山ちゃんの食べもの考

 

 

その76
 
 
 いまやどこのスーパーでも冷凍食品やアイスクリームの4割引は定期的なセールになっていて、まともな価格で買う人はまずあるまい。4割引セールの日には納入業者が店舗の後方に冷凍車を横付けにして次から次へと補給する。それほどに売れる。冷凍食品も随分商品開発が進んで料理素材をはじめ完成されたご飯ものからおやつ類、和・洋・中の調理済み食品まできわめて豊富である。
 保存性が高くて簡便性があり低価格で一定の味が保証される冷凍食品は、忙しくても忙しくなくても、主婦にはまことに便利な食品といえる。
 一般の消費者が目に触れることのできる冷凍食品はスーパーなどで目にする消費者向けのものに限られるが、冷凍食品にはもっと大きなマーケットがある。
 外食産業や総菜・給食業界がそれである。町外れの喫茶店などでホットケーキやたこ焼き、餃子、コロッケ、チャーハン、カレー、シチュー、牛丼、ケーキなどが冷凍食品を利用したものであることは少なくないし、また利用者はそれと気付かない。ファミリーレストランなどで多彩なメニューが用意されているが、冷凍食品である比率は高い。
 外食産業向けの食材展示会に何回か顔を出したことがあるが、ここまでやるか――と驚きである。街にある専門店のパン屋さんの焼き立てパンやショーケースに美しく並んでいるケーキ屋さんのケーキ、和菓子屋さんの大福が、実は冷凍食品を使っているものが多いことを知る人は少ない。
 私は冷凍食品が悪いと言っているわけではないし、冷凍技術のお陰で品質管理された美味しいものがいただけるわけであるから大変にありがたいことだとは思っている。ただ多くの人は、新鮮な生鮮素材がその場で調理されて出されたものを食べているのだと勘違いしており、その実体が余りよく知らされていないことを危惧するのである。だから私は外食する時は冷凍食品を食べているのだと意識している。そしてそうではないものもあると。


 冷凍技術の高度な発展は遠洋漁業などでその力量を発揮し、獲れたてのマグロやイカ、エビ、カニを始め、世界の海から多種多様な魚介類を搬送し保存し、私たちの口を満足させ腹を充たすために欠かせないものになっている。この冷凍技術は先も述べたようにあらゆる食品業界で活用されている。
 昨年、残留農薬問題で騒がれた冷凍野菜もその一つで、原産地で処理され冷凍された冷凍野菜の輸入が急増している。健康志向の高まりから、もっと野菜を食べなければという意識から、外食においても野菜のメニューを選ぶことも多くなっているという。外食をはじめ私たちは冷凍野菜として意識しないまま、またその原産国や栽培方法も知らないまま、案外多くの冷凍野菜を口にしているといえます。
 そこで、少し前になりますが、日本農業新聞で2000年の9月に連載された「広がる冷凍野菜」の中から、要点を拾い出しながら冷凍野菜の実態について見ていきたいと思います。
 冷凍野菜が日本に上陸したのは40年前で、1962年当時は年間3トンほどの輸入量でしたが、20年前の1980年には14トンでした。ところが1999年には74万トンと急激に伸びています。そしていま、日本企業によって、賃金の低い中国をはじめアジア各国での開発輸入が積極的に推し進められています。それら輸入冷凍野菜の安全・安心はもとより、「身土不二」「地産地消」を原則とするこれからの野菜消費のあり方から言っても、また「食糧自給率向上」という観点からも急増する輸入冷凍野菜には無関心ではいられません。
 この輸入冷凍野菜は簡便であることと保存性、特に低価格をばねに急速に市場を拡大しています。そしてこの事が日本の国内産野菜の低価格を招く一因ともなり、野菜生産者を脅かす要因となっています。


 輸入冷凍野菜の主な輸出国はアメリカと中国で、根菜類や葉菜類、果菜類、香味野菜など多くの野菜が冷凍野菜として市場に出回っています。
 輸入量の多いものは、スイートコーン、サトイモ、ホウレンソウ、混合野菜などですが、もっとも輸入量の多いものはポテトです。この輸入冷凍ポテトの多くはハンバーガー店に流れ、フライドポテトになると言います。また冷凍エダマメなどの豆類の輸入も増加しています。
 冷凍野菜急増の背景にあるのは、なんといっても調理の簡便化志向と低価格志向です。冷凍野菜は、カットされた状態なので調理の手間が省ける上に、ゴミがでない。そして保存が効き、低価格であることです。
 輸入冷凍野菜の最大顧客は外食産業で、推定全輸入量の47%を使用、一般家庭には12%、学校給食や産業給食も16%を占めるといいます。

<1999年における冷凍野菜の輸入量> (単位=トン)
ポテト 281,190
エダマメ 73,075
サトイモ 52,393
スイートコーン 52,342
ホウレンソウ 44,426
混合野菜 37,494
インゲン 34,811
エンドウ 20,487
エンドウ 14,554
ブロッコリー 6,160
その他の豆 125,766
合計 742,697



 日本農業新聞の「広がる冷凍野菜」によると、「農家が高齢化する日本は有望市場だ。地理的にも近く経費がかからない」と、冷凍野菜生産を主力とする中国の関係者は対日輸出に意欲を示しているという。
 冷凍野菜の輸出国の勢力図は変わりつつあり、中国をはじめとするアジア勢力の台頭がめざましい。1960年代はオーストラリアが過半を占めていた。当所、日本の冷凍野菜輸入の始まりは学校給食向けのオーストラリア産グリーンピースだといいます。その後、ポテトが主力のアメリカやエダマメに強い台湾が頭角を現わし、1979年時の輸出上位5カ国はアメリカ、台湾、ニュージランド、中国、カナダに変わった。
 74万トンが輸入された1999年は、1位のアメリカと2位の中国で全体の8割を占め、3位以降にカナダ、タイ、台湾が続いた。アメリカは1991年の1.7倍に増やしたが、中国の輸出量は4倍の28万トンとアメリカに迫っている。タイも4倍の2万6千トンと4倍になっている。


 アジアの冷凍野菜の魅力の第一は低賃金にあるという。安価な労働力を求め、日本の冷凍食品企業や商社がアジアに向かっているのです。原料野菜も安く、低い生産費で冷凍野菜ができる。人件費が上がっている台湾の企業も80年代末から中国に進出して行っている。
 年間3万トンの冷凍野菜を伊藤忠商事は、中国とタイに出資工場を持ち、「人件費が安い」と言っている。年間3万5千トンを扱う冷凍野菜専門業者のライフフーズは、中国産エダマメやサトイモを主力とし、冷凍インゲンを中国やタイで増やす意向で、ブロッコリーも中国に力を入れるという。
   
<冷凍野菜の品目別対日主要輸出国>(1999)
品   目 輸入量 輸出国名
ポテト 28万トン 米国、カナダ
豆類 13万トン 中国、台湾、タイ
コーン 5.2万トン 中国、ニュージーランド
ホウレンソウ 4.4万トン 中国
サトイモ 5.2万トン 中国
ブロッコリー 1.4万トン メキシコ、中国、エクアドル
混合野菜 3.2万トン 中国、米国、ニュージーランド
その他 12万トン 中国、米国、タイ
合計 74万トン 米国、中国、カナダ、タイ



 「総菜や弁当、外食を利用する、今の食生活が変わらない限り、冷凍野菜は間違いなく伸びる分野」と、ある商社幹部は言いきっているという。販売が好調なコンビニエンスストアなどの弁当・総菜業者に冷凍野菜需要が強いと見るからである。しかし、一般の人にとってはこれらの弁当や総菜に使われているの多くの野菜は開発輸入された外国産の冷凍野菜であろうとは予想したとしても、いざ利用する際にはすっかり忘れてしまって、輸入冷凍野菜を食べているなどということは全く意識されることはまずあるまい。 
 こういう業者は、短時間に大量の弁当を作る必要があり、洗浄・カット・加熱しなければならない生の野菜は能率面からも使ってはいられないのです。また低く抑えられた弁当の価格も決まっていますから。価格が倍になったりする不安定な生鮮野菜は使いづらいのです。
 1989年の農水省食糧需給表によると、国内野菜の生産量が1800万トン程度に対し、塩蔵や缶詰など加工野菜、生鮮野菜を含めた野菜輸入量は約350万程度に達する。輸入野菜の内、冷凍野菜は2割を占めるまでになった。しかし、冷凍野菜関連企業は、国内市場がまだ飽和状態にはなく成長途上にあり、冷凍野菜販売の手を緩める気配はない。


 東京都生活文化局が実施した消費者調査では、消費者への冷凍野菜の浸透ぶりをうかがわせる。冷凍食品の中では野菜の購入件数が最も多かったという。冷凍野菜を含む素材系の冷凍食品を利用すると答えた世代は7割強であった。その支持理由は「保存できる」(82%)、「便利」(77%)、「調理時間の節約」(53%)、「安い」(21%)、「品質が良い」(15%)となっている。
 国産の生鮮野菜が不足しているわけではない。冷凍品でないと手に入らないわけでもないし、高価過ぎて買えないわけでもない。冷凍品が他の食材と違い調理したり茹でたりする時間が省ける簡便性と安さが受けているのである。
 日本冷凍食品業界では「冷凍野菜が生鮮食品より栄養価が高いと、マスコミが取り上げて以来、消費者に認知されたと語っている。ニチレイの玉井リーダーは「10年以内に冷凍野菜輸入量100万トン時代が来る」と語っている。いろいろ発表されている、安心できる国内産の季節野菜を食べたいという消費者の声とは裏腹な状況にあるのです。


 「冷凍野菜の中で、エダマメほど改良されたものはない」と業界関係者は口をそろえていう。エダマメの輸入量は中国産と台湾産を中心に約7万トンであり、冷凍野菜輸入量の1割を占める代表品目になっている。
 エダマメは、以前は家庭で塩茹でが必要であった。現在では製造段階で塩味がつけられ、自然解凍または流水解凍で簡単に食べられるようになった。これにより、例えば大量のエダマメを使う居酒屋の調理時間を減らしガス代を不用にした。一方で、色つやの良い品種の導入が進み、最近では食味が良い茶豆や黒豆の冷凍ものも出回るようになったそうである。
 この10年、輸入量を倍増させた冷凍野菜だが、変わったのは数量だけではなく、商品も様変わりした。顧客のニーズに合わせて使いやすさや食味の良さを追求した各種新商品が日夜生み出されているという。
 大手ニチレイが発売した五目キンピラ、ポテトサラダ、ホウレンソウのバターいためなどの調理野菜が好調である。主婦の仕事を代行する商品で、味付けした野菜料理を凍結したものである。食べる時は電子レンジなどで温めるだけでOKとなる。「一般家庭は調理嫌いのようだ。今後、調理野菜はブームになる」と言っている、というのだからまだまだ調理済み冷凍食品は開発されそうだ。
 果たして日本人にとっていいことなのかどうか。

 輸入冷凍野菜の「安かろう、悪かろう」というイメージを拭い去るべく、付加価値をつけた冷凍野菜の開発に業界企業は力を入れている。安全性を重視した冷凍野菜などはその一例で、各社の販売競争が激化している中、個性化商品の開発の活路を見出しているという。しかし、栽培方法や残留問題など多くの課題があることも事実である。
 有機野菜を原料にしたニチレイの有機冷凍野菜は好調で、6年で16倍だという。価格は通常品に比べて2割高だが、発売時における1994年の販売量の300トンが、1999年にはポテトやかぼちゃなど9品目で5000トンに達している。各社が競って有機商品の開発に乗り出しており、この有機商品も数年内には拠点は中国になると見ている。
 しかし、昨年の輸入冷凍野菜における残留農薬問題で、有機栽培と称されるものからも農薬が検出されたという経緯がある。安いからという理由だけで開発輸入が競って推し進められていいものかどうか。日本農業の活性化のためにも慎重を期して欲しいという思いがする。


 また「食べ頃に凍結し、好きな時に食べられる」という触れ込みで、輸入冷凍果実も増加している。パイナップル、マンゴー、ブルーベリー、イチゴ、メロンなどである。その他にもたくさんある。
 日本人の一人当り年間果実消費量は1989年が37.8kgで、1998年は37.6kgと大きな変動はない。健康志向が声高に叫ばれながらも果実の消費量は伸びていないのである。一方、輸入品の増加で果実の国内自給率は1989年の67%が、1998年には49%に落ち込んでいる。私たちが食している果物が、すでに半分以上が外国産であることを実感している人は少ない。ミカンをはじめ各種の柑橘類、りんご、柿など、国産の果実は打ち続く消費の低迷と低価格で、生産者は悲鳴をあげているのが現状である。いつでも簡単便利に食べられる安い冷凍果実の認知度が高まってきた時、国産果実がますます苦境に立たされることになる。




 

ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。


  

生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
L ife A griculture F oods

FAX :076-223-2005
mail :m.ikeda@ninus.ocn.ne.jp

池田 優

 

 

 

◎ ご意見、ご教示はこちらまで    掲示板も御座います。是非ご利用下さい。→ 掲示板

最新号へ戻る