山ちゃんの食べもの考

 

 

その68
 

 世界の多くの人々の恩恵をこうむって(いや犠牲の下に)営まれている私たちの豊かな食生活を、いかにも自分の甲斐性で食べているように勘違いしてはいけない。美食・飽食をほしいままにしながら、わけもわからないまま「より安全、よりおいしさ、より健康を」と声高に叫ぶ。
 これまで、「身土不二」、「地産地消」「旬産旬消」、あるいは「スローフード運動」などと、私たちの食の現状を見てきたように、わが国は大半の食を海外に依存しながらも、まさに「吐いて棄てる」ほどの物量に充たされている。このあり余る食料のモノ豊かさの中にありながら、現代の食はその本質から逸脱し、秩序なく堕落・荒廃した。こうした食の在りようが、日本人の大人も子どもも含めて肉体の健康のみならず、精神の健康まで蝕んでいるといわれます。
 多くの人が、基本を離れた好き放題の食べ方をしながら、健康のためにはあの食べ物がいい、この飲物がいいなどと気にし、中には健康補助食品や薬が手から離せないという人も多くいます。にもかかわらず、私たちの生命を育み、健康な心身を保持する普段の食の在り方について真剣に考え、根本的に改めようという風潮はなかなか広がっていきません。
 食の安全安心についても、マスコミを中心に大きく騒がれているほどには、日本人である私たちの健康にとって、何をどう選択し、どう食することが最も良いことなのかは、生産も流通も、消費形態もあまり変っていないように見受けられます。
 「今日の食にも事欠く」というような状態にでも陥らないことには、本気で食について考えるということは出来ないのでしょうか。


 新たな食品不安の中で安全安心な食をどう取り戻すか――。農文協、「自然と人間を結ぶ」2002年3月号で、全国農村映画協会の森田久雄氏は『日本でアジアで見え始めた“地産地消”の動き――ビデオ“安全安心な食を考えるシリーズ”取材から――』と題して以下のように述べています。
 「ビデオを『安全安心な食を考えるシリーズ』全3巻の制作を担当した。急増するアジアからの開発輸入の実態と輸入農産物の安全を追跡した第一巻『大丈夫?あなたの食卓〜輸入食品を追跡する』、新JAS表示を中心に食品表示の見分け方を解説した第二巻『ここで見分ける食品表示〜不安な食品の点検法』、そして地産地消による安全な食卓づくりを扱った第三巻『安全安心な食卓づくり〜地産地消の共生へ』と言う全体構成です。」
 「かつての食の安全性といえば、食品添加物や残留農薬について問題視するというのが大きな流れでした。今回はそれらに加えて、遺伝子組み換え食品やBSE(牛海綿状脳症)といった新たな食品不安、日本の企業が進める開発輸入によるアジアの産地の実態、食品の輸送距離(フードマイレージ)と鮮度・栄養価の問題、農業と環境保全の関わりといった多岐にわたるものとなりました。食をトータルにとらえないかぎり、食卓の本当の安全・安心は保てないからです。」
 さて、私たちは選り取り見取り、季節を超え、国を超えて、多種多様の豊かな食材に恵まれています。そんな中にあって健康そのものでなければならないはずの日本人が、こんなに科学が進歩した世の中でありながらも、食にまつわる事件が後を絶たず、生命の基本となる食品に対する安全性・健康性への不安が高まるばかりです。どうしてなのでしょう。私たちの食の求め方に問題があるのでしょうか。それとも生産や加工など食の作られ方に問題があるのでしょうか。あるいは効率や利潤追求至上主義の食品流通業や販売者の主導に問題があるのでしょうか。
 以下に、森田久雄氏の述べるところを見てみましょう。


 「世界人口の2%たらずの日本が、世界の食糧貿易の10%を消費しています。穀物自給率はわずか28%、カロリーベース自給率40%という異常な事態が、私たちの食卓をいかに歪めているか、今回の取材を通して再度実感せざるを得ませんでした。折しも、日本でもBSEにかかった牛が発見され、世情が騒然となりました。日本で認可されていない、遺伝子組み換え穀物を原料にした食品も次々と検出されています。値段の安さだけを追い求め、世界中から食料を買いあさることが、いかに安全性をないがしろにしていたのか、改めて背筋が寒くなる思いです。」
 「同時に日本の商社や企業によるアジア諸国からの開発輸入も見逃すことはできません。今日の日本人の「飽食」を支えている、アジアの人たちの暮らしや産地の様子を少しも知ることなく、私達は日々の「便利」で「豊か」な食生活を享受しているのです。」
 「しかも、ポストハーベストとプレハーベスト、収穫後に使う農薬と収穫前に使う農薬による被害の度合いを比べると、前者が1割、後者が9割にも上ると、フィリピンのバナナプランテーションの労働者は言います。アジアの産地に働く労働者達の健康と環境を守る循環型の農業を確立することが、とりもなおさず私たち日本人の食の安全に直結しているのです。」


 「たとえば輸入食品のなかでもっとも金額が多いエビの場合を見てみましょう。最大の輸出国であるインドネシアのジャワ島東部では、1980年代半ばに、日本の商社主導で一面のサトウキビ畑をつぶし、マングローブの森を切り開いて、多くの集約型エビ養殖場が作られました。」
 「しかし、現在残っている養殖場は最盛期のわずか10%たらず。配合飼料や農薬の多投、蜜飼いによる病気の発生で養殖を続けることが出来なくなったのです。美しい海岸線一帯に、塩が吹き出て干上がった養殖池が無惨に広がっています。環境に配慮した養殖をしなければ、養殖そのものが成り立たなくなっているのです。多くの加工業者も、原料不足のため、タイやインドにエビを求めているのが現状です。日本の商社主導による集約型エビ養殖による環境破壊が、アジア全土を駆けめぐっています。」
 「私たちが訪れた、スラバヤにある大規模なエビ加工場の零下30℃の冷凍庫には、日本向けの寿司ネタのエビが隙間なく並べられています。日頃私たちが食べている、開店寿司の安いネタです。大半がコスト優先の処理を施され、化学薬品や添加物で処理されています。」
 「今回私たちが取材を許されたのは、添加物処理されない環境保全型エコシュリンプの製造ラインだけ。エビの原料不足と余剰人員にあえぐ大手加工場が、日本から一定のロットが確約される、エコシュリンプに工場のラインの一部を割いたのです。」


 「実は、インドネシア最大の土地スラバヤ近郊に広がる大デルタ地帯に、昔ながらの伝統的粗放養殖池が多数存続していたのです。集約型養殖場の大半が、風光明媚な海岸線に位置し、マングローブの伐採の容易な開発しやすい地形にあったのに反して、伝統的粗放養殖池は小船で行く無数の水路しかなく、開発にはあまりにも経費がかかるため幸いにも放置されていたという背景がそこにあります。」
 「集約型のエビに比して、飼育機関は1〜2か月長く、生産数量も少なく、確かに効率はよくありません。しかし、集約型のように薬品づけでエビが全滅したり、養殖池がつぶれる心配はありません。長い目で見ると経常的にも、余計な資材を多投しないことを考えると、バランスが取れると生産者たちはいいます。」
 「そして今、集約型のエビ養殖で荒廃したマングローブの森を復元するため、地元の人たちはマングローブの植林を始めています。池に酸素を送り、プランクトンや魚、多様な生き物を育む汽水の広大なデルタ地帯こそ、尽きせぬ宝の土地なのです。環境を破壊しないエビ養殖、食品添加物に汚染されないエビを求めるなら、エビの生まれる海を、水辺を、生態系を、そしてそこに暮らす人々のことを忘れてはいけないのです。」


 「開発輸入と農薬の被害。それは、バナナを通してはっきりと見ることができます。フィリピン・ミンダナオ島ダバオの近郊は、1500ヘクタールもの巨大プランテーションがいくつも広がる、日本向けのバナナ輸出地帯です。」
 「ここで働くバナナ労働者は、巨大なプランテーションの敷地のなかに住んでいます。農薬を撒き散らす飛行機が頭上を飛び交い、農薬による被害はお年寄りや子どものみならず、強健な若者たちをも蝕んでいます。甲状腺ガンで死亡する老婆、睾丸が50cmにも肥大した若者……私たちは、長年農薬禍に悩まされるプランテーション労働者の健康管理のため活動してきた、マニラ在住のキハノ医師と現地を訪れました。バナナ栽培のための農薬散布やポストハーベスト処理のための農薬使用も、以前から比べると随分減ったといいます。しかし、このような事例はまれであり、大半の農業労働者は従来と同様の無権理状態におかれています。そんなプランテーションでは、農薬の使用もポストハーベスト処理も今までとなんら変ることなく続けられ、どんな農薬が使われているのか、どのくらい被害が出ているのかも会社は明らかにしていません。」
 「日本の消費社の声は現地に確かに届いており、ドールやデルモンテという巨大プランテーションが、ポストハーベスト農薬を気にしだしたのも、日本の消費者の声の高まりを意識したからだといえます。」


 さて、近年急激に増加している中国から輸入される生鮮野菜や冷凍野菜から、多くの残留農薬が検出されていることが大きな問題として報道されていますが、
 中国ばかりでなく、台湾や韓国をはじめ東南アジア、アメリカ、オーストラリア、世界の多くの国々から多種多様の食品が輸入され、無意識のうちに私たちの口を通して胃袋を満たしています。
 ところが、あなたがスーパーに行って買い物をするとき、世界の何カ国の食べものをその買い物カゴの中に投じていますか。何処でどのように作られたものか意識し確認してお買い求めでしょうか。ほとんど外国の物は買っていないつもりでおりなが、実はたくさんの輸入された食品を買い求めているのです。
 先日、有名な観光地へ行きました。紅葉を迎えた観光シーズンとあって、地域の人々が山頂付近にテントを張り巡らし、賑やかに臨時の物産販売をしていました。「○○名産」とその地名を冠した「筑前煮」があり、ラベルを見ると、なんと[原産国:中国]となっているではありませんか。お漬物その他の加工食品にも、その土地の名前を冠しながら原産国が輸入のものがあったことは言うまでもありません。
 ラベルで確かめられるものは意識すればわかります。しかし、大量の輸入食材に依存する多くの加工食品や外食、中食に使われる原材料については知る由もありません。
 行きつけのお店の揚げ立てお惣菜に使っている揚げ油は、何処の国のどのように栽培した原材料を使ったもので、何処でどんなメーカーがどのような方法でつくったどんな食用油を使っているのでしょう。そのやわらかいチキンはどこの国でどんなエサを食べ、どんな飼われ方をし、何処で何を使いどのように加工されたものですか。
 お子さんだ今美味しそうに食べているハンバーグ。先ほどあなたがレストランで頂いた日替わり定食。今晩のおかずの一品にと買ったチルドのグラタン。


 全国農村映画協会の森田久雄氏はまた、次ぎのように述べています。
 「アジアのいたる所に、用済みとなれば産地を見捨てて他の国へ去っていく、日本の開発輸入の遍歴が刻み付けられています。アジアの「安価」な労働力が日本人の飽食を支えているのです。そして今、日本向け野菜の栽培がブームとなっている中国で、農薬の被害が深刻になっています。」
 「日本向けの中国最大の野菜産地、山東省を取材で訪れました。中国政府の調査では、出荷される野菜の47.5%から基準を超える残留農役が検出されています。その多くは日本で使用が禁止されている、毒性の強い農薬です。農薬による被害は、年間10万人以上にも上ります。中国が輸出する農産物の40%は日本向け。山東省など中国沿岸部では、トウモロコシなどの穀物をアメリカから安く輸入して、少しでも高く売れる野菜を日本に輸出しようという動きが加速しています。」
 「見た目と厳しい規格が求められる日本向け開発輸入もあいまって、無理な連作と農薬や土壌消毒剤の大量使用が農家の健康を脅かし、深刻な土壌の汚染を引き起こしているのです。日本で中国からの輸入野菜にしばしば残留農役が検出されるのはこのためです。水不足であえぐ中国で、自分たちの食べる自給用の穀物栽培をやめ、輸出のための農薬だらけの野菜を作る農家の人たち……その姿に、アメリカや日本で農薬禍が引き起こした、過去の光景がよみがえってきます。」
 

 見栄えや多収穫のため、少しでも高く売って儲けようとする外国や日本の農家を非難する前に、私たち自身の食の求め方について大きな反省が必要なのです。私たちの歪になってしまった不自然な食べものへの欲求が、外国の土をも疲弊させ水を汚染し、動植物を痛めつけ、自然の摂理を壊して、人間自らの健康を脅かしているのです。
 アメリカの農園を視察に行ったことがあります。オレンジやグレープフルーツ、レモンなどの選別・箱詰めが行われていました。「日本国向け」は、外観の色や形状の美しさが優先されますから、別のラインで作業が行われます。もちろん腐らないように洗浄・防腐剤の使用が行われます。アメリカのお店で買い求めて食べる柑橘類はすこぶる美味しいのに、はっきり言って日本向けは中身より見栄え優先であり、早採りですから美味しくありません。
 カリフォルニアの高級住宅街に、高品質の食品を売る有名なスーパーがあります。美しく見事なカラーコントロールで芸術作品のように陳列された大量の農産物売場はつとに有名で、日本からもたくさんの見学者が訪れています。このスーパーの農産物チーフ・バイヤーは日系2世で、商品を見分ける目は高く、最良の品質の物を取り揃え、安全・安心・高品質を求めるお客様の高い支持・信頼と評価を得ているのです。
 この超一流といわれる店でのフルーツを見るとき、恐らく日本人だったら買わないであろう見栄えの悪いものも、混在して整然と並べられているのです。それでもお客は必ずと言っていいほど上から順番に欲しいだけを買い求めていかれます。お客様もよい食品とはどのようなものであるかをご存知のようです。


 森田久雄氏の話しを続けましょう。
 「かつてアメリカのレーチェル・カーソンが著した『沈黙の春』が、日本からアジアの国へ伝播しています。『安ければいい』と世界中から食料を買いあさっている日本の、『効率優先』『コスト優先』の食のあり方が、世界の産地を歪め、私たちの食卓の安全をも脅かしています。それを断ち切るには、世界最大の食料輸入大国日本が、循環型の農業と地産地消という食の原点に立ち帰ることです。『大切なのは、自分たちの食べる作物と、近くの町に売りにいって現金収入を得る作物、そして日本に向けたバナナの3つのバランスを崩さないことだ。バランスが何より大切だ』というフィリピンの農家の声が胸に響きます。
 輸出のためのモノカルチャー農業では、自分たちの食料も地域の環境も守ることができないからです。」


 日本に輸入される海外の産地も訪れ、「ビデオを『安全安心な食を考えるシリーズ』全3巻の制作してきた森田久雄氏は、最後に次ぎのように述べています。
 「安全で豊かな食の原点、それは私たちの身近な所にあります。コンビニもファミリーレストランもない町、宮城県宮崎町で毎年開催される、全町民参加の『食の文化祭』。町内1500世帯のほとんどの家が、普段の食卓から一品ずつ家庭料理を持ち寄り、体育館いっぱいに展示します。1万人もの人たちが会場を訪れ、『こんな食べ方もあったのか』と驚きの声を上げていきます。農家の庭先にある野菜や大豆、米、そして山菜などを使えば、こんなにも豊かな食卓ができるということを、改めて感じるのです。便利さ、手軽さだけを追い求めるファーストフードでは味わえない、食の豊かさ美味しさ。旬の味わい。地場の食材とそれを調理し味わう台所の知恵と技の大切さ。輸入農産物とインスタント食品で埋められた、いまの食卓に抜け落ちているものが見えてきます。」
 「安全で美味しい、豊かな食生活は地元にあるというのに、世界中から食料を輸入し続ける日本。まず『地産地消による地元の農産物』、次に『安全な国産の農産物』、そして『顔の見えるアジアや世界の農産物』という食の選択基準を明確にすることが必要です。私たちの健康と地域の環境を守るために、食と農の距離を縮める。それが、安全安心な食卓づくりの第一歩なのです。」







 

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生命の農と食を考える
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池田 優

 

 

 

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