山ちゃんの食べもの考

 

 

その53
 

 日本生協連の「働く主婦の食品ニーズ」を調査してまとめたものの結果発表が、2月6日の『日本農業新聞』に掲載されていた。
 「家族そろって同じメニューを食べる」という人が、平日の朝食で3割強、夕食で5割弱。朝食のメニューはご飯食派が5割に対し、パン派は2割強。年齢が高い層ほど「ご飯派」だそうである。30代以下は4割に満たない。地域差も大きく、首都圏では4割前後がパン食。地方都市ではご飯食が多いが、年齢が若くなるにつれ、ご飯食が減ってパン食が増える傾向にある。
 食事の用意では「献立を決める」のを「面倒に思う」人が7割と多い。「食器や調理器具の後片付け」が面倒は6割強、「丸ごとの魚をおろす」が面倒は5割強と続く。
 家族の食の状況では、「違う時間に食べる」という項目で地域差が出て、通勤時間がかかる首都圏では、朝食で30〜50代で7割前後、30代の夕食では6〜7割。それだけ個食化が進んでいる。


 食事を作ることが面倒だということになると、飽食日本はもう救い難いくらいの堕落ぶりだと言いたくなる。食事作りが面倒、子育てが面倒、親を看るのが面倒、教育が面倒、家事が面倒……。手間ひまのかかること、額に汗すること、体の汚れることはやりたくない。生産効率の悪い食べものは外国から買ってくればいいなどという安易な考えが、食糧自給率を40%にまで落としてしまった。家庭においては面倒だからスーパーやコンビニから買ってくればいい、手のかからないものがいいとなる。家庭の食事でも加工食品の占める割合が6割を超えているという。
先日食品販売の職場で女性社員やパートさんたち食べものについて話をしてきた。お勤めしているせいもあろうが朝食にパン派が多い。忙しい朝には簡単でいいからと言うのである。自動炊飯器があっても、パンと違ってご飯の場合はおかずを作るのも手間がかかり後片付けにも手がかかるというわけである。
 夕食用にも、スーパーでは炊いたご飯や弁当類、煮物、焼きもの、和え物・サラダ・揚げ物などありとあらゆるお総菜が売れに売れている。魚好きの日本人だが調理は出来ない、したくない。サシミや切り身、調理済みで済ましている。その魚も6割以上が輸入品だ。
 食べることは生きること。「食」は「命」なりというのに、食べることに「祈り」も「感謝」も「真面目さ」もなくなってきたのか。買い物が面倒、献立を考えるのが面倒、下ごしらえが面倒、後片付けが面倒というのでは、作る料理にも囲む食卓にも魂が入るまい。心のこもらない食べものに感動などあるはずもなく、これでは子どもたちの肉体も精神も健全に育まれるはずがない。


 「12月の米消費量、10ヶ月連続減」と、2月19日の「日本農業新聞」に次のような記事があり、愕然とした。
 「食糧庁が18日発表した昨年の12月の米一人当たり消費量は、5240g(1日換算約170g)で前年同月に比べて1.4%減った。例年12月は消費量は増える月だが下落傾向に歯止めがかからず、10ヶ月連続で前年割れとなった。内訳では生産世帯(農家)の消費量が6749g(1日換算約218g)で2.6%の減少。消費世帯では1.1%減の5103g。生産世帯の減少幅が大きかった。生産世帯の消費が落ちている点について食糧庁は“農家もパン食が増えているなどとして、米を食べない消費世帯の食生活に近づきつつある”と見ている」
 何ということか、何を食べようが個々人の好みであり自由ではあるが、減反減反で毎年生産を抑制しているにもかかわらず、米が売れずに低価格で稲作経営が困難を極めていると聞く。その生産農家が輸入小麦で作ったパンを食べ、輸入コーヒーを飲みながら、「日本人はもっと米を食べろ」と叫んだり、「もっと米を作らせろ、もっと買い上げ価格を引き上げろ」と訴えても通じはしない。
 生産農家にしろ消費世帯にしろ、米を食べなくなった日本人にとっての危機は、主食である米を主体として副食全般を含む日本人にもっとも適合した食体系が崩壊されることにある。本来日本の気候風土や日本人の食性に合わないものの比率が高まっていっていることが問題なのである。


 私は農家のために米を食べよう、味噌汁を食べよう、伝統食を食べようと言っているのではない。学校給食でもなぜパン食なのか私には理解できない。長期的な展望に立って子どもたちに正しい食育をしなければならない時期である。美味しいご飯に四季折々にふんだんにできる国内産の本物の食材を使って、安全で本当に美味しい「身土不二」の食を、心を込め、愛情を注いで作り食べさせねばならない大事な時期ではないか。
 給食は換金動物に与えるエサではない。食は単なる肉体を育むものではない。心を養い、脳を活発にし、人格を形成するものである。子どもたちには、選びに選び抜いた良質の食材に良質の調味料を使い、感謝していただきながら一つひとつの食の作られ方、いただき方、食と命の意味をしっかり伝えていかなければならない。
 金さえ出せばいつでも誰でも美食・飽食・簡便・安価を欲しいままに出来るということはもう有り得ないと考えねばならない。食や命をないがしろに考える子どもたちにしてはならない。
 子どもたちはやがて大人になり子どもを持つようになる。感性の豊かな子ども時代に、何年間にもわたる学友と共にいただいた給食体験が、将来の日本の食事情を決めることにつながっていく。
 次代を担う子どもたちのために、家庭に於ける食事作りも学校給食も、この食事が供されるまでに努力された多くの方々の熱い心が伝わり“食べること”“生かされて生きること”の感動と喜びあるものにして欲しい。




 

ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。

 


  

生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

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