山ちゃんの食べもの考

 

 

その39
 

 『日本農業新聞』(2001年10月8日)の記事です。「野菜や肉など使用原料の原産地名を表示する惣菜店を認定する事業を農水省が始める。惣菜の原料は、輸入物が多いとされるが、原料の原産地表示をする店は少ない。消費者の商品選択に役立てるため、この制度で小売店に動機付けしたい考えだ。今月半ばから、小売店の応募を受け付ける。早ければ来年1月にも産地情報提供優良店として認定します。2004年度までの事業で、今年度は100店程度を認定する計画だ。同省は10月、JAS(日本農林規格)法に基づき、ウメボシなど市販の加工食品に、原料の原産地表示をさせる新制度を始めた。惣菜は商品によって加工度や原料数に差があり、一律の義務付けは難しいと判断、認定制度という手法を採ることにした。消費者から、惣菜原料の素性を知りたいと要望が出ていた。表示で先行する小売店を認定して“産地情報提供優良店”の看板を与え、業界全体に浸透することを期待する。対象は惣菜の小売業者。たとえば店頭のきんぴらの皿盛りの前に、“ニンジン・北海道産”“ゴボウ・茨城産”などと記した掲示板をおく業者が対象。書類・現地審査にパスした店に看板を公布する」


 漬物や冷凍食品に続いて、惣菜に使用する肉や魚の原材料表示制度は、消費者の商品選択の一助にというが、同じものなら少々高くついても安心できる国産を選ぼうとする消費者意識に訴えて、国産自給率を高めようとするものでありましょう。裏返していえば、店頭で販売されている生鮮食品でも、国際色豊かな今日です。いろいろなものを使う加工食品には、いかに多くの輸入原材料が使われているは一般消費者には計り知ることは出来ません。
氏素性のわかる安心安全に作られた、その土地で取れたもの、その時期に取れたものを食べることは、旺盛な生命エネルギーをいただく最も理に適った食のあり方ですから、「身土不二」「地産地消」「自給自足」を考えるとき、これはこれで大きな進展であり大変結構なことだと思います。
 目の前で手作りされ、出来立て、作り立てと思われる惣菜ですが、使用原材料の表示義務のない惣菜類は、一体どこで、誰が、どのようにして作った原料を用い、どこで、誰が、何を使い、どのように加工し、商品化したものかはほとんど見えていない食べものなのです。主原料はもちろん調味料等まで含めて完全表示されるならば、いかに多くの外国産に依存しているかに驚くに違いありません。
 

 スーパーやデパートなどの惣菜売場では、お客の見える前で揚げたり、あるいはガラス戸越しにいろいろな作業をしているのを見せています。清潔で衛生的に管理されているであろう作業場で忙しく立ち振る舞う様子を眺め、そこに出来立て、作り立ての新鮮さと安心感と美味しさを覚えて、たまらなく食欲をそそられ今晩のメニュー決定となります。
 スーパーにおける惣菜の売上比率は大きくなるばかりです。独身家庭や家族の少人数化が進んでいるせいもありますが、だんだん家庭で作ることが少なくなり、料理する時間もどんどん短縮しているという統計もあります。出来合いの食材を求めることが多くなるのは当然といえば当然でしょう。昨今では惣菜部門の弱いスーパーは流行らないのです。今では米飯ものといわれるご飯ものの売上も大変な伸びです。寿司類に始まっておにぎりや焼き飯、カレーライス、各種どんぶり、和洋中各種弁当等々、お昼の弁当用以外も大きく増えています。煮物から焼魚に煮魚、和・洋・中惣菜、何から何まで、白い炊き立てご飯まであって便利この上なしです。
 まず作る時間が要らない。自分で作るよりぐんと安く上がる。欲しいだけいろんなものが楽しめる。準備も後片付けもいらない。何よりも自分で作るより美味しい。共稼ぎ時代の厳しい社会であるから無理もないでしょうが、何から何まで出来合いでいいのかしらと心配にもなるのです。


 子どもは登校中にコンビニに入り何やら買い食い。夕方になるとこれまた店の前にペタンと座り込んで何やら食いながらギャアギャアだべっている。
 お父さんは朝食もとらずに出勤、途中でパンと牛乳、昼は外食、夜は屋台や接待。このようなことはまずまず例外だとは思いたいのですが、お互いにお子さんにもお父さんにも、お母さん奥さん手作りの賢い日本型朝食と夕食だけはしっかり摂りましょうといいたいものです。 
 さて、スーパーでの買いものかごを覗いて見ましょう。お茶はペットボトル、納豆、漬物、冷凍食品、ラーメン、刺身、焼肉用肉、サラダ、煮物、揚げ物、パン、袋菓子、インスタントコーヒー、少々の野菜等々。珍しいケースではありません。食卓には一体どんな料理が手作りで出されるのでしょうか。手をかけるものであっても、温める、焼く、揚げる、蒸す、チンする、湯を注ぐ程度の商品がスーパーのベストセラーです。惣菜を筆頭に、相も変わらずあまり手をかけず簡単・便利に食べられる、出来合いのインスタント的食べものが売れ過ぎているように思われます。
 “おふくろの味”はどこへ行った。長い間日本人が食べてきた賢い食べもの“日本の味”はどこへ行った。これではお母さんが買ってきてくれたあのメーカーの味が懐かしいということになっても、おふくろが作ってくれたあの味が忘れられないなんてことが無くなってしまわないだろうか。“子も買い食いなら親も買い食い”なんて言ったらきっとお叱りをいただくことでしょうが。


 多忙な今日食べものならぬ料理の外部依存化はある程度止むを得ないとしても、外部依存化のウェイトが高まれば高まるほど、その食べものには何が使われどのように作られたものなのか、真に安全安心な良質のもなのであるかどうかをしっかり確かめることが、家族の健康維持のために極めて重要になってきます。
 安易に簡便性に流れた偏食や欠陥食をしたり、欲望のおもむくまま口先だけの美味を求めていい加減な物を食べたりでアンバランスな食生活を送り、片方では健康に不安を抱きながら高額なサプリメントに何万円も払って、気休め的な健康を求めるというのはいかがなものであろうか。その陰で子どもたちのか弱い心身が、危ない食べもので蝕まれていっているとしたら大変です。
 アメリカは健康補助食品等サプリメントが最も開発普及している国ですが、増え続ける膨大な国の医療費に歯止めがかからず、現代病に病む人も増加の一途であるといいます。10月15日の『日本農業新聞』にはジェトロ「フード&カルチャ」からの転載として、次のような記事が掲載されています。
 「米国の疾病管理センター(CDC)は、このほど、1990年代に米国人の肥満と糖尿病の発症率が劇的に増え、食習慣の改善や運動量の増加はあまり見られなかったという報告をまとめた。91年から2000年にかけて、肥満の人は12%から19.8%に増え、糖尿病疾患者は4.9%から7.3%に増えた。特に99年から2000年にかけての増加率が大きくなっている。また望ましい量の果実や野菜を摂取している人は4分の1に過ぎず、米国人の27.3%は運動をしていない。米国農務省と厚生省は、食生活ガイドラインを作成(1980年以降5年ごとに改訂)して健康な食生活の普及に努めているが、現実は逆の方向に進んでいることが明らかになった」と。
 日本もその後を追いかけるように生活習慣病が増加していると言われ他人事ではありません。大事なのは私たちの食生活が日本人の食性に合ったものであるのかどうか。健やかな身心を育み維持していくためのベースとなる普段の食事が理に適った賢いものになっているかどうか。同時にそれらが自然の摂理に基づいたものであり生きた確かな食べものなのかどうかということです。
 

 作り立てと思われる豊富なお惣菜売場。たくさんの人が立ち働いているのが見えますが、スーパーのその現場でどれほどのものが作られているのでしょう。お店の作業場(あるいは企業内惣菜工場)で作る割合を内製率と言い、外部委託または外部購入によるものを外製率と言います。店内あるいは企業内で手をかけて作られる内製率はどのくらいだと思われますか。お知りになるとその少なさに「えッ!」と驚かれることと思いますよ。
 季節野菜の野菜天プラなどは国産の新鮮なものをその場で切って揚げてくれているものとだれでも思いますよね。熱々のとろけるように美味しいクリームコロッケ、磯の香りがほとばしるカキフライ、子どもたちが好物のやわらかい若鶏のから揚げ。一つひとつを想像してください。
 煮物はどこで作っているのでしょう。野菜の一つひとつは国産?それとも外国産?どこで切ったり刻んだりされていると思いますか。調味料はどうなっているのでしょうね。煮豆なんか大変ですよね。サラダ類はどうなのでしょう。お店の中で作っていると思いますか。いろいろありますが、使われているハムや肉、魚介、野菜、それに調味料は……。家庭と違ってなぜ色が変わらないのでしょうか。
 お弁当類の豊富な種類は見事なものですが、これまたどこで作ったものでしょう。どこのコメでどこで炊飯されたものと思いますか。中に詰められた各種のおかずはどんな材料を使い、どこで誰がどのように加工し味付けしたものなのでしょう。魚の惣菜は生を使うのでしょうか、それとも冷凍物なのでしょうか。国産でしょうか、輸入物なのでしょうか。
 揚げ物類もたくさんありますね。目の前で揚げてはいますが、さてその一つひとつのすべてはとても店内で作れるものではありません。では、どこでどんな材料を使ってどのように作られたものなのでしょう。どんな油を使っているのかも気になりませんか。
 「気にし出しだしたら切りがありません」。そうです、切りがありません。しかし少々のことではありません。買い食いや出来合いを買って食べることを恥じた数十年前とは違って、ここまで台所も食卓も胃袋も、食べることの大部分を外部に委託してしまった今日なのです。


 ご飯を炊いて一汁一菜の時代ならともかく、今日のような共稼ぎで忙しいこの時代に、とてもじゃないが手の込んだ惣菜なんて作れたものではありません。あまり変化の無い一汁一菜なんて、第一家族が黙っちゃいません。うるさく言う年寄りも少なくなり、年配者は年配者なりに薬を飲みながらけっこう買い食いをして満足している時代です。
 問題はその“質”です。合理化をすすめ経済効率や利益優先を追及する製造業や量販店が、手の込んだ多種の惣菜類をどうして人件費を考えない家庭で作るよりも安く美味しく作れるのでしょう。わけもなく安く作れるものではありません。良質の素材、厳選された多種多様な副素材や調味料、上等な油などを用いて、手間暇かけた料理を作ることができるでしょうか。しかも食品添加物も使わないで安心な美味しいものを作るなど……、どう考えても良質な物があんなに安く出来るわけはありません。
 表示義務のないことが隠れ蓑となって10社10色、だから10把一からげで一様に語ることは出来ませんが、惣菜ほど店によって変わるものもありません。その製造業や販売店の企業姿勢によって原材料にも加工方法にも大きく違いがあります。あなたがお店で買い求める加工食品や出来合いの商品は、製造業者にとっての原材料費の比率はどんなに高く見積もっても50%、普通で30%なら良心的、安ければ10%です。店段階で添加物などが使われていなくても、出来上がってくる段階での原料や副材料、調味料にどのようなものがどの程度使われているかはわかりません。販売店が相当に良心的な店であれば、それらについても厳しいチェックが行われた上で取り扱われているはずです。だから人柄、店柄、社柄を選ぶことが大切なのです。
 お気付きのように、惣菜に口当たりの良さと安さだけを求めるほど危険なことはないでしょう。このことは一丁25円の豆腐から100円、150円、200円、300円の開きよりも大きいと考えてください。


 私たちの食生活に外部依存率が高まれば高まるほどその食体系は乱れ、質は粗悪となり、体に良くないものが入ってくる危険性も高まります。しかし、ここまで料理の外部依存が大きくなった時代だからこそ、その良し悪しを確かめて間違いのない食べものを選択をしていくことが必要なのです。加工食品や惣菜の原産地表示は一歩の前進ですが私には物足りません。スーパーやデパート、小売店にはもう一歩も二歩も突き進んで素材・副材・調味料に至るまで、作られ方や使用添加物についても明確にし、自信のもてる安心食品を販売して欲しいものです。
 そのためには、表示義務が免除されているバラ売りの相対販売や簡易包装の売り方であっても、主原料の原産地だけでなく、使われている原材料の氏素性・加工方法や安全性についても遠慮なく聞いて確かめること、そして厳しく表示を求めていくことが必要なのです。買い手である消費者が変わらなければ食べものは良くなりません。概して良質の商品や、良心的なお店には買い手が求める情報が真面目に表示されているものです。
 しかし私は、外食や学校給食、企業内給食も含めて、現在の行き過ぎた食の外部化には否定的です。良質の物を求め続けることやバランスの取れた健康な食事をとり続けることがとても不可能と考えるからです。それとあなたが家庭で作ったり食べたりしている良質な手作り料理と同質なものを外部で求めるならばそれこそ、どんなに高くつくことでしょうということを念頭においていただきたく思います。
 あなたはご家庭でお料理を作るため、お台所に何種類の食品添加物を用意していますか。勿論1品なりとも無いことでしょう。でもお使いの調味料に添加物は使われていませんか。よく確かめられて最高の調味料をお使いください。あなたが安心できる原材料を求め、良質の調味料で作る家庭での手作り料理に勝る食べものはありません。一番確かであり健康的で安上がりのはずです。



 

ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。

 


生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
L ife A griculture F oods

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池田 優

 

 

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