山ちゃんの食べもの考

 

 

その62
 

 子供たちへの食育が各地で取り上げられるようになりましたが。いざ地域の食文化や伝統料理などを具体的に伝えようとすると、さァ、大変。若い学校の先生にしても父兄にしてもよくわかりません。食べ物を作ることと食べることの距離がそれほど遠く離れてしまっているようです。先生やお母さん自身から勉強をはじめねばなりません。
農文協の『自然と人間を結ぶ』2002年3月号には、平成12年度から開催された「地域に根ざした食生活推進コンクール」に寄せられ受賞した各地の事例が載せられています。これらを読んで思うことの第一は、どうも「子供たちへの食育は」、実は長らく忘れられ疎かにしてきた「大人たちへの食育」でもあるということです。
 第二は、子どもたちは非常に感性豊かでとても敏感であり吸収力も旺盛で、将来の健康な食生活、食文化を形成する為に、いま、子どもたちへの食育はとても大切であり、その効果が大きく期待されるということです。
 そして第三は、それを通しての食の見直しが、父兄から関係する社会へと広まることもまた、大きな期待がもてるということです。
 このコンクールに応募して見事、農林水産大臣賞に輝いた、山口県柳井市柳井地区魚食普及推進協議会の、「子どもは魚きらいじゃない!チビッコ審査員によるお魚料理コンテスト」から抜粋要約してご紹介します。


 大人が作ったお魚料理を小学生が審査するという、たいへんユニークな料理コンテストが12年間も続けられている。ミカン栽培と近海漁業が営まれる典型的な半農半漁の暮らしに根ざした、地域ぐるみの食育活動である。瀬戸内海に面する柳井市を中心に1市5町で構成する「柳井地区魚食普及推進協議会」の主催によって行われているものです。

◆子どものつぶやき、大人のつぶやき
 「テレビ料理番組を見ていた子どもが「審査員はいいなあ、おいしい料理をいっぱいタダで食べられる、ぼくらもいっぺんでいいから審査員になってみたい」とつぶやいた。また、グルメ番組を見ていた大人達の会話の中で「あんな魚料理なら私らの作ったものの方が美味しいよねえ」というつぶやきがあった。
 それを聞いた推進協議会の事務局を続ける川崎良子さんはひらめいた。「大人が作った魚料理を子どもが審査する。同じ料理番組を見ても子どもと大人では感じ方が違う。子どもが大人の料理をどう評価するか。子どもと大人が気楽に参加できるお魚普及運動はこれしかない」と。協議会会長の藤麻功さんに相談し、「チビッコ審査員のお魚料理コンテスト」が始動することとなりました。

◆やってみたらなにもかも面白かった
 実施の段となると、1市5町が足並みそろえるのはたいへんであった。しかしたいへんだったことを皆忘れてしまうほどに、やってみたらなにもかも面白かった。「子どもと大人の両方が参加できること」「1市5町が仲良く協力できること」の二つを大切にして進める。そこにおのずとアイデアが湧いてきた。
 会場は1市5町を順番に持ち回り、6年で1巡する。毎回必ず1市5町から参加する。20作品100人前のお魚料理が会場に並ぶ。審査員は1市5町の小学校から募集した男女5・6年生の20人。会場には一般の人も大勢参加して楽しくやる。

◆子どもの舌はあなどれない
 当初の出品内容はいかにも子ども受けをねらったものが多かった。ところが、そのような「子供だまし」はまったく通用しなかった。いざコンテストとなるとお酒の肴になるような、一見子供向きでないような料理が好まれた。素材の良さ、調理技術がしっかりした料理でなければ高い評価が受けられない。子どもたちの舌はあなどれなかったのです。
 12年間の中で大きな変化は、お父さんたちの出品作が出るようになったことです。お母さんたちの作品には、イワシ、サバ、アジ、イカ、タコといった大衆魚が使われるのに対して、お父さんたちの作品にはハマチやエビなどの高級魚が使われる。

◆保育園児もお魚大好き
 保育園児にもお魚と親しむ「お魚バーベキュー」を保護者も一緒に招待して行われます。瀬戸内海沿岸といえども出刃包丁を使うような魚料理をする機会は少なくなっています。プロの調理師が行う魚のさばき方講習には、親と園児が食い入るように見つめるという。
 また、瀬戸内海で獲れた新鮮なアジ、サバ、メバル、タイなどを丸のまま持って行くから、園児たちは切り身でない本物の魚にさわるのがとてもうれしそうだと。
 美味しい魚を美味しい状態で食べさせるのが魚料理に親しむ近道だと思うから、園児向けだからといって手抜きしない。家庭で焼魚を食べる園児は少ないかもしれないが、お魚バーベキューでは皆喜々として食べる。丸のまんまのお魚を大勢でワイワイいいながら食べる。園児らも本来お魚が大好きなのです。

◆魚のアラで堆肥を作り、美味しい野菜を作る
 柳井漁協婦人部長の大野君枝さんは、毎週の日曜の朝市で野菜を売るのを楽しみにしている。
 魚にはウロコもあり、内臓、骨など人間が食べない部分があるが、これらはがんらい貴重な栄養をもっている。廃棄物として棄ててしまうのはもったいないと、これらを堆肥に加工するようになってきた。粉砕して加熱するだけで良質の堆肥になる。魚堆肥で作った大野さんの野菜は美味しいだけでなく、生育もよく評判をよび、人気を呼んで売れるようになった。
 大野さんはお魚料理の講師として中学校の家庭科授業にも出かける。

◆魚にも季節感がなくなった
 「子どもの魚離れは大人のせいだ」と組合長の松野利夫さんは断言する。「大人自身が魚を知らない、調理の仕方がわからない、だから魚を食べない。そんな大人が子どもに魚を食べさせられるわけがない」と。
 町の身近な魚屋さんが少なくなって魚の販売も量販店主導になり、ほとんどが刺身か切り身で、パックのラベルを見なければ魚の種類もわからない、マグロやウナギは年中出回り、一見豊富な品揃えに見えるが季節を感じさせる魚種はごくわずか。一年中同じ魚が並んでいる。野菜や果物に季節感がなくなったのと同様、量販店に並ぶ魚にも季節感がなくなった。


 今、子どもたちの「生きる知恵・力」を養わなければならないと、各地各方面で体験的な「食育」「食農教育」が実施されている。直接子どもたちの感性や命に呼びかけるこうした体験学習は、子どもたちにこれまでの机上教育にない生への喜びや感動を与えているという。
 全国農村青少年教育振興会の昨年の調査では、全国の賞学校のうち66%が農業体験学習に取り組んでいることがわたった、と報告している(5月27日「日本農業新聞」)。これによると特に東北地区の取り組みが多く規模の小さい学校ほど最も多い。逆に北海道や近畿地区での取り組みが低い。
 何時でも何処でも、食べたいものが好きなだけ自由に気軽に食べられる。町には食べ物が溢れていて「食べものはお店で売っているもの」になっている。
 どこで誰がどのように作ったものなのか、思いも感動も伝わらないものになっている。「作り手と食べて、農と食の距離の拡大」は、作り手にも、売り手にも、食べ手にも、心の乖離をもたらし、大きな歪みを生じさせ、食に対する不安と不信をもたらしているように思われます。
 子どもたちへの「食育、食農教育」を通して、大人自身が、そして食の生産から流通に関わるすべて人々が、本来あるべき「健康な食と農のあり方」について、根本から学習しなおすべき時にあるのではないでしょうか。


 さいたま市の農家・萩原知美さんの取り組むすばらしい食農教育の例を、5月22日付『日本農業新聞』掲載より抜粋要約してご紹介しましょう。
 萩原さんは、敷地内の雑木林や畑約10アールを利用して田舎暮らし体験塾を毎月開いている。
 参加者は、市内の35家族で親子約150人。1家族が33平方メートルの畑でナス、トマト、ラッカセイなどを作る。お手玉などの昔遊びや、みそ、コンニャク作りも用意。地域の高齢者らが先生役を務めるといいます。
 この田舎暮らし体験熟は5年前の邂逅し、1家族年間1万7000円かかるが好評で、塾を開く第2土曜日以外の週末でも、親子が訪れて憩いの場になっているそうです。
 子どもたちは土の香りや感触、農家の暮らしに直ぐに夢中になって、「外遊びが好きじゃないのに、ここでは張り切っちゃって」と子どものいきいきとした態度に、父母から驚きの声が挙がるとのこと。


 水田を提供する地元の今井保さんは、子どもたちの真剣な態度に驚いている。「幼稚園児でも、最後まで自分でやるって頑張るんですよ」。それを見て、自分の子どもには農作業をさせていなかったが、田んぼに連れて行くようになったそうです。
 「食べものの本当の美味しさ、自然の循環システムを消費者の親子に体ごと感じてもらいたい」というのが、萩原さんの願い。そして、「子どもも変るけど親も変る。農業の応援団ができたのが何よりもうれしい」と手応えを感じる。この農業体験塾では子ども達だけではなく、高齢者も元気付けているといいます。


 国立教育政策研究所の佐野明さんは、「各種の体験学習は、あらためて場所を用意し、時間、教える人、教わる人を確保しなければならないので大変だ。だが農家なら話は別だ。簡単ではないが、“やる気があれば、すぐできる”」。と次のように語っている。
 「役に立ちたい高齢者がいっぱいいる。休耕田もあれば遊休農地もある。外で思う存分遊べなくなった子どもたちは、エネルギーがあり余っている。必要な条件はそろっている」。と、地域の人材、資源の積極的な活用を呼びかけている。





 

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生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

 

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