山ちゃんの食べもの考

 

 

その59
 

 日本の消費者物価が外国に比べて異常に高いと言われているが、殊に食品の価格については日々の家計費に直接響くものだけに槍玉にあがることが多い。
 一方で打ち続く価格低迷で生産農家の手取り価格は生産原価にもならないと嘆いている。事実農村の若者は将来に見通しもない農業に夢を描くこともできず就農する者は極めて少ない。
わが国は多種多様な農産物づくりに大変恵まれた気候風土にあり、四季折々の美しい自然環境に浴していながらも、山や傾斜地が多く猫の額のような耕地では、広大な平地をもつ大国のように合理化、機械化された大規模農業も不可能であり、また人件費が比較にならないくらいに高く、諸物価諸経費も高価であるから、国際価格競争にはとても太刀打ちできない。
 食糧自給率は低迷を続け、日本農業の危機が叫ばれて久しい。行政も施策を講じているようではあるが、農業事情は厳しさを増すばかりで改善の兆しは見られない。そればかりか伝来の日本型伝統食は崩れ去り、受け継がれてきた食材とその作られ方、食べられ方も軽んじられ、減少傾向にある。その上に低価格志向と簡便性への競争激化が、幾多の歪んだ不祥事を引き起こす誘因となり、食品にとって当然であるべき安全安心の信頼まで覆してしまった。


 しかし、消費生活にとって価格の安定は不可欠の要素ではあるが、同時に長期的な将来にわたる安定供給は更に重要である。そしてさらに最も大切なことはそれらの食品が信頼に足る安全安心なものであり、生命の食としてきわめて良質なものでなければならないことも当然である。
 高度成長の波に乗り、工業製品を売って生産効率の悪い食べものなんかは安い外国から買ってくればいいじゃないかなどという経済学者もいたりして、美食飽食と驕り高ぶっている間に、たちまちにして食糧自給率40%という回復至難な状況に陥ってしまった。
こうした現状においては、すべての食を国産で賄うことなどは絵に描いた餅で不可能なことであること勿論だが、自ら土を耕し食べ物を作ることを放棄してしまった日本は取り返しにつかない危険極りないところまできている。
にもかかわらず、年間2千万トンもの食べ物を食べ残しゴミとして廃棄している多くの日本人にはまだ大変な事態だと気付く人は少ないようだ。


 食料安保の視点からも、国民全員が自らの糧を得んがために堆肥を作り、鍬を振い、鎌を手にする代わりに、夢と希望と良識を持って良い食べもの作りに汗してくれる農業者を支援して、安心できる農産物を安定的に長期的に生産供給できる日本農業を緊急に構築して行かなければならない事態に至っているのである。 
 農家もまた私たち同様に生活者であり、生計を立てる本となるべきその農産物の安定価格・安定収入は不可欠要素である。しかし現実には不安定な農産物からの収入に依存できる専業農家は極めて少なく、土を耕す傍ら、他に収入の道を求める兼業農家が圧倒的に多い。このような日本農業の状況では、今はこうして飽食美食で浮かれている私たちの食料も健康も、その将来はとても危いものなのである。
 誰のためのものでもない、私たち自身のための食べものである。自分たちのみならず子どもや孫たちの安全・安心・健康を支える安定した食糧確保を考えるうえで、あまりにも低価格志向一辺倒に偏ったの発想は実に危険極まりないものである。
そうした中で、若干安全安心を求める声や国産志向が高まりつつあるとはいえ国産品への評価はまだ農家の生産意欲や将来展望に結びつくものには至っていない。国際比較の中で低価格の外国産の輸入農産物は相変わらず少なくない。


 ちなみに国産農産物と輸入農産物の価格を単純に比較してみよう。下記は中国産農産物の残留農薬問題が騒がれていた真っ最中(今も変わらないが)、今年3月のもので、『日本農業新聞』の「東京市場3月の輸入農産物の動向」から拾い出したものです。
価格は中央卸売市場における卸売価格で円。単位はkg。対比は%

品目 国産品価格 輸入品価格(国) 対比
ネギ 173〜182 58(中国) 28.1
玉ねぎ 155 50(米国) 32.3
生しいたけ 951〜985 237(中国) 24.5
カボチャ 469 113(NZ) 24.1
サヤエンドウ 678〜864 204(中国) 26.5
ゴボウ 169〜287 105(中国) 46.1
タケノコ 591〜623 330(中国) 54.4
アスパラガス 1176〜1190 629(メキシコ) 53.2
ブロッコリー 246 100(中国) 40.7
ミニトマト 541〜681 328(韓国) 49.5
パプリカ 646 539(韓国) 83.4
シシトウ 1192〜1563 729(韓国) 52.9
インゲン 839〜881 631(中国) 73.4
ニンニク 398〜881 131(中国) 31.0
エダマメ 1958〜 354(中国) 18.1
サトイモ 154〜240 93(中国) 47.2

 では、現在はどうか。同じく『日本農業新聞』から。東京市情における9月の輸入農産物についてみて見ると中旬では野菜も果物も前年を上回っていました。ところが下旬の輸入農産物について見ると、中国農産物の残留問題やアメリカの港湾ストライキ、海外産地の干ばつや天候不順等の影響と共に、昨年に比べて国産品が潤沢に出回っていることから、野菜の輸入量は昨年に比べて22%少なくなっているようです。このように国産の農産物価格が若干でも上向くとたちまちにして輸入が増加しますから日本の農家は豊作にも凶作にも怯えて、良い農産物作りに安心して取り組むことはできません。
 9月下旬の価格も3月同様に単純比較して見ると次ぎのようになっています。

 
品目 国産品価格 輸入品価格(国) 対比
ネギ 298〜317 151(中国) 49.1
ニンジン 134〜155 73(中国) 50.5
サトイモ 226〜286 130(中国) 50.8
生しいたけ 1006〜1249 309(中国) 27.4
玉ねぎ 59〜86 54(中国) 74.5
サヤエンドウ 2905〜3039 568(中国) 19.1
ゴボウ 268〜361 114(中国) 36.3
セロリ 169〜216 157(米国) 81.6
アスパラガス 989〜1037 799(豪州) 78.9
ブロッコリー 612〜728 320(米国) 47.8
カリフラワー 218〜243 217(米国) 88.2
パプリカ 338 561(オランダ) 166.0
ニンニク 418〜521 114(中国) 24.3
根ショウガ 261〜419 148(中国) 43.6
カボチャ 130〜143 77(ロシア) 56.4
ミニトマト 520〜678 309(韓国) 51.6

 生鮮野菜としてもさることながら、より低価格を求める外食産業や加工業者にとっては、いまや輸入野菜は欠かせないものになっていることは、否めない事実です。そしてそれが農産物全体の需給バランスと価格形成に大きな影響を与えているのです。


 同じく『日本農業新聞』によると、調理冷凍食品の輸入が急速に増えているという。これは日本冷凍食品業界が会員企業32社から聞き取り調査したもので、2001年の輸入数量は16万1000トンで前年より3万3000トンの増であった。国別輸入量では中国が9万1200トン、タイが4万8800トンで、この2カ国が飛びぬけて多く、ベトナム1800トン、米国1100トンとなっている。品目別輸入では、フライ・天ぷら・揚げ物類が10万8500トンと圧倒的に多く、フライ以外の調理食品は5万2400トンだという。尚、冷凍食品の輸入は会員企業意外にも商社やスーパー、通信販売業など多くの企業も行っており、この調査は全体を示すものではないと。
 このように海外の食品や農産物が冷凍や加工食品としても大量に輸入されています。冷凍野菜から基準を大幅に超える残留農薬が検出され問題になっていますが、ウナギの産地偽装事件で見るように、輸出する国もさることながら、日本の企業とか商人の良識にこそが問題であります。
命の食を預かる企業のモラルがあまりにも低下している今日、人を責めているだけでは解決しません。私たち自身、国民一人ひとりが、何を選択して食べるのか、何を基準に考え、何処でどんな方法で購入するのか、その購買行動と消費スタイルを改めることこそ、健康な日本の農業、健康の食を永続的に正していくことになると思います。





 

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生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

 

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