山ちゃんの食べもの考

 

 

その89
 

 終戦後、急激に欧米化した日本人の食生活。動物性食品の摂取過剰が、私たちの健康を脅かし生活習慣病の頑強であるといわれるまでになってきました。牛肉や豚肉、鶏肉、牛乳、及びそれらの加工品が、毎日の食卓に登場しない日がないくらいになってきました。
 わかっているようでわかっていないのが、現代人の大好きなそれらの食用肉やその加工品を提供してくれている家畜の飼われ方です。
 一昨年、昨年には脳がスポンジ化し、痴呆となり、痙攣を起こし、やがて死に至るBSE(牛海綿状脳症)、つまり狂牛病問題で大騒ぎしたが、ノドもと過ぎれば熱さ忘れるで、いつの間にか鎮静化したようですが、現代のお肉にはもう何の心配も無くなったのでしょうか。
 BSEの原因は、プリオンという通常の細胞タンパクが異常化したもので、加熱処理をしても死滅しません。細菌やウイルス感染に対して使われる薬剤を使用しても全く効果のない、厄介なものだといいます。
 家畜の飼育効率を高めるために、家畜を食肉に加工処理する段階で出て来る屑肉や皮、骨などの残磋を肉骨粉にして動物の餌として食べさてきました。病気に汚染された肉骨粉が含まれた飼料が、世界の畜産現場に流通されました。そのため恐ろしい狂牛病が20数カ国で発生したのです。
 その汚染原因はスクレイピーに感染した羊や牛のいずれかであるといわれてています。そもそも草食の動物である牛に、肉食、つまり共食いさせていたことに不自然さを感じざるを得ません。
 国をあげての対策が講じられ、安全宣言が下され、終息した感が有るのに、いまさら脅威を煽るものではありませんが、私達が普段食べている動物性食品がどのように作られているかをある程度は知る必要もあろうかと思うのです。


 私たちが食べている食肉が何を使いどのように生産されたものであるか、果してもう心配はないのか。
 牛や豚、鳥などを飼育するのに、日本ではその飼料の70%強を海外からの輸入に依存しています。そして生産効率を高めるために飼料添加物を加えた配合飼料で肥育されています。
 食生活研究会編著の『安全な食べもの選び方Q&A』によると、現在130種類の飼育添加物が農林大臣より指定されており、

@ 飼料の品質低下防止剤として、抗菌剤が3品目、防かび剤が3品目、粘結剤が5品目、乳化剤が5品目、発酵調整剤が1品目。

A 飼料の栄養成分の補給として、アミノ酸が9品目、ビタミンが31品目、ミネラルが33品目、色素が1品目。

B 栄養成分の有効な利用の促進剤として、合成抗菌剤が7品目、抗生物質が21品目、着香料1品目、呈味量1品目、酵素剤9品目、が指定されています。

 発育促進や飼料効率を上げる目的で添加する合成抗菌剤や抗生物質は、もし、使用を誤ると畜産物に残留する危険性があり、それを食べた人間がアレルギーになったり、薬剤耐性菌が繁殖して薬が効かなくなる恐れがあるといいます。それで、食品衛生法では「食品には抗生物質のほか、化学合成品である抗菌性物質を含有してはならない」と規定しされている、と述べています。


 家畜の病気の予防や治療には動物用の医薬品が使われるわけですが、前出の『安全な食べもの選び方Q&A』によると、人間の場合と同様に「薬事法」によって管理されています。動物用医薬品にはその製造段階から、使用方法についても規制があって、それらは獣医師の指示に従って25成分の抗生物質や合成抗菌剤が指定されています。家畜(牛、馬、豚、鶏、鶉、ミツバチ)と11種の養殖魚が対象動物となっており、また休薬期間も決められています。
 雄牛は食肉専用の牛として飼育されるため生まれて間もなく去勢されます。そして柔らかい肉に仕上げるためにホルモン剤が使われたりします。日本の場合は動物から抽出した天然のホルモンが使われるということですが、その使用実態は明確ではなく確実なデータ―はないということです。
 ホルモン剤が食肉に残留していた場合の弊害として、女性が発ガンしやすい、女児の早熟現象、男性の女性化現象などが心配されています。それで厚生省ではホルモン剤投与後60日間は、屠畜解体をしてはならないと定めています。つまり食肉用として出荷する前の2ヶ月間はホルモン剤は使用禁止ということです。
 飼料添加物や動物用医薬品、ホルモン剤などには、使用規制や基準が法律で定められいるわけですから安全性は確保されていると思います。しかし何よりも重視すべきは、畜産農家にとって大切なことは「健康な命を育むための食べ物づくり」の自覚と姿勢であり、そのためには、家畜にとっての健康な飼育環境と安全・健康な飼料によって、可能な限り化学物質等を使用しない健全・健康な動物を育てることにあると思います。


 瑞穂の国日本は、平地が3割にも満たない小さな島国ではありますが。山間地に至るまで、猫の額ほどの土地を耕し、水田稲作進めてきました。米を中心として穀類、野菜、海藻、わずかな魚介類を食べる食生活が長い間伝統的に継承されてきたように思います。
 では、日本の肉食はいつごろから始まったのでしょうか。伊藤宏著『食べものとしての動物達』――牛、豚、鶏たちがおいしい食材になるまで――(講談社)には、概略次のように述べられています。
 日本には古くからさまざまな家畜が飼われ、食べられていた確かな事実がある。『古語拾遺』(807年)という昔の書物に、神代の記述があり、すべての家畜が飼われていたことが明記されており、大化の改新(645年)のころには、猪を飼っており、牛や馬を食べていたことが証明されている。
 大和朝の末期、天武天皇の代(675年)に出された「殺生禁断令」という仏教精神によって、これが「肉食禁止令」となりました。
 江戸時代(1600〜1868年)にも動物を殺すことの禁制が出されましたが、一方では、鹿、猪、野兎などの獣肉食が行なわれていました。しかし、飼育された動物の肉がわずかずつでも食べられるようになったのは、明治維新からといわれています。
 更に、庶民が小量の肉や乳、卵などの畜産品を自由に口にできるようになったのは、戦後も20年以上、維新から数えて100年近くもたってからで、そんなに古いことではなく、私達は動物性食品種体の生活には慣れていないのです。


 伊藤宏著『食べものとしての動物たち』によると、戦前の好況期といわれる昭和12年(1937年)から平成10年(1998年)に至る約40年間に、食肉消費量がどのように変わって来たかをみてみましょう。
 「わが国における昭和12年の食肉年間消費量は約19万2千トンで、現在の4%にも満たず、鶏肉が多かった。戦後10年を経た昭和32年(1957年)においても、鯨肉が多く出回ってはいたが、食肉年間消費量はわずか32万トンである。その後、豚肉・鶏肉の増加が目立ち昭和40年(1965年)には、約3倍の100万とになった。
 昭和45年(1970年)までの5年間で総量は倍増し、昭和55年(1980)年までの10年間にさらに倍加した。豚肉と鳥肉が増えてきた。 次の10年間を経た平成2年(1990年)、及び平成10年(1998年)には約500万トンになり、この間に、牛肉の消費量が著しく増加した。
 東京オリンピックから30数年の間に食肉の消費量は5倍以上にも増加した。」と述べています。


 高級・高額でなかなか食べらえなかった食肉が、毎日でもたら腹に食べられるほど豊かになった日本です。しかし、私達はその食肉のほとんどが、外国依存のものであることを確認しておかなければなりません。以前にも述べましたが100%近い自給率を誇る鶏卵も、その飼料のほとんどが輸入に依存していますから、私は鶏卵のことを「日本生まれの輸入品」と読んでいます。
 いまや、生活習慣病など健康上の問題から、食肉などの動物性食品の過剰摂取が叫ばれるほどですが、私たちの胃袋は大量の輸入肉や輸入飼料によって満たされているのです。
 伊藤宏氏の資料によると、平成9年度における畜産物の自給率は、肉類は56%、うち牛肉が36%、豚肉62%、鶏肉67%です。牛乳・乳製品は71%、鶏卵96%、動物油脂68%、魚介類72%。そして、主食用の穀物自給率は62%であり、主食用でない穀物自給率(家畜用飼料等)の自給率はわずかの28%です。





 

ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。

 

生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
L ife A griculture F oods

FAX :076-223-2005
mail :m.ikeda@ninus.ocn.ne.jp

池田 優

 

 

◎ ご意見、ご教示はこちらまで    掲示板も御座います。是非ご利用下さい。→ 掲示板

最新号へ戻る