山ちゃんの食べもの考

 

 

その329
 



食は生命なり
「生命なきは食にあらず」とも云われますが、
人は多くの生命を頂く事で生かされている。
植物の生命も動物の生命も微生物の生命も、
土の生命も水の生命も空気の生命も、
すべての生命がつながって生かされている。
そんな「共生」の世界で生かされている。
「人は何を食べるのかによって決まる」とも云う。
肉体的な健康、長寿のみならず、
知性、思想、性格までをも決すると。
その食べ物の作り方、その食べ物の商いほう、
その食べ物の選び方、買い方、食べ方は、
その人の生き方、その考え方そのものであると。

                                   
(山ちゃん)
『食は生命なり』 【172】
 
“食べかた上手”
食を変えて百歳まで生きる
神奈川県立保健福祉大学教授 中村丁次 著
幻冬舎発行 より その1
 
● 本書を読まれる方に
聖路加国際病院理事長 日野原重明
 
日本における栄養学の理論と実践の両方面での専門家の第一人者として知られている中村丁次先生が、このたび「食べ方上手は百歳までもの長寿に連なる」という食事療法の内容をわかりやすく書かれたこの本を出版されました。
 
先生は長年、聖マリアンナ医科大学の栄養部長をされていましたが、2003年の4月から神奈川県立健康福祉大学の栄養学長に転任され、栄養士の教育を通して国民の生活習慣病の予防と健康増進をもたらせる職務に専心されることになりました。
 
私は先生と長年にわたり世界の新しい栄養学を紹介する雑誌の編集にかかわってきました。
その間に中村先生の学識とその実践に非常に教えられることがありました。
 
私は先に「生き方上手」を示す本を書き、多くの読者を持ちましたが、この新しく出版された中村先生の本は「食べ方上手」に生きる生き方、そしてそれが百歳の健康長寿にも連なることがわかりやすくかかれています。
 
この本は健康を維持し、生活習慣病を予防し、体力を増進させる食事のとりかたを始め、先生の長年の経験からいろいろの実例から紹介され、人はなぜがんや高血圧症や心臓病および糖尿病になるかがわかりやすく書かれています。
そのための食事や献立や食事のとりかたが新しい栄養学の現場の下に解説され、だれでもが理解できるのです。
 
いま、健康食品が大流行ですが、その可否がはっきり書かれており、いろいろの広告で戸惑いする人にはには目の覚めるような警告がされています。
 
この本が、皆さんから心身ともに健やかに生きる指針となることを信じ、推薦したいと思います。
 
 
 
● はじめに  日本の中高年は病院依存症!?
 
私は今春まで27年間、聖マリアンナ医科大学病院で、慢性病の方々の食事療法や栄養指導に携わってきました。
長年勤めていた病院で、毎朝感じていたことがあります。
 
朝8時を回るころから、待合室には診察を待つ人、人、人の列。
9時にもなれば、待合室は順番待ちの患者さんであふれかえります。
その多くは、中高年といわれる年代の方々です。
とりわけ糖尿病や高血圧などの生活習慣病で、毎日飲む薬をもらうために定期的に病院を訪れる患者さんの多いことには驚きます。
 
日本ではいま、高血圧、糖尿病、脳血管疾患の患者数だけでも合わせて1000万人以上に登りますから、全国どこの病院でもこうした風景は日常的なものになっています。
 
一方、考えてみてください。
あなたの町の美術館や博物館、文化施設などは同でしょうか。
たまに開かれる大きな美術展などはさておいて、列をなすほどの活況が、毎朝見られますか?
文化施設はガラガラなのに、病院に通う高齢者がこんなに多い国なんて、何か変ではないか・・・・・・。
 
「おじいちゃん、今日は病院に行かないの」
「ああ、今日は具合が悪いからねえ」
こんな皮肉な冗談も、あながち冗談とばかりいえないほどです。
また、ちょっとした症状でも大きな総合病院で診察を受ける方が多いことも日本の医療の特徴で、これが病院の過密を生み出しているという意見もあるほどです。
 
日本はたしかに長寿国となりました。
しかし、長い高齢時代を生きる中高年の方々が、いちばん親しく訪れるところが病院というのは、やはり変です。
毎日のように病院に通うのが将来のライフスタイルだとしたら、私たちは長いリタイア後の生活に夢がもてません。
健脚でいきいきと暮らす、自立した高齢者が増えていってこそ、私たちは長生きすることに夢や希望を持てるのです。
 
日本は1961年度から国民皆保険制度をとってきました。
老人医療費も、低い自己負担率に抑えられてきました。
この誇るべき制度のおかげで、国民は諸外国に比べてローコストで質のよい医療を受けることができ、安心して病院にかかることができたわけです。
 
しかしいま、この制度に行き詰まりが見えています。
少子高齢化が進み、従来の保険財政の仕組みではうまくいかないことが明らかになってきたからです。
また今後、老人医療費が増大する一方であることも確実です。
 
そんな中で、2003年度から、患者さんが負担する医療費の比率が3割に増えました。
私たち国民は、今後、安心して十分な医療サービスを受けられるようになるためにも、一人ひとりができる自助努力として、病気になりにくい生活習慣をつくっていくことが大事ではないかと思います。
 
近年、100歳近くになっても現役で活躍する元気なお年寄りが増えている一方で、老人医療費の主な中身は、そのほとんどが生活習慣病といわれる病気の治療費に当てられています。
糖尿病や高血圧、高脂血症、通風、その結果としての動脈硬化、脳梗塞や心筋梗塞、さらに肝硬変、がん。
これらのほとんどは慢性病で、一度かかると薬を飲んだり食事制限をしながら一生つきあっていかなければいけないものが多いのです。
 
生活習慣病は、偏った食習慣や運動不足、若いころからの誤った生活習慣の蓄積が原因となって起こるものですから、逆にいえば、早いうちから生活習慣を正しいものに変えれば予防ができる病気です。なかでも、直接体の健康状態を左右するものは食事の習慣です。
 
もし50代、60代に生活習慣病にかかれば、その後の長い年月を薬や病院と縁が切れないまま生活しなければなりません。
しかし。生活習慣病にかからずにその年代を乗り切れば、かくしゃくたる元気老人になれる可能性は誰にでもあるのです。
 
いま、お年寄りの間では「ピン・ピン・コロリ」という言葉が浸透しているそうです。
いつまでもピンピン暮らし、寝たきりにならずにコロリと死ぬという、元気老人を象徴する言葉だそうです。
 
リタイア後の長い年月を半病人として暮らすか、最後までピンピン暮らして現役のままコロリと死ぬか。
それは今日からあなたの生活習慣、とりわけ毎日の食事のとりかたしだいで決まるといっていいのです。
 
正しい食事の習慣は、どんな医療保険よりも確実にあなたの人生を守ってくれます。
いまほど、長寿のための正しい栄養学が認められているときはありません。
私は改めて、声を大にして叫びたいのです。
元気で長生きしたければ、まず食べ方を変えることですよ、と。
 
 
● 働き手よりも老人が多い時代がやってくる!
最も人口の多い団塊の世代から上の世代が高齢化していくと、老人人口の割合が増加していきます。
 
● 老人医療費の負担は増える一方
2020年には、老人医療費は国民医療費の50%を超えると推計されています。
 2000年度・・・10.1兆円  34.7%
 2005年度・・・15兆円    40%
 2010年度・・・20兆円    44%
 2015年度・・・27兆円    48%
 2020年度・・・36兆円    53%
 2025年度・・・45兆円    56%
 
 
 
第1章 医療現場がパンク寸前
 
● 食べ方を変えれば国民医療費も削減できる
 
今医療の世界は、あちらもこちらもパンク寸前に状態です。
このまま長期の治療が必要とされる生活習慣病の患者が増え続ければ、待合室はますます込み合い、医療費は保険財政はあぱくするでしょう。
 
そこをにらんで、国もさまざまな施策を打ち出しています。
おそらく、今いちばん人口の多い団塊の世代がお年寄りになるころには、今のお年寄りのように毎日病院通いなどしていられなくなると思ったほうがよいでしょう。
 
医療機関も、治療にかかるコストをシビアに考えなければいけなくなっています。
ひとつの例で、2003年4月から全国82の特定機能病院に、入院医療費の「包括評価方式」というものが導入されるようになりました。
これは病気の種類と診療内容ごとに一定の額を定めて医療費を支払うというもので、たとえば心筋梗塞で入院30日ならいくらと、最初から治療にかかる額が決められます。
これまでのように、個々の治療や薬に対して加算式に医療保険が下りる「出来高払い方式」ではないのです。
 
こうなると、病院はできるだけお金がかからなくて効率のいい治療をしたほうがいいわけですから、むやみに薬を出したり検査をすることはできなくなります。
そのときいちばんお金のかからない方法は、実は食事療法なのです。
 
私はこれまで病院で5万人あまりの患者さんに栄養指導を行なってきましたが、食事療法を行なうだけで血圧や血糖値やコレステロール値、中性脂肪の数値が下がるという現象は日常的に起こります。
たとえば本態性高血圧の場合、病院に入院して安静にし食事療法を受けると、それだけで血圧が降下する場合が多いのです。
中には「いままで薬をのんでいたがこんなに下がったことはない」と驚かれる方もいます。
 
また食事療法と薬物療法を併用すると、薬の効き方もよくなるのです。
薬の量が少なくてすめば、副作用も少なくてすみ、結果的に医療費の抑制にもつながります。
薬はどうしても肝臓に負担をかけますから、なるべく少ない量で治療ができれば患者さんのためにもいいのです。
 
考えてみれば、人間はもともと体に自然治癒力をもっていますから、それを高めるような治療法が結局いちばん安く上がるわけです。
昔から病気の回復期などに「栄養をつけて元気になろうね」といわれるのは、栄養をつけることによって免疫力を上げ、自然治癒力を高めて、それによって病気をすみやかに治していこう、という意味なのです。
 
そのほかにも、食事療法によって病気の進行を遅らせたり、手術後で低下してしまった患者さんの免疫力を栄養療法によって上げるなど、栄養で患者さんのQOL(生活の質)を上げることができるケースはたくさんあります。
今後、病院における栄養管理や食事療法への取り組みがもっとすすめば、より低コストで患者さんの体にやさしい、質の高い医療が実現できるはずだと私は確信しています。
 
 
 
● 免疫力をつけるいちばん安い方法は普段の食事
 
栄養状態のよしあしは、病気に対する抵抗力にもかなり関係しています。
人間の体にはもともとウイルスなどの病原体やガン細胞などと闘う免疫システムが備わっていますが、たんぱく質やビタミン、ミネラルなどの栄養素が欠乏するとその働きが弱まり、十分な免疫能を発揮することができなくなるのです。
 
免疫システムの中で大きな役割を発揮しているのは、白血球の中にある免疫細胞です。
病原体が体内に入ってくるとそれを異物と認識し、マクロファージが働いて食べてしまったり、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)などのリンパ球細胞が抗体を作り病原体を攻撃するなど、連係プレイで体を守っています。
このとき免疫細胞から分泌されて、抗体を作るよう命令したり攻撃を止めさせたりする情報伝達物質がサイトカインです。
 
ところが栄養不足で特にたんぱく質が不足すると、リンパ球細胞が減少して十分な抗体が作れず、いろいろな感染症にかかりやすくなります。
リンパ球も抗体もサイトカインも材料はたんぱく質ですから当然のことです。
たんぱく質はアミノ酸が組み合わされたものですが、アミノ酸自体も多様な形で免疫細胞を活性化する働きをしています。
また、脂肪に含まれるある種の脂肪酸は、サイトカインの産生に関係しています。
 
ビタミンも免疫力の維持には欠かせません。
特にビタミンCはサイトカインの一種であるインターフェロンを作るのに必要なので、不足すると免疫細胞がうまく働かなくなります。
このほか鉄や銅、亜鉛、セレン、葉酸などの微量元素も、免疫システムの維持に関係していることがわかっています。
 
人間にもともと備わっている免疫力も、これらの栄養素が足りないとうまく働いてくれなくなります。
しょっちゅう調子が悪くて風邪ばかりひいていたり、口内炎がなかなか治らない人は、これらの栄養素が足りなかったり、過労やストレスのために体内で消耗して、免疫力が落ちているのかもしれません。
実際、この程度の不調ならば、もともとの原因となるストレスを取り除いて栄養状態を改善すれば解消できる場合がほとんどです。
 
高齢者には、風邪をこじらせ肺炎で亡くなるケースが多いのですが、これは高齢になると免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなるからです。
このような老人に見られる免疫力の低下を、栄養のとり方で防げないかという研究もあります。
 
カナダのニューファンドランド・メモリー大学と国連のWHOが、65歳以上の老人96人を対象に行なった実験をご紹介しましょう。
半数の老人には、各種ビタミン・ミネラルが含まれた栄養剤を1年間投与し、残りの半数には、見た目にはまったく同じに見える偽の栄養剤を投与したのです。
本物の栄養剤には、ビタミンA、β-カロテン、ビタミンB群、C、D、E、葉酸、ナイアシン、それに鉄、亜鉛、銅、セレン、ヨウ素、カルシウム、マグネシウムなどが、1日に必要な量よりやや多めに含まれていました。
 
その結果、各種の検査で免疫能を調べてみると、栄養剤を補給したグループでは、しないグループよりも明らかに高い値を示したのです。
実際に感染症にかかった日数を調べても、栄養剤を補給したグループが平均23日だったのに対し、しないグループは平均48日。
栄養剤による栄養素の補給が免疫力を高め、感染症を予防するということがわかったのでした。
 
実はこの話で重要なのは、投与された栄養剤の量が、日常的に必要とされる量とさほど変わっていなかったという点です。
大量に投与したわけではありません。
ビタミン・ミネラルはとりすぎると過剰症になり、大量に投与すると逆に免疫能が低下したという報告もあります。
このことからも、偏らない日常の栄養補給が、いかに大切であるかがわかります。
 
病気の治療にも、栄養素を補給して免疫力を高めようという栄養療法が行なわれています。
たとえば感染症のひとつであるエイズは、免疫の仕組み自体が破綻してしまう病気ですが、あるアメリカの栄養学者は、エイズと栄養の関係を次のように発表しています。
 
まず、栄養状態の悪い人はエイズウイルスに感染しやすい。
次に、感染して陽性になってからの発病率や、発病までの期間は栄養状態に左右される。
つまり、たとえ感染しても、栄養状態がよければ、ある程度発病を予防できるということです。
 
三番目に、発病した患者に対しての延命効果です。
亡くなっていく患者さんはほとんどが深刻な栄養失調状態にあるので、できるだけ食べられるように工夫し、どうしても食べられない場合には、鼻からチューブを入れて経腸栄養剤を入れたり、静脈に直接栄養剤を投与する強制栄養法を用いたところ、かなりの延命効果がみられたそうです。
 
免疫力を高めるというと、アガリスクやプロポリスなどの健康食品や機能性食品を考える人も多いと思いますが、そういうものを利用する前に、日頃の食事で十分に栄養素を補給しつづけ、免疫システムがうまく働くベースを作っておくことも大事なのです。
 
 
 
● アメリカは食べ方を変えて心臓病患者を減らした
 
食べ方を変えるだけで病気を防ぐことができるのだろうか、がんや心臓病は文明病だから防ぎようがないんじゃないか、と疑問に思う人がいるかもしれません。
たしかに生活習慣病の増加には、交通の発達によって歩く機会が減ったなど、文明の進歩がもたらした要因もあります。
しかし、実際に食べ方を変えることで国民の心臓病にかかる率を減らした国があります。
それはアメリカです。
 
日野原重明先生の監訳書『100万人100歳の長生き上手』にも載っていましたが、全人口の中で100歳以上のお年寄りがどれだけいるかを比べてみると、日本とアメリカでは、アメリカのほうが100歳以上の方の人口比率が高いのです。
 
また、日本のお年よりは、年をとればとるほどやせ細る傾向があります。
やせて活動がにぶくなり、だんだん寝たきりになり、そして死を迎えるというのが普通でしょう。
しかし欧米のお年よりは、どちらかというと亡くなる直前までぴんぴん活動していて、寝たきり老人というのは少ないのです。
くわしくは後に述べますが、私は、これも食べ方の違いによるものだと考えています。
 
それにしても、日本人よりもはるかに不健康な食生活をしているというイメージの強いアメリカ人のほうが元気老人の率が高いというのは、意外な気がします。
この差はどうして出てきたのでしょうか。
 
実は、アメリカもかつて、日本と同じような問題を抱えていました。
先進国の中でも世界一豊かだった1960年代のアメリカでは、国民医療費がGNPの10%を超え、国家財政を圧迫するまでの事態となっていたのです。
これを憂慮した政府は、1969年、ニクソン大統領の命により、全国から1000人の医学者、栄養学者、食品学者、消費者代表をホワイトハウスに集めて会議を開きました。
これは「食品、栄養、健康に関するホワイトハウス会議」と呼ばれるもので、アメリカ国民だけでなく世界の健康政策に後々まで大きな影響を及ぼしました。
 
これを受けて1977年、ジョージ・マクガバン上院議員を委員長とする上院栄養問題特別委員会がまとめた報告書では、アメリカ人に多い心臓病やがんなどの病気が食事内容と深く関係しているとして、「アメリカ人のための食事改善目標」を発表しました。
これが有名な「マクガバン・レポート」です。
 
これは科学的・専門的な内容であったため、80年代には、これを国民にわかりやすく説明しようと、農務省や保健福祉省などの政府機関が国民のための食事やレシピのガイドラインを次々に発表しました。
いってみれば、アメリカは国が国民に正しい食事の仕方を啓蒙して、生活習慣病を減らそうとしたことになります。
そして、その結果はすでに出ています。
 
アメリカではこの10年余りで、心臓病の患者数、大腸ガンの患者数が減りました。
大腸ガンは、肉食を習慣とする欧米人に多い病気の一つです。
大腸ガンは食事の習慣と密接な関係を持っていることがわかります。
大腸ガンのリスク要因は、高脂肪や高カロリーで繊維質の少ない食事の習慣なのですが、肉食の国アメリカでそれが減ったのです
 
アメリカでは保健福祉省から、10年ごとに数値目標を定めた健康政策が発表されています。
1990年から目標を定めた「ヘルシーピープル2000」では、人口10万人に対して122だった心臓病の死亡率は1998年には97に減り、大腸がん死亡率は13.8から12に減りました。
すべてのがんによる死亡率は、135から124に減り、心臓病、がんによる死亡率を減らすという目標数値は達成されたと発表されています。
 
ですから、マクガバン・レポート以降、アメリカ国民の食べ方への意識は、相当高まったものと考えてもよいでしょう。
国民皆保険制度がないアメリカでは、健康管理に対する意識にも切実なものがあります。
病気になったらお金がかかる、そのためには毎日の食事で病気を予防しよう。
そうした意識が国民の間に浸透したことの結果です。
 
わが日本でも、「健康に本21」という健康制作が厚生労働省より発表されています。
2010年までの目標数値も定められています。
目標達成の鍵は「食べ方」です。
 
● 10年間で心臓病を減らしたアメリカ
1990年から2000年までに、アメリカ人全体の冠状動脈性心臓病死亡率を122から100に、黒人で156から115に減らすことを目標に食生活の改善を推進。
1998年には全体が97に、黒人が133までに減少しました。
 
 
 
● 日本人の健康づくりは箸から始まる。
 
アメリカ政府が国民に提案した食事ガイドラインの中で、有名なものに「フードガイドピラミッド」があります。
これは健康に良い食事のとり方を立体的なピラミッドで表現したもので、1日のうちどの食品群をどれだけぐらい食べればよいかが、一目でわかるようになっています。
 
これを見ると、ピラミッドの底辺に当たる部分には穀物、シリアル、パスタ、ご飯などが描かれており、その上段には野菜と果物があります。
さらにその上段には牛乳・乳製品と、肉・肴・卵。
そしていちばん体積の小さな頂点に位置しているのは、脂肪と砂糖などの甘いものです。
ピラミッドの上部にいくほど量が少なくなるわけですから、もともと肉食が中心で甘いデザートが大好きなアメリカ人に、穀類中心で野菜や果物を多く取り、肉類の少ない食事に変えましょう、と具体的に提案しているわけです。
 
このピラミッドが最初に発表されたのは、1993年のことでした。
そのとき、ピラミッドの底辺には、お椀に盛ってお箸をさしたごはんが描かれていました。
日本の食事を相当意識して作られたものであることがわかります。
 
実は、1977年に、「マクガバンレポート」が発表されたとき、レポートが目標とした摂取エネルギーや栄養素の構成比は、当時の日本人が食べていた食事内容とほとんど同じだったのです。
 
そのときから、ごはんを主食とした多品目のおかずをつける日本型食事は健康的な食事だという認識が世界の栄養学者の間に広まりました。
当時の日本はまだ心臓病などの欧米型生活習慣病は少なく、その理由は、ごはんを主食にして魚や豆腐などの大豆製品、その他の食品を副菜にする食生活にあったということで、欧米ではヘルシーな日本料理がブームになりました。
 
ところが、そんな日本型食事をとってきた日本人に、いま心臓病や大腸ガンが急増しています。
その原因のひとつは、食べ過ぎによる肥満の増加です。
いまや肥満率は全国民の約20%、5人に1人が肥満です。
 
もうひとつの原因は、3食ごはんを食べる人が減り、食事が欧米化したことです。
パン食を取り入れ、ごはん食が減っていくとともに、豆類や食物繊維の多い野菜類の摂取が減り、肉類や乳製品などの動物性脂肪を多く含む食品の摂取が増加しました。
そのため脂肪の摂取量が増え、平成に入ってから、ついに国民の脂肪摂取量が、健康に適正なレベルを超えてしまいました。
 
これと同じことが、いま急激に起こっているのが東南アジア諸国です。
東南アジアではまだ栄養失調で悩む国が多いのではないかと思うかもしれませんが、近年、アジアで開かれる栄養関係者の会議に出席すると、肥満や糖尿病、高脂血症の増加で悩んでいるという発表が大変多いのです。
 
もちろん農村地域ではまだ栄養失調が多いのですが、急激な都市化とともに裕福になった高所得者層が肥満に悩んでいるのです。
こうした国では、ちょうど数十年前の日本のように、食べられることが豊かさの象徴であるという考え方がまだ強く、食べる量の制限ができていません。
食べ過ぎによる肥満が生活習慣病の増加に直結するのは、どこの国でも同じなのです。
 
実はそれでもなお、いま世界でいちばん健康的な食事は地中海料理と日本料理だといわれています。
両者の共通点は、地中海はパスタ、日本はごはんと、どちらもでんぷん質が多い主食を食べ、加えて魚介類や野菜類をたくさん食べることです。
ただ、日本型食事のほうは塩分が多いのが欠点です。
 
現在は脂肪のとりすぎが懸念されている日本人ですが、日本型食事のよさを見直し、マイナス面を変えていけば、もう一度、世界一ヘルシーな食事をとる健康大国になれるはずです。
 
参考までに、2000年に日本の厚生省、農林水産省、文部省が合同で出した日本人の「新しい食生活指針」を挙げておきましょう。
この策定には私も一部協力させていただきましたが、縦割り行政といわれてきた日本の行政で、3つの省が合同で指針を発表したというのは画期的なことだといわれたものです。
● 新しい食生活指針
○ 食事を楽しみましょう。
○ 1日の食事リズムから、健やかな生活リズムを。
○ ごはんなどの穀類をしっかりと。
○ 野菜・果物、牛乳・乳製品、豆類、魚なども組み合わせて。
○ 食塩や脂肪は控えめに。
○ 適正体重を知り、日々の活動量に見合った食事量を。
○ 食文化や地域の産物を活かし、ときには新しい料理も。
○ 調理や保存を上手にして無駄や廃棄を少なく。
○ 自分の食生活を見直しましょう。
(厚生省、農林水産省、文部省)
 
 
 

 

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池田 優

 

 

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