山ちゃんの食べもの考

 

 

その45
 

 先日、京都大学大学院教授の家森幸男先生が、「健康長寿には日本の伝統食がいちばんいい」とNHKのラジオ番組で話されているのを、帰宅途中の車内で耳にしました。
私はこれまで、私の拙い経験や見聞から、現代の食べものの作り方や食べ方について、一日も早く考え方やあり方を改め、自然の摂理に則した、良心的で安全安心な生命力豊かなものに正していかなければならない。そしてそれは私たちの先人が築き上げてきた日本の伝統食にあると述べてきました。
 好き嫌いや旨い不味いなどと言ってはおれない、どうやって食べものを手に入れるかということが心配であった昔や戦中戦後であっても、腐ったものや菌に侵されたものでもない限り、何の心配もなく食べてきました。否、何の心配もない自然な食べものばかりでした。それが今こんなに満たされあふれた食生活を送りながらも、何を食べたらいいのか、どう食べていいのか、問題はないのかなど、安全・安心・健康・栄養を気にし、健康に不安を抱き、食べものや食べ方に無頓着ではいられないようになっているのです。
 それどころか、現在の日本人のおかれている食環境は無頓着であってはならないところにきているのです。私は殊に、幼い子どもたちをターゲットにして売られている多くの食品を見るとき、これを作ったり商ったり、与えている人たちに、人の命を思う良心がどのように働いているのか疑いたくなるのです。
 ごく普通に食べていると思われる日本的な食べ方をしていても、その食材である農産物も、畜産物も、魚貝類も、調味料も、加工食品も、ほとんどが外国産であったり、生産方法も加工方法も、昔から伝統的にあったものや、わずか50年前に食べていたものとは大きく違ってきているものが多いのです。そして調理方法も食べ方も大きく様変わりしています。その変わり方が急激であり、かつ安全・安心・健康という観点からも、どんどん離れていっているように思われます。
 家森先生は日本の伝統食の素晴らしさを、ブラジルの地で研究され実験されたことを述べていました。そのことを先生の著書『長寿の秘訣は食にあり』(マキノ出版)より抜粋要約してご紹介しましょう。


 ブラジルのカンポグランデという町には、沖縄から移住した人たちの2世や3世が1万2000世帯も住んでいる。1990年からブラジル人の長寿と健康状態を調査する中で、その人たちに心臓病などの循環器病がとても多かった。沖縄の人たちと比べると、50代前半では、心電図に異常のある人が約2倍、糖尿病の傾向が4〜5倍もあった。そして平均寿命が17年も短い。
 どうしてそんなことになったのか。戦時中、日本語を使うことを禁じられ、日本語と共に日本的な食習慣もなくなり、現地の人と同じ肉中心の食事になっていった。肉は安くてしかも美味しく、どうしてもそういう食生活になる。その上、魚、大豆、海藻という日本食の代表的な栄養源はほとんどとっていない。これが循環器病の多い最大の原因だろう。それから5年かけて研究した結果、次のようなことがわかった。


 そこで、1996年2月に現地に行き、50代後半の約400人を検診し、その中で高血圧症、高脂血症、肥満、糖尿病の傾向など、成人病のリスクの高い100人に、普通の食事に加えて、魚のDHA(ドコサヘキサヘン酸)、ダイズのイソフラボン、海藻の食物繊維、この日本食の三大長寿栄養源をそれぞれ10週間食べてもらった。
 魚油のDHAを食べてもらったグループでは、まず血圧が下がり、海藻(ワカメの粉)を食べてもらったグループではコレステロール値が下がり、ダイズの胚軸(イソフラボンが最も多い)という部分を乾燥させてふりかけにしたものを食べてもらったグループでは、血液中のイソフラボンがぐんと増え、骨からカルシウムが抜けていくのが抑えられた。
 高血圧、動脈硬化、糖尿病、骨粗鬆症を防ぐ魚とダイズと海藻の効果が証明されたわけです。


 脳卒中ラット(遺伝的に100%脳卒中を起こすように作られた実験用のネズミ)に動物性の脂肪(ラード)を食べさせると、血圧がさらに上昇し、中性脂肪(肥満などの原因になる脂肪)の数値も高くなったが、魚油を食べさせた群では、それらの数値が抑えられた。
 同じような現象は、血糖値(血液中の糖分量を示す値)でも確認された。同じ量の糖分を与えるとラードの群はたちまち血糖値が上がったが、魚油の群はその上昇が抑えられた。つまり魚の油は、高血圧、動脈硬化、糖尿病の予防にいいことがわかった。


 ダイズが脳卒中を効果的に防ぐ食品であることはすでに証明されていたが、骨粗鬆症(カルシウムが不足して骨にスが入りもろくなる)の予防にもすぐれた効果があることがわかった。これは、ダイズに含まれるイソフラボンという物質が、女性ホルモンと同じような働きをするからである。
 脳卒中のラットの卵巣を摘出して更年期の状態にすると、骨粗鬆症が起こってきますが、このラットのエサに、毎日イソフラボンを約0.1%混ぜて与えると、骨からカルシウムが抜けるのが抑えられ、骨粗鬆症を防ぐことができるのです。


 海草、すなわち食物繊維。食物繊維を充分に摂っていないと動脈硬化を促進し、大腸ガンや糖尿病に罹りやすいといわれます。
 脳卒中ラットに動物性脂肪の多いエサを与えると、1ヶ月ぐらいでコレステロール値が500〜600ミリグラムぐらいに上がる。しかし、同じエサを与えていても、一緒にワカメの粉を与えると、コレステロール値の上昇が150ミリグラムぐらいに抑えられる。ワカメの食物繊維は強力にコレステロールを吸着し、便として排泄してくれる。


 以上、家森先生の著書からご紹介しましたが、現在の私たちの食生活はその伝統的な日本の健康長寿食とは、遠くかけ離れたものになっているようです。
 日本人の平均寿命が世界一になったことには、衛生面や医学の進歩、栄養の充分な補給などによって、乳幼児の死亡率低下、疫病による青少年の死亡率低下、年配者の長生きが考えられます。そしてそのベースにはやはり米を主食とした穀物や野菜、魚介、海藻を食べる伝統的な日本食があったからだといえます。
 しかし、米をあまり食べなくなってしまった日本人。今年に入っても3月から8ヶ月連続して米の消費量が減っているといいます。穀物や野菜、海藻の消費量も減っています。動物性食品の多量摂取を筆頭に欧米型の食品や簡便性重視や・低価格指向の勢いはとどまりません。先日もスーパーマーケットを見て回りましたが、残念ながら、食べものが良くなっていく傾向は見られませんでした。そして売れているもの(買われているもの)の主流は、私の願いとはかけ離れたものが多いようでした。早く手を打たないと日本の健康長寿、世界一の平均寿命は過去の話になってしまいかねません。


 今、不況の風が吹いて、世は考えられない安売り合戦が繰り広げられています。出荷数量が増えているのでなく、むしろ減少傾向にあるにもかかわらず、国産の農産物は大暴落。産地では野菜や果物が採算割れの安さで、しかも数量の生産調整出荷調整を行い、物によっては大量に廃棄されています。
 自然の保護、環境や人々の健康を考えて、化学肥料や農薬の使用を抑え、真面目に良心的に栽培する農家の農産物も、低価格の大波に押されて評価されません。消費者から安全・健康が声高に叫ばれている割には、その主張と行動に大きなズレがあるようです。
それに輪をかけるように、中国や韓国、アメリカ、オーストラリアをはじめとして諸外国が日本人の財布と胃袋を狙って、食べものの輸出攻勢をかけています。そればかりではなく、日本の大手食品業者が海外の安い労働賃金と広大な土地を求め、日本の種子、日本の知識・技術を持ち出して、日本人好みの農産物や食品を生産して持ち込もうとしています。
 このままでは日本から農業がなくなってしまわないか、日本人の食体系が根本から崩壊してしまうのではないかと心配です。


 今日(12月20日)の『日本農業新聞』に日本の食糧自給率「3年連続40%」と食糧自給率について、農水省の発表した記事があった。私たちの食の実態を把握する上でとても大切な資料であると考えるので紹介します。
 農水省は19日、2000年度の食糧自給率などを盛り込んだ「食糧自給率レポート・食糧自給表」を発表した。カロリーベースの総合食糧自給率は3年連続の40%だった。本作化(日本で本格的に生産を増加していこうというもの)を推進する麦や大豆などの自給率は高まったが、大半の品目は低下、また脂質の摂り過ぎや食べ残しなど食生活も改善しなかったことが原因だ。このため同レポートは「自給率の低下に歯止めが掛かったとは言い難い」と指摘している。
 金額ベース総合食糧自給率は1ポイント低下して71%だった。国産農産物の低迷が影響した。本作化を進める飼料の自給率は2ポイント高まった。飼料作物の生産が増える一方、家畜頭数の減少で家畜頭数の減少で飼料の需要量が減ったため。小麦や飼料作物の生産増加で穀物需給率は1ポイント高まり28%。生産が増えた大豆の都道府県別単位収量では地域差が大きく「本作化が進んでいない状況」(同省食糧政策課)だ。
 政府は昨年3月、10年後の自給率目標45%を掲げる食糧・農業・農村基本法を閣議決定。今年は計画実践の初年度の自給率だった。


 

ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。

 


  

生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
L ife A griculture F oods

FAX :076-223-2005
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池田 優

 

 

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