山ちゃんの食べもの考

 

 

その56
 


 私たちがスーパーなどで買う野菜や果物が、まるでモノサシででも計ったように、そして機械ででも作られたかのようにきれいに揃っています。トマトなどは1本の木から出来たものが22種類の規格に選別されて出荷され、それが店頭に並べられているのです。それでも私たちは、その中からさらに大きそうできれいで、美味しそうなものを選りに選って買いますね。そして寸分違わぬ揃った美しいものが、整然と並べられたお店を良い店として評価してしまうきらいがあります。
 実は、この選別基準は、国の定める農水省の野菜標準規格で決められていたんです。今度この規格基準が廃止されることになりました。規格の簡素化によって産地の選別、出荷コストを低減させるためのものです。実際農家ではこの規格基準にそった選別をするために大変な手間暇をかけています。日本人は神経質に揃った美しいものを求めるばかりに、農業の本質、食べ物の本質をゆがめてしまってきたところが有ります。
アメリカでもオーストラリアでも中国でも、外国では日本向けの農産物は、粒ぞろいの美しいものに特別仕立てです。そうしないと日本では通用しないし、高く買ってくれないからです。日本人は見栄えで選びますから、選別の悪いものはお店で大きなロスにつながってしまうわけです。
 この標準規格廃止、規格の簡素化には、私は大賛成です。しかし果たしてうまく行くかしらと心配でもあります。と言うのは、そのことに私たち消費者の価値観と購買行動が伴わないことには、今度はさらにきめ細かい規格基準による差別化戦略、選別競争にも陥る可能性があるからです。流通業も簡素化される選別に対してどのように対応するか、どうやって消費者の買い残りによる商品ロスを削減できるか、現実において大きく疑問の残るところです。


 必要もない余分な手間暇、無駄なコストをなくすることはとても大切なことだ。大洪水の如くなだれ込んでくる安価な輸入農産物に対して、このままでは日本農業が壊滅の危機を免れることはできないことは必至です。見栄えを重視する購買行動が、中身より外観本意で無意味な細かい選別作業と高い製品化出荷コストを生じています。そして、本来なら安全安心に生産されるべき農産物に、やむなく多量の化学肥料や農薬を多投することにつながっているのです。 
 消費者は誰しも「より安全安心で、中身の良いものを、少しでも安く求めたい。できれば国産で」と望むところでありましょう。国際競争の中で国産農産物が高く信頼され、国民の納得の行く形で食料自給率が向上するためにも現行の野菜規格基準などは即刻排除されるべきでしょう。
しかし、味噌も糞も一緒では困る。食べ物としての本質的な良し悪しは、別の意味で明確にされねばならないと思います。明確の区別すべきは作られ方やその中身にあり、信頼に足る経歴、氏素性にあると思います。
 食は命そのもの。建前ではなく、実際の消費行動、流通行動、生産行動において、外観よりも食の本質である、「安全・安心・中身の充実」をこそ、強く求められるよう早急に切り換えることが必要です。食にとって最も第一とすべきことが軽んじられ、本当のことが伝えられず、知らされず、忘れ去られ、付随的な見栄え・簡便・美食、そして経済性が優先されてしまったのが今日の姿です。必要なのは単に選別作業を粗くして、いくばくかの生産コストを引き下げればよいということではありません。「安全安心・自然・本物志向」を前面に打ち出し、よりまともな農産物が安定生産・安定供給され、安定消費に結び付けられる道をどう切り開くかであると考えます。


 「食は命がけの時代となった」。日本有機農業研究会の会長に新しく就任した佐藤喜作氏の言葉だ。と『日本農業新聞』に次のように述べられている。
 「かっては凶作など悲惨な状況からくる量の問題だったが、今は安全という“質”に命をかけねばならない。命を守る食が“食べたら危ない”では本末転倒だからだ。人間の尊厳にかかわる“衣食住”だが、序列では食が筆頭にくるはずだ。
 誰もが無心に口に入れる食品は、理屈ぬきに安全が最優先されるから、生産者もそこに最大の努力を注ぐ。有機農業の目指すところは、安全で質の良い食べ物の生産だけではなく、環境を守り、地力を維持し、自然と共生する循環型生産で地域自給を確立……と数え上げれば切りがない。だから農林漁業が持つ他面的機能が見直されたのだ。
 身土不二が叫ばれ、地産地消や地域自給といった先人の智恵が各地で論議されているのは良いことだ。健康や生き甲斐を、地元の人と都会の人が一緒に探しあうところから21世紀型里作りは始まる。




 

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生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

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