミンC、亜鉛、マグネシウム、必須脂肪酸)
● トリプトファンやチロシンの不足
 
第一の要因は、血糖値が安定していないこと。
血糖値を安定させるよい方法は、第2章でもふれたが、魚介類や肉類などのタンパク質、玄米、野菜類、海藻類など食物繊維を多く含んだ食品を食べること、マルチビタミンを摂取することである。
それからインスリンの働きを助けるクロムは、酵母、牛のレバー、ジャガイモ、小麦胚芽、ピーマン、リンゴに多く含まれるので積極的に食べるとよい。
 
そして気分を向上させるのに効果的な栄養素として、ナイアシン、B6、葉酸、B12、C、亜鉛、マグネシウム、必須アミに酸を上げることができる。
 
ナイアシン、B6、葉酸は、メタンに相当するメチル基を移動させるメチル化を進める酵素を助ける。
このメチル化は、脳内の重要な伝達物質ドーバミンやノルアドレナリンをつくるのに欠かせない。
ドーバミンは快感を発生させる物質であり、ノルアドレナリンはやる気を発生させる物質であるから、ナイアシン、B6、葉酸がどれほど大切かは容易に理解できる。
 
ロンドンにあるキングスカレッジの研究者は、葉酸レベルの低い、あるいは低めのうつ病患者に抗うつ薬と葉酸を併用してもらうと、うつからの回復が劇的に早まることを報告した。
この研究で、うつやその他の心の病に苦しむ3分の1が葉酸不足であることも明らかになった。
別の研究では、ビタミンCの摂取でうつからの回復が早まることもわかっている。
 
 
● 2種類のうつ
 
一口にうつといっても、惨めな気分になるものと、やる気の消失の2種類があるようだ。
最も広く受け入れられている理論によると、2種類の伝達物質のアンバランスが感情のアンバランスを引き起こすという。
 
? 気分に密接にかかわるセロトニン
? やる気を生み出す、ノルアドレナリンやアドレナリン
 
さまざまな抗うつ薬が処方されているが、その大多数は、この2種類の伝達物質のはたらきを直接的あるいは間接的に高めることによって、気分を向上させようとするものだ。
 
抗うつ薬でもっとも頻繁に処方されるのが、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)で、その代表は、ルボックス、パキシル、ゾロトフ、プロザックなどである。
SSRIは、神経細胞から放出されたセロトニンが再取り込みされるのを妨げることによって、セロトニンレベルだけを人工的に上げる。
 
ノルアドレナリンレベルだけを上げるのが、アトモキセチンやレボキセチンというNARI〈選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤〉。
サフラジンというモノアミン酸化酵素阻害剤は、セロトニン、ノルアドレナリン、ドバミンレベルを上げる。
 
イミプラミンやアミトリプチリンなどの3環系抗うつ薬は、セロトニンの利用効率を上げる。
しかし、どの伝達物質のレベルも、脳の栄養状態、すなわち、わたしたちが食べる食べ物によって大きく変わる。
 
 
● セロトニン VS.ノルアドレナリン
 
うつを改善する薬の研究で中心となってきたのが、ノルアドレナリンやアドレナリンと、セロトニンである。
セロトニンが気分、ノルアドレナリンやアドレナリンがやる気をコントロールするという仮説が前提にある。
 
だが、この仮説は本当なのだろうか。
ファルマシア・アップジョン社のアントネラ・ダビニ博士は、気分の落ち込む患者と無気力に悲しむ患者203人に、セトロニンのはたらきを高めるSSRI、あるいは、ノルアドレナリンのはたらきを高めるNARIを摂取してもらった。
 
すると、SSRIには気分を向上させる効果が、NARIはやる気を起こさせる効果が認められた。
というわけで、この仮説が正しいことが証明され、理論に格上げされた。
 
気分の落ち込みはセロトニン不足、無気力はノルアドレナリン・アドレナリン不足が原因ということまでは納得できた。
そうなると2つの疑問が浮かんでくる。
 
一つめの疑問は、なぜ、ある特定の人がセロトニン不足やノルアドレナリン不足に陥り、それが症状となって現れるのだろうか。
そして、この不足を解消するには、どんな栄養素を摂取すればいいのだろうか。
 
現代に生きるわたし達の毎日は多忙で、多くのことに対処しなければならない。
生活や活動のペースが速すぎて、人は慢性的なストレスにさらされている。
脳は大量のノルアドレナリンやセロトニンを作って、ストレスや気分の上がり下がりに対処するのだが、ストレスが増大した現代人は、これらの伝達物質をつくる栄養素が不足しやすいのだ。
 
わたしたちの食事が栄養面において最適とはいいがたいことが一因であるが、ストレスのせいで、これらの伝達物質をつくる栄養素の要求量が増えたことにも原因がある。
 
ストレスは栄養素を消費する。
たとえば、喫煙や花粉症によって、普段より多くのビタミンCが消費される。
ストレスが多くかかるとトリプトファンの必要量が増えることもわかっている。
現代人はうつになりやすい生活を送っているといえよう。
 
 
● 女性はうつになりやすい
 
女性は男性の3倍もうつになる人が多い。
この理由を心理的、あるいは社会的な要因によって説明する理論がいくつか提出されているが、いちばん肝心なのは、男性と女性は生物的に違うという点だ。
 
このことを証明したのが、カナダにあるマギル大学のミルコ・ディクシック博士のグループである。
同博士らは、人が脳内でセロトニンをつくる際のスピードを測定する画像技術を開発した。
この装置を用いて、彼らは脳内でセロトニンを作るスピードは、男性が女性よりも52%速いということを発見した。
 
この研究や他の研究結果から、女性は男性に比べてセロトニンレベルが下がりやすいことが明らかになった。
 
脳内が低セロトニンになったときの反応も、男女で違いが見られる。
女性が低セロトニンになると、うつや不安が発祥しやすい。
一方、男性が低セロトニンになると、攻撃的になったり、アルコール依存症に陥りやすい。
 
低セロトニンに対する男女差は、おそらく、男性は外に向かい、女性はうちに向かうという、社会的な条件づけによるものと思われる。
 
最近の研究で注目されているうつの原因は以下の6つである。
● エストロゲンの不足(女性)
● テストステロンの不足(男性)
● 日光の不足
● 運動不足
● 過剰なストレス
● ビタミンやミネラルの不足
 
もしあなたが気分の落ち込み、緊張、イライラ、無気力、睡眠障害、大食い、性欲減退などを感じているなら、セロトニンレベルが低い可能性が高い。
 
エストロゲンレベルが低いと、セロトニンレベルが低くなる。
それは、エストロゲンにセロトニンの分解を防ぐ働きがあるからである。
これで、エストロゲンレベルの低い月経前、更年期、閉経期の女性がうつになりやすい事実をうまく説明できる。
またテストステロンレベルが低いと、男性はやる気を失せてしまう。
 
日光浴がエストロゲンの生産を高めるのだが、わたし達の大多数は日光に十分当たっていない。
現代に生きるわたしたち派、1日のうち23時間は室内で過ごし、屋外で日光に当たるのはせいぜい1時間程度である。
とりわけ、日光不足は冬に顕著となる。
 
ストレスもまたセロトニンレベルを急激に低下させる。しかし、ウォーキングやジョギングなどの軽い運動をすると、ストレスが減少するので、セロトニンレベルの減少を抑制できる。
エストロゲンレベルの低下、日光浴の減少によって現代人のセロトニンレベルは低下しがちだが、このマイナスの影響を受けやすいのは、男性よりも女性である。
男性は女性の2倍のスピードでセロトニンをつくるので、もしトリプトファンが食事から十分に摂取されるなら、セロトニン低下によるうつから回復しやすいのである。
 
ここからセロトニンとトリプトファンについてより詳しく見ていこう。
 
 
● うつはトリプトファン不足が原因なのか
 
パキシルやゾロフトなどのSSRIと呼ばれる抗うつ薬は、脳内におけるセロトニンの利用効率を高めることで抗うつ効果を発揮するとされる。
 
困るのは、SSRIの服用者の約4分の1に不快な副作用があらわれることである。
しかも、SSRIは依存症になりやすい。
 
とりわけ、未成年者の自殺願望を含む深刻な副作用があることが明らかとなり、欧米では未成年者の服用を禁止している。
 
人口の薬でセロトニンの利用効率を高めるよりも、わたしたちの好きな食べ物を賢く選択し、楽しく食べることによって、脳内のセロトニンを自然に増やすのがよいに決まっている。
第一そのほうが副作用は少ないし、依存症になることもないので、長期的にははるかにすぐれた戦略であるといえる。
 
セロトニンは、トリプトファンというアミノ酸から作られる。
それなら、トリプトファンを含まない食べ物を摂取したら、どういう結果になるだろう。
 
この疑問に答えを出したのが、オックスフォード大学精神科のフィリップ・コウェン教授のグループで、論文は超一流誌「ランセット」に掲載された。
 
同教授は、過去にうつにかかったことがあるが回復し、薬を服用していない女性15人に、トリプトファンだけを含まない栄養満天のジュースを飲んでもらった。
すると7時間以内に15人中10人の気分が低下した。
うつの症状が現れたのだ。
 
一方、トリプトファンを含んだ栄養満点のジュースを同じ人たちに飲んでおらったところ、被験者の気分は向上した。
 
こうして、うつの原因の一つはトリプトファン不足であることが証明された。
 
トリプトファンは、普通の食事にはごくわずかしか含まれていないため、特に不足しやすいアミに酸として知られる。
トリプトファンが多く含まれている食べ物は、魚介類、鶏卵、豆腐、ピーナツ、バナナ、アーモンド、牛乳、チーズなどである。
 
筆者がトリプトファンに関する多くの医学論文を検証したところ、トリプトファンをサプリメントで摂取することにより、脳内のセロトニンレベルが上がり、抗うつやくと同じ程度に気分が向上するとの結論に至った。
 
気分が晴れないようなら、トリプトファンを1日1g。
気分がかなり落ち込んでいたら、1日3gを摂取するとよいだろう。
それから、トリプトファンを含む食べ物を毎日積極的に摂りたいものである。
 
 
● トリプトファンをフルーツジュースといっしょに
 
しかし、ここでとても気になることがある。
トリプトファンを含んだ食べ物を食べても、糖類を多く含んだ食べ物を食べたときほど脳内のセロトニンレベルが上がらないのである。
 
こんな変なことを発見したのは、MIT〈マサチューセッツ工科大学〉のリチャード・ワートマン教授だ。
同教授が被験者を2グループに分け、一方に普通アメリカで食べられている高タンパク質の朝食を、他方に高糖質の朝食を与えたところ、後者だけが脳内のセロトニンレベルが上がったことが判明した。
後者にはトリプトファンがまったく含まれていなかったにもかかわらず、である。
 
なぜ、こんな意外な結果になったのだろう。
脳内でトリプトファンがセロトニンに変換されるには、まず、血液に溶けているトリプトファンが血液−脳関門を通過して脳内に入ることが絶対条件である。
 
この関門を通過させてくれる運搬人がいるのだが、この運搬人はトリプトファンの専属でなく、チロシン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシンといった合計6種類のアミノ酸も同時に運んでいる。
前述の実験では、被験者が高タンパク質を食べたため、他のアミノ酸と競争することになって、トリプトファンは脳内にほとんどは入れなかったのである。
 
しかし、このとき、バナナやフルーツジュースなどの糖類といっしょにトリプトファン食を摂れば、脳内でセロトニンがつくられるから不思議だ。
実は、バナナやフルーツジュースによって血糖値が上がるため、インスリンが放出されるのだが、このインスリンが、トリプトファンによる血液−脳関門の通貨を助けるのである。
 
うつになると、甘いものをやたらと口にするする人がいるが、その理由がこれで説明できる。
インスリンを放出させ、トリプトファンを脳に運び込んで、セロトニンをつくり、気分を向上させるためなのである。
 
だから、もしあなたが、砂糖のたっぷり入った食べ物を食べて気分がよくなるようなら、多分、セロトニンレベルが低いのだろう。
困るのは、甘いスナック菓子は、精製された糖とデンプンが多く含まれているため、血糖値を乱高下させやすいばかりか、高カロリーのため太りやすいことにある。
 
では、どうすればいいのだろう。
トリプトファンが他のアミノ酸と競争するのを避けるため、なるべく胃が空のとき(空腹時に)トリプトファンをフルーツジュースといっしょに摂るとよい。
 
 
● トリプトファン事件
 
それなら、トリプトファンをサプリメントで摂取すればすればいいではないかと思われるかもしれない。
実際数十万人の人が、1989年まではトリプトファンをサプリメントで摂取し、うつを改善したり、不眠の改善に大きな成果を挙げていた。
だが、昭和電工による大規模な食品公害事件が発生して、この状況が一変した。
 
昭和電工は、遺伝子組み換え微生物を利用して安価にトリプトファンを製造する技術を開発した。
しかし同社は、トリプトファン製造工程でできた複数の不純物を精製過程において取り除かないまま、製品としてアメリカに出荷してしまったのである。
 
このトリプトファンを摂取した数十万人のうち、一部の数千人に好酸球増加・筋痛症(EMS)という珍しい自己免疫疾患があらわれた。
EMSは、白血球の一つである好酸球が増えるのが特徴で、ひどい筋肉の痛み、痙攣、腕や足のむくみ、感覚の麻痺、発熱、発疹をともなう。
この事故によって全米で38人が死亡した。
 
被害のあったアメリカと会社のある日本で、原因を解明すべく、追跡が行われた。
その結果浮かび上がってきたのが、製造工程でできたエチレンビストリプトファン(EBT)とフェ似る網にアラニン(PAA)の毒性である。
とはいえ、EMSを動物に起こすことができないため、原因究明のための動物実験もままならない。
 
さらに困ったことは、昭和電工が設備や遺伝子組み換え微生物を廃棄してしまったことである。
筆者は隠蔽工作ではないかと睨んでいる。
 
連日、アメリカのマスコミがこの食品公害事件を大きく取り上げ、1988年、FDA(米食品医薬品局)は、サプリメントとしてのトリプトファンの販売を禁止した。
だが、2001年、この販売禁止が解除されたことで、消費者はかつてのように自由にL−トリプトファンのサプリメントを購入できるようになった。
 
トリプトファンは必須アミに酸の一つで、もともと安全なものであるから、日本でトリプトファンのサプリメントが自由に購入できるのは当然のことである。
 
 
● 副作用の少ない最高の抗うつ物質5-HTP
 
サプリメントによるトリプトファンの摂取が気分を改善することが明らかとなっているが、それよりもう一段階セロトニンに近づいた5-ヒドロキシトリプトファンはさらに効果的だ。
名前が長いので5-HTPと略記されることが多い。
 
5-HTPは、アフリカの「グリフォニア・シンプリフォニア」という豆科植物の種から抽出された天然の物質である。
 
5-HTPについての最初の研究は、1972年に大阪大学医学部の佐野勇教授のグループによって報告された。
 
それによると、107人のうつの人を被験者に5-HTPを1日50〜300mg摂取してもらったところ、2週間以内に彼らの半数以上にうつ症状の改善が見られた。
そして4週間の治験が終わるころには、4分の3近くの被験者がうつから完全に回復、あるいは気分が著しく向上した。
しかも副作用はなかったとされる。
 
それ以来、5-HTPの抗うつ効果について多くの研究が行われ、やがて5-HTPは副作用の少ない最高の抗うつ物質として知られるようになった。
そのような研究の代表が、スイスにある精神医療大学のウォルター・ポルディンガー教授による、5-HTPとSSRIとの効果の比較である。
 
同教授はうつの被験者34人を集めて2グループに分けた。
1つのグループに1日300mgの5-HTPを6週間出張してもらい、もう一方のグループに、SSRIのルボックスを同期間摂取してもらった。
 
そして、患者にいろいろな質問をし、その答えによって、うつの程度を計るハミルトンうつ検査による診断と、被験者の自己申告によって症状を判定したところ、どちらのグループもうつ症状は著しく改善したことがわかった。
だが、改善の度合いは、5-HTPグループのほうがルボックスグループに比べて、うつ、不安、不眠、身体的症状の4分野で高かったのである。
 
5-HTPが3環系統うつ薬のイミブラミンと少なくとも同程度か、それ以上の効果があることを証明する多くの論文が評価の高い国際医学雑誌に発表されている。
なぜイミブラミンと比べるかというと、イミブラミンは信頼できる抗うつ薬であり、抗うつ薬の候補薬の効果を判定する際に、標準薬として使用されているのだ。
 
5-HTPは安価である。
その上、副作用は抗うつ薬に比べて非常に少ない。
そして数多くの医学論文が、5-HTPは脳内のセロトニンレベルを回復し、気分を向上させるという科学的証拠を突きつけている。
それにもかかわらず、精神科医はこれを処方に決して用いてこなかった。
 
 

 

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生命の農と食を考える
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池田 優

 

 

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