山ちゃんの食べもの考

 

その6
 

前回、「山ちゃんの食べもの考その5」で、畠山重篤著『森は海の恋人』についてご紹介したが、森や陸と海の関係について思い起こすことがある。

友人から一冊の本が贈られてきた

 もう10年以上も前になるだろうか、「奥能登に有機農業を!」と情熱を燃やしておられる方がいてご一緒した際、能登半島の先端に近い珠洲郡内浦町の農協を訪れた。時の参事さんから聞いた話でびっくりしたことがある。

 日本海に突き出た能登半島沿岸は道路が整備された今でも金沢から車で3時間は要し、自然が丸ごと残り、荒らされていない素朴な観光の別天地である。中でも七尾湾から富山湾に面する内海は波静かで、宇出津港を中心に漁港が開かれている。魂が吸い込まれそうなエメラルドグリーンの海の色は神秘的でさえある。山育ちの私はこの景色が好きで、中学、高校時代を通じて夏休みに仲間と何度か写生旅行でキャンプを楽しんだものである。足下の海に目を落とすと魚がたくさん泳いでいて、いろんな魚を釣ったり干潮時にはサザエなどの貝も手で取り放題で楽しかった思い出を話した。

 「能登の山にも松喰い虫が大量に発生して松の立ち枯れ病が蔓延している。松林の消毒や農薬散布が多くなって川の生き物も少なくなった。浜の魚も貝も昔のようにはいないし一昔前までとは随分変わった」

 久しぶりに見る景観に酔いしれている私の目にはわからないが、生態系の異変はここにまでも及んでいるのかと驚愕したものである。

 奥能登と呼ばれるこの地帯も過疎化現象で農業の働き手が少なく、輸送も不便など、ハンディはあるが気象条件は決して悪くはない。特有の赤土土壌で米も野菜も一味違う美味しいものが作られており、能登の赤土西瓜は有名である。

 その能登に、能登の土を守り自然との共生の中で本物を作ろうと志す農家が何人もいる。彼等はおいしいと喜んで食べてもらえて健康であってくれることを素朴に願っている。作物にその思いが現われているような気がします。

 

「森は海の恋人」(北斗出版)の著者 畠山重篤さん

 和歌山は有田の田村、日本一といっていい紀伊国屋文左衛門時代からの伝統あるミカン産地である。山の頂上で足を滑らせたらそのまま海に転がり落ちるのではないかと思われる急斜面に、石垣積みの段々畑のミカン園が拓かれている。そのためミカンの樹は朝から夕方まで南国の日差しを浴び、太平洋の潮風を受け、丹精こめた栽培技術と相伴って、日本一といわれる芳醇なミカンが作られるのだそうである。

 15、6年も前になると思うが、ご照会してくださる方があってその田村の大浦彰士さんというミカン栽培の篤農家と知り合うことになった。彼のミカンはいわゆる手造りの逸品で、一度食べた人はもう虜になる美味しさである。私の職場が変わり、年賀状の行き来だけで10年ほどご無沙汰している彼から、先日突然に「シラス干し」が送られてきた。以前お訪ねしたときお土産にいただいたこともあり、これがまた実においしいのである。お礼の電話をした会話の中で、「この辺りの名産だったシラスも、昔のようにいいものがなかなか獲れなくなった」とのこと。

 理由はわからないが、生態系に異変が起きていることに間違いないだろう。海は海だけの問題ではなく、やはり私たち人間の間違った暮らしぶりの変化に由来するものがあるのではないだろうか。

 

森林、川、海と続く生態系の中に、生物の生存がある。

 周囲を海に囲まれた日本人は、昔から海の幸に恵まれた魚食民族である。四季折々の新鮮な農産物と海産物に恵まれ、いまや世界が注目する日本固有の健康な伝統的食文化を育んで来た。日本人の魚好きは大変なもので、ついでながら真崎正二郎著『日本の輸入食品』によると、「日本が輸入している食糧のうち、輸入金額では水産物が最も多く、全食料輸入金額の3分の1を占めています、この水産物の輸入金額は1993年には、日本のあらゆる輸入品の中で原油に続いて第2位であり、鉄鋼、繊維、肉類、穀物を上回っていました」とあります。

 長山淳哉著『しのびよるダイオキシン汚染』(講談社刊)によると史上最大の毒物といわれるダイオキシンについて「私たちが大気や飲料水から摂取するダイオキシン類は、1日に摂取するダイオキシン類全体の数パーセントにしか過ぎません。したがって、私たちは大部分のダイオキシン類を食品からとっていることになります」。また日本人は「1日に全体として834pgの<2.3.7.8−ダイオキシン>相当量を食品からとっていることになります。この場合にも、全体の59%に相当する495pgを魚介類から、19%に相当する158pgを肉・卵類から、9.8%に相当する80pgを牛乳乳製品から、また、5.5%に相当する46pgを穀類から摂取しています。したがって、834pgの約93%をこれら4種類の食品からとっていることになります」

 魚大好き日本人にとって、食品中で魚介類の汚染が最も高いということは由々しき問題です。化学物質依存型の現代社会ですが、自然の浄化力を超えた人間の物の豊かさ便利さを追求する諸々の営みが、私たちの毎日の食べもの、そして生命の危機を招くに至っています。

 毎日の食生活の中で何を好み、何を選択し、何を買い、食べていくか、価値感の置き所が問題で、私たちひとり一人が、食についての正しい知識を持ち、本当のことを知り、「食い改め」をする。そのことが多くの気づきの輪となって広がっていけば、やがて大きな力となって、商いも生産も変わり、森も山も野原も田畑も、川も海も変わっていくことでしょう。子供たちや孫たちが、いつどこで何を買っても安心で、まともな食べもので満たされるようになっていくことでしょう。そのことを信じ願いとしています。

 


それでは、ほんもの野菜の見分け方20 前回の続きをいたします。

フランスにも輸出される、世界に冠たる宮城の種牡蠣

 ほんものには、それぞれの野菜や果物が本来持っている特有の香りがあり、それぞれが食欲をそそる良い香りがするのが本当です。ニンジンやピーマン、セロリー、ネギなどその香りが嫌われることがありますが、元来ほんものはお子さんでも喜んで食べるよい香りであり、ニンジンやピーマンが臭いから嫌いだと言う子供さんがほんものを喜んで食べる場を何度も経験しています。

 健康に育ち、じっくり完熟した果物は、たまらないくらいおいしい香りがするのが本来であり、ただ甘いだけで香りが弱い、食べて口中に嫌味が残ってあと味のすっきりしないなどはいい果物とは言えないでしょう

 香りが薄い、変な香りがするというものは栽培上にも問題があり、いい作物とはいえません。

 またほんものは、たとえ少し古くなってきても腐りにくく、しなびるようになってきても良い香りのするものです。お試しください。

 

森の豊かさが海の豊かさにつながってる

 葉野菜やブロッコリー、アスパラガス、キャベツ、マメ野菜など緑野菜ではっきりします。化学肥料栽培や多肥栽培の野菜は濃い緑色をしていますが、茹でるとくすんだ色になりがちです。それに比べて健康に育った野菜は色が淡く黄緑っぽい感じですが、茹でると目の醒めるような美しい緑色になります。

 その他の色の野菜もそれらの本来の色が澄んだ美しい冴えた色になるはずです。また化学物質で育てられたものは、茹で汁が汚く異様に濁ります。

 

わずか50年ほどで、山も川も海も、暮らし振りも変わってしまった

 単に甘さだけを求めるのはどうかと思います。その嗜好に応えて最近の果物は確かに甘いものが多くなってきたように思います。しかし果物それぞれが本来持っていたはずの酸味や香りその他バランスの取れた特有の旨味というものがなくなってきたと思いませんか。甘いには甘いが平べったい味で物足りなくあと味がすっきりしない。

 もう一つもう一つと子供たちの手が出てくる。おいしく食べてあと味がさわやか、いくつでも食べたくなる、また食べたくなるというものがほんものです。

 野菜などどんな作物にもそれぞれの甘味・旨味というものがあります。成分バランスが取れて健全に生育し、光合成作用が正常に行なわれた作物は、未消化の肥料成分がなく、必要な栄養成分も含まれ、本来の甘味・旨味がたっぷりあるわけです。

 ほんものの野菜や果物というものは、「あら!おいしいね」「おお!旨いなあ」という感動があるものです。ダイコン、ニンジン、ジャガイモ、タマネギ、キャベツ、ハクサイ、キュウリ、トマト、ナス、ホウレンソウ、シュンギクなどなど。おいしいものは本当においしいですね。

 栄養があるとか健康であるとか自然であるということは、何によらずそれぞれの甘味・旨味に現れます。まさに天の恵み、自然の恵みです。お料理の腕前は素材の選び方にあるかも知れませんね。

 

[8] ほんものは、アクが少ない

 食べてすっきりあと味がいい、というものが本物です。ほんもののおいしさはたくさん食べることができ、食べた後に個性あるおいしさの印象は残りますが、口の中にいつまでも尾を引くことがないものです。だから他の素材や他の料理の邪魔をしません。

 それなりに甘いがもういらない。後味がよくないというものがあります。何となく嫌な味がいつまでも口の中に残っているようで、あと口に水かお茶で口の中をすすぎたいということがありますが、野菜にしろ果物にしろ、それらは化学物質に頼りすぎた栽培のものや不健康な生育のものに多いと言えます。

 


ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。

 


生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
L ife A griculture F oods

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池田 優

 

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