山ちゃんの食べもの考

 

 

その54
 

BSE発生から4ヶ月を経て新聞やテレビでの報道も少なくなり、ややこの問題も平穏に向いつつあるようである。そこへ追い打ちをかけるように牛肉の偽装事件で大混乱。スーパーに勤務する友人が話すには、若干の回復の兆しはあるもののまだ前年比5割から7割程度だという。
BSE問題と表示偽装事件とは本質的に問題発生の原因を異にするように思われがちだが、食べものの作られ方や商われ方に倫理性を欠いた考え方が横たわっているという点で根っこの部分は同じだと思う。
不審に思い危険を感じる消費者は無理して食べる必要もなく避けて通れば良い。別に牛肉を食べなくても死にはしない。しかし良心的に真面目に良い食べもの作りに勤しんできた人たちが巻添えを喰って、立ち行かない状況に追い込まれているのだ。表には現われないが思いもかけない災難を浴びて悲嘆にくれる人の声に耳を傾けてみよう。(以下は「日本農業新聞」から抜粋したものである」
 

 島根県で農業を営む加藤正春さん(80歳)の意見
 「口蹄疫で一時、畜産が揺れた。追い打ちをかける牛海綿脳症(BSE)に、畜産業界は悲惨な状況に追い込まれている。市場で500キロ前後の老廃牛が3000円〜5000円で取引されていた。私の出荷した老牛も、4000円しか値がつかず売ることをやめた。赤字の上にも赤字が増す。しかし十有余年にわたって、我が家の経済を支えてくれた愛牛がこんな値段で買われていくと思うとかわいそうで涙がこぼれた。「つれて帰ってやる。さあ帰ろう」。牛の耳元でささやいた。私は幼いころから牛が好きで、牛とともに生きてきた。しかし、飼えば飼うほど借金が増えていく状態では、やがて牛飼いは一人また一人と減り日本の畜産は滅びてしまう。


 福島県の会社員・斎藤志のぶさん(23歳)の意見
 私の家では重労働のため、1〜2週間に一度は焼き肉を食べていますが、BSE問題が発生してから肉がマトンの冷凍か豚肉になってしまいました。脂ののった牛肉を食べたくても、本当に安全なのかという確証がもてません。テレビで畜産農家が苦しんでいるのを見ると、少しでも役に立ちたいと思うのですが……。雪印食品の偽装事件のようなことがあると、牛肉に手が出ません。どんな餌を牛が食べ、どういう流通で消費者にたどり着くのか。


 大分県稲作農家・堀清士さん(68歳)の意見
 国内でBSEがされて4ヶ月、未だに感染経路が明確になっていません。外国でBSEが発生し、一番疑われている輸入飼料の検査をしていれば、感染源の移動は防げたわけで、農水省としては輸入飼料が原因だということをためらっているのではないか。消費者の信頼を得るためにも一日も早い原因の解明を。
 また畜産農家も外国産の輸入飼料に依存するのではなく、いちばん安全な自給飼料の確保に努めることが、消費者の信頼を得る一番の近道だと思います。


 島根県繁殖牛飼育農家・釣釜里恵子さん(51歳)の意見
 BSE発生による牛肉の消費離れは「安全宣言」があったにもかかわらず、深刻さを増している。市場での子牛価格も最悪の状態が続き、牛を飼う仲間が周囲からどんどん減っている。そこに追い打ちをかけるような雪印食品の偽装事件。またしても消費者の不信をあおる。やりきれないのは一生懸命消費者の信頼を取り戻し、経営を立て直そうと努力する多くの酪農家が、企業の「自分さえ利益を上げればいい」という無責任な対応によって、またも血の出るような犠牲を強いられてしまったことだ。


 宮崎県で和牛百頭を飼育する河野俊子さん(50歳)の意見
 1月のせり市であまりの安さに呆然とした。成牛市で親牛を1000円で手放した。毎回せりを追うごとに安くなっていく。いつまで続くのか。底なし沼に落ちていくようだ。BSEの原因とされる輸入骨粉。その危険性を忠告されていたにもかかわらず黙殺していたようだ。高い給料をもらっているプロの役人ではないかと腹立だしい。畜産業界をどん底に突き落とした責任は計り知れない。

 
 栃木県で搾乳牛135頭を飼育する今克枝さん(49歳)の意見
 雪印食品のニュースを聞いて、開いた口がふさがらなかった。またも生産者をいじめるものとショックだった。一昨年の集団食中毒事件の時も、雪印乳業を支える「百株運動」に賛同し、株を購入した。あまりにも農家をバカにしている。搾乳を終えた廃用牛を祈るような気持ちで出荷している。その廃用牛は6000円を負担しないと出荷出来ない状態だ。わが家では出荷せず10頭あまりいる。武部農相は廃用牛は貴重なたんぱく源というが、農家にとっては貴重な収入源なのだ。雄牛が生まれると涙が出る。引き取り手がなく、この子の将来はどうなるのかと。とにかく農家が声を上げていきたい。


 島根県の酪農家、住田富美子さん(52歳)の意見
 もっとも安全な国内産牛肉だったはずなのに、BSE発生後信用を失墜し、畜産業界は足をすくわれた感じです。失墜はあっという間ですが信頼を回復するには時間と努力が必要です。それまで持ちこたえられない農家も多く出てくると思われます。飼料も一番安全な自給飼料を確保したいのですが、風土の問題、また自給するだけの労力が必要です。さらに人一倍努力しないと乳量につながらず、生活もできないほど厳しい状況です。毎日細心の注意を払いながら出荷する乳は、ペットボトルの「水」より安価です。副産物の子牛も安くなって期待できません。さあ、どう解決してくれますか。


 岩手県の酪農家、佐藤正男さん(50歳)の意見
乳牛に出会ったのは15歳の時。初めて見る白と黒のまだらの牛から搾られた真っ白なミルク、それを口に含んだとき、体で母を感じました。以来、酪農に取り付かれた私にとって、雪印は将来の夢と希望のしるしであり、酪農に生きる夢を託したものでした。酪農一筋に30数年迷うことなく人生の生きがいと価値観を見出してきました。希望に満ちた21世紀を迎えた矢先にBSE問題、さらに雪印食品の牛肉偽装は心が痛みます。特に雪印食品は数年前からの計画的組織ぐるみの犯行と聞き、強い怒りを感じます。


 滋賀県の肥育農家、井上茂和さん(46歳)の意見
 肥育牛25頭を飼育しています。肉牛が売れずもと牛を導入することも出来ません。こんなことになったのはやっぱり国の責任です。牛は大きくなるし売れないし、何とかならないかと本当に困っています。今出荷すると1頭30万円くらいにしかならず50万円もの赤字です。それでも泣く泣く出荷せざるを得ません。


 島根県で酪農と和牛繁殖をする佐藤麗子さん(43歳)の意見
 毎日、夫と二人で朝晩の搾乳をしながら国会のニュースを聞いているが、国民の代表で政治を司る国会議員の皆様は、農家の苦しみがわかっているのでしょうか。大事に育ててきたこのかわいい牛たちが明日はどうなるのだろうかと毎日心配している。そのさなか「原因究明は難しい」と、武部勤農相は言われましたが、そんなことはない。わかっているはずです。ただ、発表できないだけですよね。農家のためにこのかわいい牛たちのためにも早期解決をしていただきたいと思います。雪印乳業にかかわっていらっしゃる酪農家の皆さんも、毎日つらい日々が続いていると思いますが、負けずに頑張って下さい。今こそ農家のど根性で頑張り通そうではありませんか。消費者の皆様にもたくさん応援していただきたいと思います。


 鳥取県で繁殖和牛8頭を飼育する長谷川照一さん(73歳)の意見
 国会のやり取りを見ていても一向に前進も手立てもない。命を預かる私としては、あの住んだ大きな目の牛の顔にも、心なしか不安と寂しさが感じ取れる。この先私たちはどうしたらいいのか。お先真っ暗だ。誰にどのように頼めばいいのか。


 

ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。

 


  

生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

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