山ちゃんの食べもの考

 

 

その69
 

 美食・飽食に溺れ、モノ豊かさが故の食文化の崩壊と食原病に病むという皮肉な状況下にある日本。ではありますが、その食の大半を海外の土地や生産労働者に依存し、世界の多くの人々の恩恵をこうむって、いや中には貧しい人々の犠牲の下に営まれていることを忘れがちです。そして、好き放題に食べ散らかして毎日膨大な食べものが廃棄されています。
 昔のように重労働をするでもないもかかわらず。日本人の摂取カロリーは減っていません。その中身も日本人の食体形にマッチした健康な伝統的食習慣は失われ、加工食品や調理済み食品・肉類・油脂類が増え、中食・外食が増えてきました。何代にも渡って伝承されてきた地域の食べものも料理方法も食べ方も衰退し、家庭での手づくり調理もお袋の味も影の薄いものになってきています。食の外部依存化が進み、食品企業による規格化・画一化された規制の加工食品や外食に置き換わり内容的には貧相なものが多くなってきました。そして多くの食べものとエネルギーをムダにしているのです。
 自分の甲斐性で、自分の金を出して買って食っているのだから、自分が何を食べ、どうしようと勝手なのでしょうか。豊かさに驕り、乱食に流れ、食べものをムダにすることは、贅に慣れて心を失い、健全な思想・哲学の崩壊にもつながるのではないかと思うのですが。


 スーパーやデパートの食品売り場、コンビニや急増しているファミリーレストランをはじめファーストフートや外食店の多くを見るにつけ、このようなものを多食しているようではとても日本人の健康は保証されないなあ――と思われるものがあまりにも多いのに驚きます。
 今、多方面で、戦後急激に変化した現代の食の在り方と健康について警告が発せられていますが、歪められた日本人の食の生産・流通・消費に対して、消費者が日々の食を購入する現場では、あまり進展が見られないようです。
 食品製造業も小売業も外食産業も生き残りをかけて猛烈な競い合いをしていますが、真に人々の健康を考え正しい食文化を促すものが少ないように思われます。それどころか、限りない消費者の欲望を煽り立て、次から次へと送り出されてくる数々の食品やメニューは、ますます日本人の食を地域や台所から遠ざけ、あるべき普段の健康な食を混乱に陥れているようです。しばらく前までの日本では、地域で採れるわずかの食材も大事にし、伝統の食文化を基本にして工夫し、調理し、保存し、決して無駄にすることなく、「一物全体」、すべてを生かして美味しくいただき健やかに生きてきました。それが今や、氾濫するフード・ビジネスの過当競争によって、食をムダにすることなどなんとも思わないように麻痺させているようにさえ思われてなりません。
 「食料は作るものから買うもの」へ、そして今、「料理は作るものから買うもの」に変わってしまったのでしょうか。肝腎の食に携わる専門の人たちからこそ、現状の日本の食状況を憂い、健全な日本の農業や食生産のあり方、日本人の健康な食のあり方について積極的な提言と働きかけが欲しいものです。


 戦後日本は、急に豊かになって自ら耕して食を得ることを疎かにし、金力にものを言わせて世界の美食を掻き集めて必要以上に食べ、間違った食べ方で健康を害し、膨大な医療費を無駄遣いし、多くの食べものにわざわざ余分な手をかけ金をかけてゴミにして、そのゴミ処理にまた多くの金をかけたり環境を汚染したりと、ムダにムダを重ねています。
 農林水産省の食糧需給表によると、1955年のおける国民独り1日当りの食糧栄養供給量は2217kcalでしたが1995年には2638kcalになっています。ところが、厚生省の国民栄養調査によると55年の栄養摂取量は2104kcalであったものが95年では2023kcalとほぼ横ばいからやや減少傾向の状況にあります。大量のエネルギーコストをかけて輸入したり加工したりして必要以上の食べものを買い集め、30%近くを廃棄していることになります。食べものをムダにすることは、それが手元の届くまでに携わってきた多くの人々の思い、願い、働きをムダにし、多くの動植物の生命をムダにすることであることは言うまでもありません。
 本来、食べる人の幸せを願って作り育て、愛情を込めて調理・料理した食べものが、金銭価値で量る物品となり、心も感動も通じないビジネス産業の生み出す換金商品と化しています。だから、食べものをムダにすることについては金銭的損得で考えることはあっても、生命を供してくれた食べものに対してやそれを生み出してくれた人々、自然の恵みに対して罪の意識を持つとか心の痛みを感ずるということは稀薄になってきています。
 食べものを単なる物質とか、栄養源とか、金銭的損得でした見ることができなくなっているところに、人の生命、物の生命、自然生命、そして食べものの生命に対して貧しい発想しかできなくなっているのではないかと思われます。


 東京都立新宿技術専門校非常勤講師の大日向光氏は「捨てられる食品の実態とその背景」と題し、食の無駄ついて次ぎのように述べている
 「私たちの食生活は、お金さえ出せばいつでもどこでも目的に応じて、好きなものが買える状況にあるが、その多くの部分が海外からの供給に依存し、消費を拡大してきた。しかし持続可能な地球環境の保全が深刻な問題となる中、厳しく見直さなければならない。農業経済専門家レスター・R・ブラウン氏は、“長い目で見れば世界の食糧経済は過剰と安値から不足と高騰が支配する時代の入り口に立たされていると認識すべきです”と述べている。」
 「米国では平成9年、小売業、外食産業及び消費者段階で食べずに捨てられる食料は全食料の4分の1にも達していると発表。食べずに捨てられた食品の内容は小売段階で247万トン、外食産業と消費者段階で4120万トンで、食事の作りすぎ、食べ残し、期限切れなどが主な理由である。」
 「経済の低迷が続く日本でも、平成9年実施の民間調査で、首都圏にすむ既婚女性の75%が“最近1ヵ月に食品を捨てたことがある”と答えている。
 「平成8年の農業白書では“食べ残しなどを減らすと自給率は最大で約3割程度上昇するとの試算もある”と記述し、食品廃棄を自給率の面から問題視している。
 「一方、日本中の一般廃棄物5000万トンのうち生ごみは約5分の1を占め、食品産業の動植物残渣などの産業廃棄物も焼却、埋め立て処理が多い。しかしダイオキシンや処分場の問題などから、資源循環型リサイクルとして堆肥化や飼料化などの動きもこのところ活発化してきた。現状では堆肥の質や自給、採算など問題も多いが、食品の廃棄は環境面からも社会的に問題化している。」


 続いて大日向光氏は、私たちの豊かで便利な食生活の陰には多くの食品がムダに廃棄去れていることを指摘し、次ぎのように述べている
 「“あなた作る人、私食べる人”のコマーシャルに象徴されるように、近年外部化が著しい。総務庁の家計調査によると、バブル崩壊後においても加工食品は微増を続け、食料費の半数をしめ、外食とあわせると7割弱を占める。同調査による平成8年における全国全世帯の品目別分類における食料支出の割合は、穀物5.2%、生鮮食品26.8%、加工食品50.5%、外食17.6%となっています。判調理・調理済み食品や複合調味料、飲料などの簡便化食品の利用は一般化してきている。」
 「中でも成長の著しい中食産業――市販の弁当や総菜――は、高年齢も含めた単独世帯の増加や若年層の調理離れ、女性の社会進出による調理時間の短縮および家族それぞれの生活時間を優先して食事が個食化し、“より手軽に調えられる食事”へのニーズが生まれ、それに対応した業者のマーケティング活動の結果発展してきたと考えられる。言い換えれば、このような食生活の変化は生産者から消費者までの食品の流通過程が遠く離れたことを意味し、国際化、巨大化し、誰がどのようにして作ったかわからないままに食べることが多くなった。また、そのために消費者は食品の安全性や鮮度、味など、質への不安を潜在的に持つようになった。」
 「一方、消費者に一番近い存在である大手スーパー、コンビニエンスストアは、食品流通の要を握っており、各店舗の在庫やロスを減らすために、POS(販売時点情報管理)システムを導入し、売場の売れ筋商品を把握し、発注するようになった。」
 「このような背景のもとで受注する納入業者は、多品種少量、多頻度配送を要求されることになる。特に「できたて」を望まれる中食産業は全て受注生産で、昼・夕食時、週末、年末年始といった需要に合わせた時間帯に食品を配送するため、深夜、早朝、休日などを問わぬ稼動体制になる。また、その日の天候や行事などによる需要量の変動も大きいことから、見込み生産や計画生産が難しくなりロスにつながる。関連業者関連の調査「中食時代」によると、デイリーで配送する弁当・総菜類の日配商品は、製造から24時間経過しても店頭に残っている場合には商品管理から廃棄し、その廃棄率は平均7%になる。中でもコンビニエンスストアは11%にもなる。」


 また、行き過ぎの鮮度思考や賞味期限に対する感覚だ、必要以上に多くの食品の無駄を生んでいることについても、大日向光氏は次ぎのように指摘する。
 「特に賞味期限、消費期限が廃棄につながる問題として根が深い。WTO協定を受けて平成9年4月より「製造月日」「賞味期間」表示から「期限表示」に変った。消費者の賞味期間についての理解は不足し、売場ではなるべく新しいものを買っていた。賞味期限を過ぎると約3割〜半数の人は捨てるという。」
 「製造業は賞味期間の日数を保存条件なども考え、表示通りの保存で約1.5倍と余裕を見ていたが、賞味期限切れのものは商品価値を認めてもらえず、商品の寿命と考えていた。小売業者の販売期限はこの余裕をみた賞味期間の約3分の2で、製造業は販売期限の関係で廃棄されるのは困るとし、返品はどんな流通過程に置かれたか不明なので廃棄するものである。」
 「農林水産省の調査によるとコスト負担の要因として期限経過による廃棄を卸売業、製造業、小売業の順に重くみていた。一般的には製造年月日表示がなくなり、製造業は深夜12時以降の作業から解放されたが、消費者ができるだけ新しいものを買う状況は変らない。」
 「次々と新製品が発売されて、加工や包装が多様化した食品に対する消費者の知識不足がある。また、調理経験の不足から鮮度を自分の目と鼻で判断できなくなってきている不安もある。いずれにしても捨てて困らない豊かな状況が鮮度志向に拍車をかけ、一方、それに対応した小売業者の売れない商品は棚に置かない方針だが、他店との競争激化の中で廃棄を促進している現実がある。」




 

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生命の農と食を考える
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池田 優

 

 

 

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