山ちゃんの食べもの考

 

 

その64
 

 「60年後には関東・北陸以西でコメの10アール当たり収量が12〜15%減る」と農水省が地球温暖化による農産物への及ぼす影響を発表したのは今年の5月でした。これは温暖化問題の国際的な研究機関「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)、気象庁のデータなどを踏まえ、温暖化が国内の主要農産物にどう影響するかを予測したものでした。
北海道では気温も上がり日照時間も増えるので米作りには好適条件となるが、その他の地域では徐々に減ってきて2060年には全国平均でも収量は減収が見込まれるといいます。
 また果樹への影響も大きくミカンの北限は東北沿岸まで北上し、現在の主産地では気温が上がり過ぎて栽培が難しくなるだろう。リンゴや柿は高温障害を受けやすい。またリンゴやブドウは着色不良となり暖地産は果肉が軟化して貯蔵性が悪くなると。
 野菜では冷涼な気候を好む葉根菜類は温暖化で産地が移動する。果菜類は高温による生育障害で夏場の野菜は生産が減るであろう。
 そして農産物全般にわたって病虫害の発生が多くなり、被害が増えるなどが予測されるという。


 東京新宿・高野の井上本部長は、果実販売の実体験から、異常気象は、果樹栽培にも大きな影を落し始めている。と次ぎのように語っています。
 ここ数年間だけでも、地球温暖化の影響からか、夏場の異常高温が原因と思われる「桃」や「西洋梨」などで果実の内部崩壊が問題化し始めている。今年に入ってリンゴ「ふじ」で新たな難問が発生した。これも夏場の異常高温が問題と思われるが、果実の内部褐変が異常に発生している。従来なら外観や果皮の色で判段できたし、果実を指で叩いてその音での判断が可能であったのだが、それですら不可能であった。「ふじ」の販売をはじめて数十年もたつが、5月初旬の時点で販売を中断せざるを得なくなったのは全く初めてのことで対応に苦慮したという。
 また、専門家の意見では、このまま温暖化が進むと、近い将来、国内でホウレン草の栽培適地は北海道だけになり、数十年後の東京は、今の沖縄並みの気候になるだろうと予測しているとか。


 地球温暖化で果樹に大きな影響が出ており、今世紀の前半にはリンゴの栽培適地は大きく変化すると、熊本県で開かれた園芸学界・果樹部会で報告されている(10/16『日本農業新聞』)。今後50年で青森県など東北地方はリンゴの栽培適地ではなくなる。ミカンや梨産地にも大きな影響があり新たな対応が必要であるという。また、農研機構・果樹研究所は、「21世紀前半までに現在の農産物産地が激変する可能性がる」と発表している。
 農水省は2000年にまとめた「果樹農業振興基本方針」の中で、リンゴ栽培に適する地域を、年間平均気温で6〜14度としている。しかし農研機構・果樹研究所が出した気温予測モデルの平均値では、2040年代には東北南部の平野部の平均気温が14℃以上になり、2060年代には東北中部の平野まで14度以上になるという。「現在の大産地である津軽平野でも暖地りんごの地帯になるだろう」と予測している。
 宇都宮大学などの研究では、埼玉県の梨の開花日がこの10年で2.5日早まっており、開花に必要な低温が得られない福岡県では2.2日遅くなったという。そして、「開花が遅れれば、その後の成育にバラツキが出てくる可能性がある」と言っている。また、 愛媛県果樹試験上の報告でも、ミカン栽培に異常が出ていると報告している。


 地球温暖化がもたらす影響は農業・農産物にとどまるものではなく、1992年のリオジャネイロでの地球環境サミットの最重要案件でもあった。それを受けて1997年12月に京都で開催された京都会議では、先進国及び市場経済移行国の温室効果ガス排出の削減目的を定めた京都議定書が採択されたものでした。
 この京都議定書は、地球温暖化問題に対して人類がどのように取り組んでいくかを定めたもので、これですべてが解決されるわけではないにしても、世界の人々が力を合わせて明るい21世紀を開く全地球的な視野からの大いなる一歩であるとして注目を集め、各国の取り組みが始まりました。
 ところが、世界最大の炭素排出国であるブッシュ政権が率いるアメリカは、京都議定書が実施されれば、企業はコストの高い技術を導入せざるを得なくなり、アメリカの産業は国際競争力の弱体化につながるとして、条約を拒否し、世界の足並みが乱れています。
 京都議定書では、2008〜2012年までに温室効果ガスの排出量を1990年実績よりも5.2%削減することを求めていましたが、2000年までに達成したのはわずか1.7%であり、しかも1990年の実績を下回ったのはロシアとEUだけでした。


 異常気象や地球温暖化をもたらす元凶であるといわれる温室効果ガス、なかでも最大の原因であると言われている化石燃料の燃焼によって放出される二酸化炭素の排出について、ワールドウォッチ研究所の『地球白書』の指摘するところを見てみましょう。
 同白書によると地球温暖化はますます深刻の度を増している。「地球環境において最も重要な問題は温室効果ガスの排出、気温の上昇、海水面の上昇、異常気象の変動と強度の高まりなど気候変動である」とし、「過去50年間の温暖化の大半は人的活動に起因する」と述べています。そして環境諸団体は、このままでは取り返しのつかない被害をもたらすと警告を発しています。
 リオでの地球サミットから10年たった今、人間活動による気候変動は進行中で、しかも加速しており、温暖化の影響は多く起こっています。
 化石燃料の燃焼によって大気中に放出される二酸化炭素は、地表の温暖化を引き起こす最大の温室効果ガスです。温暖化に寄与する二酸化炭素の割合は、2100年には現在の2分の1強からおよそ4分の3に増加すると予測されています。
 積雪と氷の面積は広範囲に減少しており、20世紀の百年間で10~20センチの海面の上昇が認められた。1860年代に計器による測定が始まって以来、1990年代はもっとも温暖な10年であったといいます。


 地球気温のかつてない上昇は、温室効果ガスの記録的な濃度及び排出量と並行して起こっていて、大気中の二酸化炭素濃度は1750年から31%増加したが、その増加の半分以上は20世の後半に起こっています。そして、過去20年間に人間が排出した炭素量のおよそ4分の3は化石燃料の燃焼によるものである。
 化石燃料燃焼による炭素排出量は将来の大気中の二酸化炭素濃度に大きな影響を及ぼし、2100年には540〜970ppmに達すると予測されている。仮に温室効果ガス濃度が安定しても、過去の排出量の影響で地表の平均気温と海面は上昇を続け、気候変動は何世紀も続くだろうと述べています。


 地域的な気候変動が、現在地球の広い範囲で自然や生態系に影響を及ぼしております。
 それは氷河の後退、永久凍土の融解、河川湖沼の氷結期間の短縮、中・高緯度地方の生育期間の長期化、動植物の分布範囲の移動、動植物の個体数の減少、樹木の開花期や昆虫の羽化時期や鳥の産卵期の早まりなどです。
 また氷河、サンゴ礁と環礁、マングローブ、寒帯林と熱帯林、極地と高山帯の生態系、水生草原をはじめとする原生の草原などの自然系は、特に修復不能な破壊を受ける危険性が高いと見られています。
 環境の変化に弱い種の絶滅や生物多様性の減少はすでに起こっているが、気候変動によってその危険性はいっそう高まり、変動の速度と規模に応じて破壊の速度は増大するだろうと予測しています。


 人間への直接的な影響については、「気温の上昇によって熱帯・亜熱帯の大部分の地域で作物の生産量が減少する」。「水不足の状況にある多くの地域、特に亜熱帯で、利用可能な水資源量が減少する」。「動物媒介あるいは飲料水媒介による感染症<マラリアやコレラなど>の羅患者が増え、熱さによる死者が増加する」。「頻発する豪雨と海面上昇により広い範囲で洪水が増え、数千万人が被害にあう危険性がある」と。
 このような影響を受ける頻度や規模の増大が予測されるので、異常気象(干ばつ、洪水、熱波、雪崩、暴風)がいっそう重大な結果を引き起こす可能性があります。


 そして、気候変動の影響を受けやすい国は、もっとも財源に乏しく、もっとも対応力を欠いている貧しい国々である。しかも、そのもっとも深刻な影響を受けそう国々は、そもそもこの温暖化問題の因果関係からすればもっとも責任が薄い国々なのです。
 どの程度の気候変動が起こるかは、二酸化炭素濃度がどれだけ増加するかにかかっており、その増加は化石燃料の燃焼による炭素排出量がどう変わるかによって決まると言われます。
 仮に、温室効果ガス濃度を450ppmで安定させるためには、年間炭素排出量を今後の数十年間で現在のレベルから大幅に削減し、2100年までにおよそ20億トンに減少させて、最終的には10億トン以下にしなければならない。しかし、そのためには世界の炭素排出量を約70~80%削減しなければならず。前進のみられない京都議定書の削減率をはるかに上回るレベルだと言います。


 化石燃料燃焼による世界の炭素排出量は1990年から2000年にかけて9.1%増加した。そして、先進国等は依然として世界の炭素排出量の58%を占めているという。


 また、世界最大の炭素排出国はアメリカで、世界総排出量に占める割合は1990年の22%から2000年の24%に増加した。京都議定書はアメリカに温室効果ガス排出量を1990年から2008〜12年までに1990年実績の7%削減することを求めていた。ところが2000年までに18.1%増加させた。この増加量は、ブラジル、インドネシア、南アフリカ共和国の年間排出量の合計に匹敵すると言います。
 アメリカの一人当り排出量の5トンは世界最大である。


 京都会議で2008〜12年の温室効果ガス排出量を1990年レベルに維持することに合意したロシアは、1990年から2000年までに炭素排出量を30.7%減少させた。日本は6%の排出量削減を約束したが、実際には10.7%増加した。インドは67%の排出量増加を記録しが、インドの1人当り排出量は0.3トンと、世界的平均1.1トンを大きく下回り、主要な排出国の中でも最低である。
 EUの炭素排出量は1.4%減少したが、1人当たりの炭素排出量は依然として世界平均を上回っている。ドイツでは19%減少した。イギリスでは5%減少した。


 初めに見てきたように、地球温暖化は異常気象も伴い既に多くの農産物栽培に大きな影響を与えています。世界的規模で見ると自然生態系の破壊が著しく進行しており動植物の繁茂や生息に異常をきたしているといいます。かつてない干ばつや大洪水、大暴風が各地で頻発し、水不足、砂漠化の進行なども含めて農産物栽培可能耕地の荒廃はとめどなく拡大しています。病虫害の異常発生も重なり予測される食糧危機は一層の深刻さを増していると言われます。
 私達の豊かな生活を振り返って見ると、毎日欠かすことのできない食糧の作られ方を始め、生活のすべてと言って良いくらいに、地球温暖化の主原因である石油化学の産物に直接間接依存しています。私たちの求めるより豊かでより便利快適の生活は、近代化学エネルギーへの依存なしには成り立ちません。
 「ハウスみかんは美味しいから好き」と言っても。そのみかん1個を作るのにコップ1杯の石油が加温のための燃料として使われています。そればかりではありません。そのハウス資材、証明、肥料や農薬にも、機器や容器や包装資材、運搬具や輸送にも、食べた後のゴミ処理にも化石物質や燃料が使われています。冬場のイチゴやトマト、早出しの野菜や果物。もう農業も石油とは関係なしに成り立ちません。クリスマスに食べる楽しい生野菜サラダ、まるで石油を食べているようなものかも知れません。
 地球温暖化は誰のせいでもなく、私たち一人ひとりの人間がもたらしたものです。私たちの身の回りには、僅かなりとも地球温暖化抑止のために出来ることが沢山あるはずです。私たちが何を選択して食べるかという食生活を考え直すだけでも大きな力となるのではないでしょうか。「地産地消」「旬産旬消」もその一つではないでしょうか。



 

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生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

 

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