山ちゃんの食べもの考

 

 

その74


 若者の食が乱れているとか、日本の伝統食崩壊とか言われて久しくなりますが、日本農業新聞に6回に渡って掲載された、セゾン総合研究所主任研究員・斎藤薫氏による「団塊ジュニアによる食スタイル」についてご紹介したいと思います。
 終戦後のベビーブームに生まれた団塊世代の子どもたち(団塊ジュニア)も30歳前後となり、子育てが始まっている。少子化の中でこの世代の食スタイルは、時代への食の価値観の継承も含めて、団塊ジュニアの食行動を分析です。

★対象は765万人に

 マーケットに対する影響力の大きさから、団塊世代とともに団塊ジュニア世代の動向が今注目されている。団塊ジュニア世代とは、主に1971〜1974年の第二次ベビーブームのころに生まれた28〜31歳の世代を指します。
 2000年度の国勢調査によるとこの団塊世代は約765万人のボリュウム層となっている。現在、彼らの半数程度は30代にさしかかり、結婚、出産など、人生の節目の時期を迎えて、家族を持ち、自分の家庭をつくる人も増えてきている。
 セゾン総合研究所は、2000年9月から2001年8月までの1年間、首都圏で暮らす団塊ジュニア世代と60代を中心としたシニア世代の2週間の食事を、文章と写真を使って詳細に記録する「食卓調査」をした。
 それに先行して1999年に調査した団塊ジュニア女性の食意識結果も加味しながら、次の時代の消費の主役となる彼らの食生活について紹介する。
 まずは彼らが育ってきた30年余りのわが国の食の変化を振り返ってみたい。


 団塊ジュニアが誕生し始めた1970年は、後に「外食元年」と言われるように、大阪万博に外食企業が多数出店し、7月にスカイラーク(現すかいらーく)、11月にはケンタッキーフライドチキン(KFC)が1号店を開店した。
 セブンーイレブン1号店が74年に上陸し、ファストフード(FF)、ファミリーレストラン(FR)、コンビニエンスストア(CVS)、そして「カップラーメン」と、現代の若者に深く浸透しているこれらのサービスや商品のほとんどが、70年代前半にすべて登場している。
 つまり、ジュニア世代以降の人々は物心が付いた時から、便利な食生活を享受できる環境に育ったのである。
 その後も、食品の製造・加工・保存、流通、情報など進化する技術や食品関連産業の発達とともに、マーケットには便利で手頃な価格の商品やサービスが豊富に提供されるようになった。
 商品調達も国際的になり、私たちの食生活は、食材やメニューの多様さや選択肢の多さの上で豊かになった。と同時に、わが国は世界でも例を見ないほど急速に食生活が変貌したといわれる。団塊ジュニア世代は、70年代以降におけるわが国の食の変化を幼児期から体験した最初の世代といえる。

★団塊ジュニア世代が経験した食関連の主なできごと
1955年 1956 インスタントコーヒーの自由化
  1957 主婦の店ダイエー(スーパー)設立
  1958 日清食品がインスタントラーメンを開発
  1959 電器釜
1960年 1961 サランラップ
    インスタント食品続々発売  
    電気冷蔵庫普及
1965年 1968 レトルト食品(ボンカレー)発売
    コールドチェーンの発達
1970年   大阪万博  KFCなど出店
    すかいらーく1号店開店
(71年生
0歳
1971 マクドナルドハンバーガー1号店開店
    日清食品、カップヌードルを発売
  1972 小僧寿司設立
  1973 デニーズ日本上陸
  1974 セブン―イレブン1号店開店
1775年 1976 ほっかほっか亭1号店開店
(1〜4歳)   文部省 学校給食に米飯を導入
1980年 1980 日本型食生活の提言
(6〜9) 1983  朝食抜き子どもが5人に1人に
1985年 1988 無菌包装米飯
(11〜14)   宅配ピザ「ピザステーション」
1990年 1992 低価格FR「ガスト」実験店オープン
(16〜19)  
1995年 1996 「発掘!あるある大辞典」放送開始
(21〜24)  
2000年 2001 国内でBSE牛を発見
  (26〜29)

  


    


 セゾン総合研究所主任研究員・斎藤薫氏は、団塊ジュニアの食糧消費について、まずは総務省の家計調査データから次のような特徴を指摘しています。

 ★団塊ジュニア世代は素材系食材への支出が低い

 家族が2人以上の勤労世帯で、1ヶ月1人当りの食糧支出に占める個々の割合を所帯主の年齢別に見ると。「素材系(穀類、野菜・海藻、果物、魚介類、肉類、乳卵類、油脂・調味料など主に料理の素材に利用する)」の費目に消費する割合は、年代が高くなるほど増える。60代が約6割に対して、20代は46%、30代は47%と若い世代では半数以下だった。
 つまり、世帯主が若い世代では、食費の半分以上が「外食」「調理食品」「酒類」「飲料」「菓子類」など、料理する必要がない簡便な商品や、サービスに費やされている。
 自分で食事をつくる場合でも、セゾン総合研究所の「食卓調査」を見ると、平日の夕食が「焼きソバだけ」「チャーハンだけ」といった“一品完結型の食卓”は珍しくない。また、何品かの料理が食卓に並ぶ家庭もあるが、「クリームシチュー、納豆」「冷ややっこ、ウインナソーセージ、チキンナゲット、サーモンマリネ、たらのバター焼き」のように、居酒屋などで好きなメニューを注文したような食卓が目立つ。
 そこには献立としての相性や栄養バランス、彩りの美しさなど、60代のシニア世代では普通に存在していたルールや配慮はみられない。「その時にあるモノ」や「食べたいモノ」「すぐできる料理を食卓に並べるだけ」といった様子の家庭が多かった。


 団塊ジュニア世代の食卓に多く登場するのは、冷凍食品や複合調味量など、市販の加工品を利用することで簡単にできる、カレー、ドリア、フライ、スパゲティなどの洋風料理や、麻婆(マーボ)豆腐、ギョーザなどの中華料理が主流だ。
 調理法も「焼くだけ」「炒めるだけ」と“手間のかからないもの”が目立つ中で、特にサラダの登場回数は多い。生野菜に市販のドレッシングを添えるだけで、一品のおかずになるサラダは、野菜料理の定番としてジュニアの食卓でも健在である。
 一方、シニアとは対照的に和風料理は少なく、簡便な冷ややっこ、納豆、焼き魚などが多少目立つ程度で、「あえ物」「酢の物」「さしみ」は食卓にほとんど現れなかった。
 料理の機会や経験も少なく、手づくりのための技術を必要としないまま成長した彼らにとって、便利な商品やサービスはなくてはならない存在だ。
 結婚して主婦となった女性でも、上の世代のように“食事の手を抜く”ことや、そのことを“後ろめたい”とする意識は希薄である。生まれた時から身近にあった簡単で便利な食生活を、ジュニア世代は当たり前の事として受け止めている。


 セゾン総合研究所による夏の「食卓調査」期間中の1週間、食品の買い物状況を記録してもらったところ、団塊ジュニアの低価格志向が日常的に表われた。

 ★団塊ジュニアの6割が低価格志向

 例えば、幼児をもつ20代専業主婦は、特売セールに合わせてスーパーを使い分けていた。火曜日の88円セールで、カレイの切り身(2切れ)、レタス、アスパラガス、ジュース(1g)を買い、別の店では日曜日の朝市でタマネギ、ジャガイモなどの野菜を100円で、卵98円、発泡酒(350ml缶1ケース)2398円で購入している。
 また、特売品を中心に買いまわりを楽しむ30代の主婦(週2回アルバイト)は、牛乳やミートソース缶などの加工品とともに、100g78円の豚肩肉、同48円の鶏ひき肉などをスーパーでまとめ買いし、冷凍庫にストックしている。
 他のジュニアも、冷凍食品はスーパーの4割引の時期に、スパゲティはディスカウントストアで2〜3kgまとめ買いするなど、基本的な食材については合理的な消費行動が身についている。
 「低価格志向」は、家計調査からも裏づけられる。食費にかける金額が若い人ほど少なくなっていた。
 家族が2人以上の勤労者世帯で、1ヶ月1人当たりの食料支出を世帯主年齢別にみると、20代は15,991円と低く、もっとも食料費が多い60代における26,044円の6割ほどの金額だ。同様に「野菜・海藻」は、60代3,615円に対して、20代はわずか1,495円と、シニア世代の4割程度しか消費していない。
 若い世代は、家庭内消費量の少なさとともに、個々の食品購入単価が低いことも一因になっている。


 基本的な食材は徹底的に価格の安さを求めて買い物したり、「買い置きの缶ビールは飲み過ぎないように1本しか冷やさない」「果物は高いから買わない」などのコメントが示すように、経済的な余裕のなさを反映してか彼らの節約意識は高い。
 その一方で、飲料や菓子などの新製品チェックのために、毎日コンビニエンスストアに出かける人もおり、日常の簡素な食卓とは相反するような買い物行動がみられる。
 セゾン総合研究所が2000年に行った意識調査でも、「家計が厳しくなるとまず食費を切り詰めるほうだ」は、若い人ほど多かった(20代41.1%、60代11.4%)。趣味やファッション、携帯電話の利用など、消費したい分野が広がる中で、相対的に食の位置づけは低くなっている。特にその影響は、生鮮食品など基本的な食材の消費に影響されると考えられる。


 団塊ジュニア世代に限ったことではないが、彼らの多くは仕事や子育て、そして趣味や遊びに忙しい毎日を送る中で、食事はその合間を縫って済ませる日も少なくはない。外食や中食、そして欠食も日常化し、食事づくりは必ずしも毎日行うべき行為ではなくなっている。
 メニューは、手軽に食べ切れる量だけ作る。料理の「作り置き」や「残りものの活用」、同じ食材を「繰りかえす」ことで食卓を変化させるようなことはほとんどみられない。

 ★食事づくりはイベント化

 このような行動が日常的で、食事に連続性のある60代のシニアの食卓に比べると、ジュニア世代は1回の食事がそれぞれ独立している。食生活が連続しない“デジタル化”したとでも言うべき家庭が多く見られる。
 簡便で単調な日常の食生活の一方で、「食事づくり」はイベント化しつつある。特にふだんの食事づくりの回数が少ない家庭では、男女ともに「作る」こと自体がイベント化している。
 その際、参考にするのは昔ながらの料理番組ではなく、有名なシェフや料理研究家のレシピであり、調理を文字どおりイベントとして楽しむテレビ番組である。珍しい野菜やハーブなど本格的な食材を購入し、調味料にも凝るなど、一層趣味化の様相が強くなる。
 ただし、彼らにとっては「手間をかけること」はもちろん、「時間をかける(時間に余裕がある)こと」が特別な出来事であるからこそ、「炊きたてご飯」という一見普通のメニューが“ごちそう”として喜ばれる場面もある。


 ジュニア世代の忙しい生活スタイルは、野菜の消費にも大きな影響を与えている。
 この年代の女性に食生活上の悩みをたずねると、野菜の話題が多い。「洗う手間」や皮むきなど、「下ごしらえの手間」といった簡便性の問題だけでなく、「日持ちしない」「食べきれない」などの保存性に関する悩みが目立つ。
 次に、家で調理する時期の予測がむずかしい“デジタル化”したジュニア世代の食生活は、日持ちしない野菜がもっとも手に余る食材になっている。
 全般に若い世代は野菜の消費量が少ない。その中で保存性の高いタマネギや簡単に使えるモヤシなどは、家計調査データでも世代による消費量の差は少ない。
 一方、日持ちしにくいホウレンソウなどの葉物や、使い切るのが難しい大根、ハクサイなどの野菜は、若い世代ほど消費量が少なく、敬遠されていることがわかる。
 だが、情報化社会の現在、健康志向は若い世代にも確実に浸透している。
 「野菜が足りない」「野菜を食べなければ」と意識されているのも事実だ。野菜不足への不安感は彼らも潜在的に持っている。団塊ジュニア世代の野菜消費へのニーズは高いのである。


 休日のランチタイム。東京・渋谷のスペイン坂にある定食屋「おはち」に若者の行列ができる。特に、煮物メニューを充実させているこの店は、ファストフードの「フレッシュネスバーガー」(東京都渋谷区)が2001年2月から運営を始め。女性を中心に幅広い年代層を集めている。
 最近、こうした若者にも支持されるこぎれいな定食屋が、大都市を中心に急増している。そのはしりは“家庭食の代行業”をコンセプトにする「大戸屋」(東京都豊島区)だ。同店の定食類は「焼き魚」「豚カツ」「生姜焼き」などの主菜に、野菜などを使った小鉢、ごはん、味噌汁、漬物のセットが570〜700円で提供している。
 少し前までは、外でわざわざ食べないような普通の家庭料理が中心だが、いまや団塊ジュニア世代の家庭では珍しいメニューばかりである。居心地の良い空間で、ヘルシーな和食を手頃な価格で食べられる点が、人気の秘訣だ。
 ペットボトルなどの野菜ジュースの消費量が伸びているのも、「手軽に野菜を食べた気分になれる」と、若い年代層の支持を得ているためだ。同様に、野菜を手軽に楽しめる店も順調に業績を伸ばしている。
 デパートの地下で人気の惣菜点「RFI」を運営するロックフィールド(神戸市)は、野菜を使った総菜やジュース、スープなどを提供する「サラダパック」を1999年に開業した。さらに東京・丸の内の丸ビル内に新業態「ベジテリア」を出店し、素材の品質や鮮度、産地、生産者に一層こだわった形で、“出来たて・手づくり”のフレッシュジュースなどの販売も始めている。


 いまや、ファミリーレストラン、ファストフード、居酒屋、総菜専門店から、コンビニ弁当、インスタント食品まで、「野菜たっぷり」「野菜が簡単にとれる」は、消費者に支持される訴求ポイントとして、企業の間では広く認識されている。
 団塊ジュニアだけではなく、健康思考を背景に忙しい現代人に共通するニーズとして、野菜不足を解消してくれる商品やサービスを求める人は増えている。野菜や米の消費が外食やテークアウト(持ち帰り)の“中食”にシフトしつつある。
 食関連企業は、品質を維持しながら収益性を高めるため、国内農産物なども含めた食材調達への関心は高まっている。新しい食スタイルが生まれる中で、生産農家やJAは農産物へのニーズや取引形態、出荷方法など、従来とは異なるノウハウが求められる企業との取引も意識せざるを得ない時代になってきた。


 団塊ジュニア世代よりもさらに若い世代では、「美味しさの基準」さえも、変わる兆しがある。
 東京ガス都市生活研究所の小西雅子氏は、1999年に女子大生15人を対象に冷凍食品の美味しさ評価を行った。その結果、ガスオーブンを使ったコンビ加熱の春巻きは皮がパリパリとなるが、レンジ加熱のほうは皮がグンニャリとして噛み切れないという違いを全員が識別できた。
 だが、「コンビ加熱は中華街の春巻きのように見える。レンジ加熱はコンビニの春巻きだ。でも、私が好きなのはレンジの春巻き」という学生が現れてきたという。また、別の実験では、「過剰に茹でた」クタクタのニンジンと、一般的な調理時間で「普通にゆでた」場合では、「過剰に茹でた」クタクタのニンジンを好む学生が約半数という結果も出ている。
 このように、これまでの「おいしさ」が、“おいしい”と評価されなくなった世代の変化に危機感を抱く関係者は少なくない。日本味覚教育協会は、先進地のフランスに学び、日本各地の小学校に出向いて一流シェフとともに味覚の授業を実践している。
 フランス料理のシェフ・三国清三氏も「生産農家を主役に据え、子どもへの味覚教育に力を入れるスローフード協会の活動に共感する」と、味覚教育への取り組みを積極的に進めている。


 便利な食品やサービスに囲まれて育ち、忙しい毎日を送る若い世代が、手っ取り早く“いま”必要としているのは、農産物を手軽に提供してくれるフードサービスだ。
 だが今後を見据え、次の世代に向けて国内産農産物の消費拡大を図るには、彼らジュニア以降の若い世代の現実的ニーズに応えるためのスピーディな取り組みが必要だ。と同時に、長期的視野からの教育・啓発的なアプローチも求められる。
 生鮮野菜の利用も多く、鮮度を見る目に自信のあるシニア世代は「生鮮品などの食品は自分の目で見て選びたい」と考える。一方ジュニア世代は鮮度よりも価格重視で野菜を選びがちだ。経済的なゆとりがないだけでなく、彼らには素材を見る目がないことも一因である。
 鮮度の良しあしや、手間をかけて作った農産物の“おいしさ”を正しく評価する能力や感覚を持った消費者が育たなければ、生産者の努力は報われない。
 現在の食に関する問題は、生産農家と消費者の距離が遠くなったことも一因だ。最近は「食育」への認識や理解も広がり、各方面での取り組みが始まっている。



 

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生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

 

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