山ちゃんの食べもの考

 

 

その60
 

 最近「地産地消」「身土不二」あるいは「スローフード」などが、よくマスコミや雑誌に取り上げられ、あちこちで耳にすることも多くなってきました。高齢化社会を迎えて誰しもが心配する成人病(生活習慣病)、その予備軍としての子どもたちの不健全な健康栄養状態、それに加えて信頼を覆すような多発する食品の安全性の問題など。ここ半世紀にわたる日本人のたどってきた食を見直し、日本人に相応しい健康な食を考えようというものです。
 現代病の多くは「食原病」であるとかで、食の安全・健康が叫ばれだしてから久しくなりますが、衛生面では前進が見られるものの中身については多くの疑問が残り、中には安全・安心・健康どころか、質的にますます劣悪化したかに思えるものも少なくありません。
 ふだんの食べものからは手の込んだ家庭料理は姿を消して行き、加工食品や中食といわれる安価で簡単便利な調理済み食品の消費量がどんどん増えて行っているといいます。お弁当とかおかずとはコンビニやスーパーで買うものであって家庭で作るものではないといった風潮すら見受けられます。
また、その食べ方にしても国籍不明の取り合わせ、季節無視の料理で、その食材の作られ方や味の作られ方、農薬・添加物使用などに無頓着なことがまだまだ多いように思われます。
私たちは簡単・便利・安価、そしてその場限りの口先の美味しさだけを追い求め過ぎてきたようにも思われます。殊に子どもたちや若い人たちの食行動やその内容が著しくバランスを欠いたものとして心配され警告が発せられています。
 乱れた食を反省して、色々な立場の人々から食と健康について真剣に考えようという動きが出てきたことは喜ばしいことですが、ブーム的に一過性で終わることのないようにしたいものです。


 先日も近隣のスーパー何店舗かを見学してきましたが、安全で健康な食を本気で考えようとする具体的な提案を見ることは出来ず残念に思いました。それどころか前面に打ち出しているのは相も変らず安価、簡単、便利、化学品を使って化粧された美味しさや美しさでした。
 山積みにして大量販売を促す商品は、メーカーや業者と一体となっての企画販売が目立ち、私個人としてはあまり積極的にはお勧めしたくないものが多く有りました。
 一方では残留農薬や添加物問題、また偽装事件などが相次ぐ中でJAS有機栽培や減農薬栽培などの農産物、無添加食品などを品揃えが若干ながら増えてきたこと、産地表示をする、商品特徴を表示するなどが目に止まり、安全・安心・健康な食への取り組み努力が窺え、これはこれで大きな一歩の前進であると嬉しくなる面も少々ありました。
 しかし、スーパーの意図する本意は売上や収益の拡大にあり、有名ブランドの低価格競争や、売れ筋商品の大量販売と、効率効果優先であることには変わりがないようです。よく目立つ大量陳列大量販売の場所はそれらで占められており、安全、健康、本物志向といった商品群はどうも本腰が入っているとは言えず、消極的でありゼスチャー的であるとさえ思えた。


 スーパーを見学して「日本人の食と健康」、その何たるかがよく理解されていないのではないかと思えた。だから、文章では「高品質の商品を厳選して品揃えし、お客様の健康な食生活に貢献します」などと大上段に掲げてはありますが、せっかく良い商品を置きながらもその品揃えは片手落ちであり、まちまちに片寄っていて、食全体の在り方への提案には結び付いていないのです。
 味噌汁一杯、朝食一つとしても、トータルとしても安全健康を提案するには品揃えがちぐはぐですから訴求力はありません。味噌は味噌、豆腐は豆腐、ネギはネギ、夫々に仕入れ担当者も販売担当者も違い一つの売り物としてしか捉えていませんから、味噌汁を作るあるいは食べるといった括りで品揃えすることも提案することもできていません。
 健康志向の人が朝食にパンを食べるとすると、どんな質のものがどのくらい必要で何を求めているかが、今のスーパーの仕組みではそれを考えて商品開発し提示することができないのです。パンは、野菜は、卵は、ハムやベーコンは、スープは、牛乳は、砂糖は――。売り物の商品はそれぞれ独立した部品でしかないといった感じです。しかし客にとって食べることはトータル思考なのです。そのパン食をした健康志向のお客さんが昼食はどのようになさっているのだろう、夕食は何を、魚の場合は、お肉料理に望まれることは、調味料にはどのような要望を、お子様の食事やおやつにはどのように気遣っていられるのだろう。などという考えには及びません。それは、お役様の立場に立って考えると言いながらもそのような構造にはなっていないからです。
 それに食べることを売る、食事を売る、安全健康な食生活を売るのではなく、食品という名のつながりのない物品を売っているから、そうした必要も感じていないように見受けられます。
 その地域の人々にとってもっとも安全で健康的な食のあり方とはどのようなことなのか、などといったことが本気で勉強がされていないようですし、そうしたことへの関心も薄く考え勉強も浅いように思われるのです。
しかも安全健康志向の商品群は価格も相対的には決して安価ではなく、消費者の認知や支持もまだ低いので、販売効率も現実よくありません。したがって健康な食への提案や良い食品の開発・販売はどうしても第二義・第三義的なものとなり、本気で地域のお客様のために良い食品を取り揃え、よい食のあり方を提案しようとする積極的な姿勢が見えてこないことになってしまいます。


 まだまだ不十分とはいえ、安全・安心・健康志向の高まりを受けて、また、一連の食品に関する不祥事件等から栄養・健康・自然・良質などを謳う商品が目につくようになってきたことも事実です。可能な限り素材を吟味し、良い原材料を使い、危険視される添加物などを使わず、安心で美味しいものを作ろうとする動きはありがたく、またスーパーや小売店が劣悪な商品は避けようとする動きも嬉しいことです。
 しかし大量に陳列されている商品群をつぶさに見ていくと看板とは裏腹に、似て非なるものがまだまだ多すぎるように思われます。POP広告や商品ラベルにはその商品の良さをアピールする文面が強調的に表記されています。ビタミンやメネラルなどの栄養強化を強調するもの、健康作りや病気予防の効能を強調するもの、自然の栄養やおいしさを協調するもの、食べ物としての伝統的な良さを協調するもの、○○入りなど使用原材料の良さを訴求するもの、昔ながらのなど製造 方法を強調するものなどさまざまです。
私はこれらを嘘偽りや誤魔化しであるというのではありません。「高品質の商品を厳選して品揃えし、お客様の健康な食生活に貢献します」という看板に偽り有りと言うのでもありません。やはり価格の安さや便利さ美味しさが前面に出ており、そして今、安全健康指向からその食品の一面だけがことさら強調されて、意図的ではないにしろ消費者が安全・安心・健康を求めるとき、もっと知らなければならない情報が知らされることなく、その結果都合の悪いことが隠されてしまっているように思うのです。


 生産者が打ち続く価格の低迷で採算も取れず悲鳴をあげているというのに、それらを原材料として手間暇かけ美しくパッケージされた加工食品や調理済み食品が、何故その生鮮食品よりも安いのでしょう。少しでもやすく提供されることは消費者にとって結構なことではありますが。
 とは言え、価格の安さ高さには、良いにつけ悪いにつけそれなりのワケあってのもので、それを見極める事が大切です。しかしそれを判断するにはあまりにも情報が少なすぎます。食品の表示規制も、消費者が商品を選択する際の判断材料としてやかましくなってきていますが、その標示ラベルだけで知ることは不可能です。ましてやメーカーサイドや販売者サイドの謳い文句を鵜呑みにして判断することも果たしてと疑問符がつきます。
 下記は今朝の新聞折り込みチラシから拾った一部です。すべてどなたもが知る有名メーカーの品々です。冷凍食品(全品)半額、アイスクリーム(全品)半額、カップめん(12個入り1箱)898円、しょう油(1g)98円、サラダ油(1500g)158円、無農薬豆腐(1丁)38円、うどん(200g)18円、カレー(240g)98円、ボトルコーヒー(900ml)98円、味噌(1kg)198円、上白糖(1kg)100円、穀物酢(500ml)100円、料理酒(500ml)100円などなど。


このお店に限ったことではなく全国で低価格競争が繰り広げられていますから、もっともっと安い価格提示もあるでしょう。私はこの低価格競争の生み出すものにとても危惧を感じています。
 安く売られることを問題にしているのではありません。同じ品質のものであれば1円でもお安く提供できるようムダを排除し合理化すべきは合理化する。また、同じ価格なら少しでも安全・健康で美味しいものを提供すべく研究開発し、お客様に喜ばれるための努力を怠ってはならないことは当然でしょう。
 しかし問題とすべきは異常なまでの低価格競争は、それに打ち勝つ為に、安く売ることを第一義の前提として食べ物が作られていく恐れのあることです。ですからメーカー名やコマーシャル、売り手の謳い文句にとらわれることなく、情報としては十分ではないにしても最低限、商品ラベルをよく見ることをお勧めします。
 使用原材料、添加物、加工方法などをご覧になり、不明な点は確かめることでよい商品を選択する知識も広がっていきます。
 諸々の農薬の使用も、着色剤や増量剤、防腐剤などの添加物の使用も、即席的な現代の加工方法も、それは法律で認められていることでありますからとやかくいっても始まらないでしょう。しかし100円や150円で売られるしょう油や味噌は、それはそれなりのものであり、何処でも年中行事のように4割引とか半額でしょっちゅう売られている冷凍食品なども、それなりに経営のバランスが取れているのでしょう。そのために潰れたという話は聞きません。


 同じ折込チラシから生鮮野菜の一部を取り出して見ると、
キューリ(5本)100円、トマト(2個)100円、ブロッコリー(1株)100円、キャベツ(1個)50円、大根(1本)50円、アスパラガス(1束)100円、ピーマン(6個)100円、ごぼう(1袋)100円、生姜(150g)50円、なめこ(100g)50円、柿(2個)100円、みかん(5個)100円、りんご大玉(1個)100円、バナナ(100g)18円、卵(10個入り)88円などなど。
 このようなことは全国どこでも何時でもやっていることで、特に珍しいことでもなく常識の世界でしょう。しかし百姓に生まれ、食べ物に携わり、農家を訪ねて良い食べものを探し回った私にはとても理解に苦しむ世界です。
 これらの商品の生産者手取りはどのくらいになっているのでしょう。生産者には当然諸々の生産費があり出荷販売の諸経費が必要です。プラス生活費を補って余り有る最低限の収入がなくては経営も続きません。どうやったらそれに見合う栽培が出来ているとお思いでしょうか。
 私は日本人の当たり前過ぎるくらい当たり前であるべき「安全で健康な食」を第一義として考えるとき、いまの食の世界の競争はバランスを欠き、本質を見失った歪なものになっていると思わざるを得ないのです。価格の高い安いを相対的に単純比較して、その価値まで判断してしまうことはあまりにも危険です。
「安全で健康な食」の実現は、作り手と売り手、そして食べ手とが、そのことへの願いを強く抱き、「心を一つ」にして始めて可能になることなのだと思います。










 

ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。


  

生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
L ife A griculture F oods

FAX :076-223-2005
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池田 優

 

 

 

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