山ちゃんの食べもの考

 

 

その91
 

 価格の優等生といわれる鶏卵。今日のスーパーのチラシ広告にも10個入り1パック89円で安売りされています。たまごを生むだけ生んで生涯を閉じる産卵鶏の飼われ方について、伊藤宏著『食べものとしての動物たち』(講談社)から、抜粋要約して述べてみたい。
 鶏は紀元前3000年ごろ、東南アジア地方の農耕民族によって、始めて野鶏から家禽化されたと見られている。
 いま日本で卵を生んでいる大部分が単冠白色レグホーンという種でイタリアが原産の鶏。これがアメリカやイギリスで品種改良が進められ、現在では世界中に広く分布している産卵鶏の代表種となっている。羽の色は白色のほか黄褐色や褐色、銀色、黒色のものがあるそうです。
 雌は早熟で卵から孵ってから150〜160日に初めての産卵をします。産卵能力は非常にすぐれていて、初年度の産卵数は250〜280個に達するといいます。ところがこの鶏は、巣を作って卵を抱くという鳥本来の性質である就巣性や、卵を抱いて温め孵化したり雛を育てる能力を持っていないということです。これは卵を温める暇もなく卵を生み続けるようにし、就巣性を取り除くように品種改良の中から選抜されたことが主な理由だといいます。
 最近では、褐色の殻の有色卵が増えてきていますが、他の卵肉兼用種とこの白色レグホーン種との交配を主体とし、品種改良のためのさまざまな交配方法を試みることによって作り出されてきた鶏によって生産されているのです。



 せっせ、せっせと卵を生み続け、驚くような産卵成績を示すこの単冠白色レグホーン種という鶏は、他の鳥類とは全くかけはなれた生き物になってしまったのです。人間の欲望、欲求によっていろんな性質が組み合わされ選抜されて作り出された人間のために卵を生むだけの鶏なのです。
 成熟した白色レグホーン種の雌鶏の体重は約1.8kgで、1日当たり平均100g、年間約36kgの飼料を食べ、一個60gの卵を年間に300個生むとすると。自分の体重の10倍量に当たる180kgの卵を生産しており、食べた飼料の約半分を卵の変えていることになります。
 彼女たちは、ただただ卵を生むことだけに専念し、子孫を残すという繁殖行為が行われることは生涯を通して決して供されることはありません。狭い檻の中で餌をついばみ懸命に卵を生むだけで一生を終えるのです。まさに工場の中で卵を生むための機械なのです。



 50年も前であれば、1週間に1個でも卵を生んでいれば産卵鶏と呼ばれたのですが、現在で1年間の産卵率が80%以上と言いますから、365×80と単純計算で292個も生むわけです。
 産卵鶏の体躯は小さく作られています。それは産卵以外に余分な栄養が必要としないよう、つまり無駄な飼料を節約するために最大効率の体形にされているのです。小さい体でほどよい大きさの卵をどんどん生むように、人間の身勝手な要求が彼女たちに押し付られているわけです。
 そして雛には早く成長して卵を生むようにしてもらいたいので、鶏の目に入る光線の量を加減して、ホルモンの分泌を人工的に調節します。春になると日が長くなって、小鳥達が卵を生み出す習性を利用しているわけです。できるだけ余分なことのエネルギーを使わないようにし、孵化してから150日から160日で卵を生み出すことを目指して効率的に育てられています。
 彼女たちに順調な産卵を続けてもらうためには、病気から守ってやらなければなりません。細菌やウイルスによる伝染病の発生を予防するため、数種のワクチン接種を行なわれます。



 彼女たちには、飼料成分を無駄なく上手に卵に変えてもらいたい。卵を生ませるためにエサを与えているのですから。それで彼女たちには、計算されたほぼ完全といえるほどの合理的に調整された配合飼料が与えられているのです。
 彼女たちには、その栄養を十分に吸収し、卵に転換する高い効率が要求されており、それに見事に応えていかなければなりません。
 鶏をずっと飼いつづけて、生涯に生む卵の数は相当のものになるでしょうが最後まで餌が与えられ飼いつづけられることはありません。彼女たちは経済動物ですから、やがて産卵率が下がり飼料代に対する採算ベースが低下してくると、そこで強制的に生涯を閉じなければなりません。彼女たちの一生は、およそ孵化してから550日から600日間ほど飼ってもらえれば上等であるということです。
 彼女たちの中には、卵を生み始めてから1年半以上たっても元気な産卵を続けるものもあれば、産卵率の低いもの出てきます。同一時期一緒に飼われはじめた彼女たちは何万羽、何十万羽いようと、全体的に産卵率が低下してくれば、1羽残らず一網打尽、いっせいに淘汰されるのです。
 そして容赦なく準備されていた次の若くて元気のいい住人と入れ替えられるのです。



 ただただ卵をどんどん生むという運命を背負わされてこの世に生を受けた産卵鶏は、生後150日頃から生み始めて、約400日間の過酷な産卵期間を機械のごとくエサをついばみ卵に替え、やがて疲れ果てて、2年ばかりの短い生涯を「淘汰」という形で閉じます。
 採卵鶏を作り出すための有精卵は孵化器に入れられ、約38℃で温めます。発生が始まればその卵は受精卵ということになります。先ず神経系ができ、間もなく心臓が動き出し、6日目には翼や脚、そ嚢、盲腸、嘴などが形成される。21日目には、雛は殻の中で鳴き始め、殻を破って出るために内側から嘴でつつき出す。
 雛が孵りました。ぬくぬくとした外界に出て、乾いた空気に触れ、数歩もかけめぐれば、肌にはり付いていた濡れた産毛も乾いて広がり、淡い黄色の綿毛の衣に変わります。専門の鑑別師が雌雄を判別し、雄の雛はそこで取り除かれ、しかるべく処分されることとなりますが、それは良好なタンパク質供給源として加工処理され、他の動物に飼料として与えられます。
 孵化したばかりの雛の雌は1羽220〜270円で取引されるという。



 孵った雛の雌は、温度や湿度、換気などの調節が完備した「育雛器」の中で3週間から4週間の幼雛期を過します。孵化してから150日くらいで体重も1700gとなり、いよいよ産卵期を迎えます。産卵開始時の産卵率は50%でそれから50〜60日でピークを迎え産卵率は90%にもなります。そして孵化から550日を経ると産卵率はほぼ65%に低下します。そこで新しい住人との交替期を迎え生涯を終えるわけです。卵を生み始めてからのこの400日間の年平均産卵率は75〜80%になるとのことです。
 盛んに卵を生み続けてきた彼女たちも、400個も卵を生むとさすがに疲れて休産日が多くなる。採算ベースがあり、彼女たち同級生は一斉に処分されるわけですが、そうなると今度は廃鶏と呼ばれ、最終処分業者に引き渡されます。そしてソーセージに混ぜられたりで食肉用に、あるいはペットフードなどの加工品なってこの世から姿を消して行きます。



 「ケージ飼い」か「平飼い」かということがよく問題にされますが、現在では多くの養鶏場がケージ(鳥籠)飼いをしています。何万羽もの鶏が鶏舎の中に設けられた金網製のケージに2〜6羽ずつ仕切られた中に入れられて飼われています。それを3段ばかりにひな壇型に積み上げ、向かい合わせに置いた列の間を、飼料を入れた装置が流れ、産み落とされた卵が集められるベルトコンベアが動き、全ての作業が自動的に行われています。工場さながらの大量生産に適した合理的な方法が取られているわけです。
 また、近年では、「ウインドレス鶏舎」という窓なしの建物が使われ、そこでは垂直に積み重ねられた8段ものケージが並び、まさに産卵鶏の高層マンションさながらです。
 こうした大規模な養鶏場では、内部の設備はどれもコンピュータで制御されていて、温度や光線の管理、給餌、集卵だけでなく、排泄物の移動排出まですべて機械で処理されています。
 一方平飼いは、鶏をケージに入れずに鶏舎内を自由に動き回らせて飼う方法です。卵は昔風に産卵箱の中に生ませます。この方法は手間暇が多くかかり効率が悪いのですが、最近の健康思考から見直されてきており、ブランド卵などの少量生産に向いています。
 また「放し飼い」というのがあり、鶏が野外を自由に動き回れるので、自然の中で産卵される高価な「有機卵」の生産に適用されています。


 最近は、さまざまなブランド名のタマゴがありますが、こうした「ブランド」にだまされてはいけない。不必要な栄養成分を強化したタマゴが、高い価格で売られています。
 たとえばヨード分を強化した「ヨード卵」。日本人の場合海藻や魚介類を食べているので不足しているということはないので、わざわざ卵にヨード分を与えて特殊卵をつくり、卵から摂取しなければならないということはない。
 特定な栄養素を含んだ卵を食べさせるためには、わざわざ特別な餌を食べさせる必要があるのです。ビタミンEやビタミンD、あるいは鉄分を強化した卵もあります。それらは自然な卵ではなく、鶏本来の生体を無視して飼われた不自然なものだということができます。自然な森をイメージさせる「森の卵」などというのもありますが、日光を遮断されたうす暗い鶏の工場で生産されているのです。
 卵の黄色みが濃いものが栄養が高そうで好まれることから、色の濃くなるエサを与えたり、エサに着色剤を加え、色付けされているものがあるのです。卵殻の色も鶏の品種によるものであって、栄養的にはなんらかわるものではないといわれています。
 だから卵の選び方としては、特定の栄養成分が多く含まれていることを強調するような卵は、むしろ避けたほうがよいと思います。それよりもどのような飼料を与えどのような環境でどのような飼い方をしているのかを問題にすべきでしょう。有精卵や平飼いなどで生産者の名前の入ったもの、また飼料には、遺伝子組み換えの資料やポストハーベスト農薬を使っていないものが良いでしょう。


 最近多くなってきたブランド卵について、食生活研究会編著の『安全な食べもの選び方Q&A』には次のように述べられています。
 近年の健康志向を反映してか鶏卵業界でも付加価値をつけた商品の差別化が進んでいます。「ヨード卵」に代表される強化卵もその一つ。これは鶏のエサにヨードやビタミン(A、B、E)、ミネラル(鉄、カルシウム)、あるいはリノール酸や、イワシなどに含まれる不飽和脂肪さん(EPA、DHA)などを加え、普通の卵よりこれらの成分を多く含有する卵をいう。
 ケージ養鶏が普及し、大規模生産方式が多くなる中で、昔ながらの放し飼い(平飼い)で生産された卵を差別化するために、「地卵」と呼ぶ場合と、褐色卵を「地卵」「赤玉」という場合もあります。この他「自然卵」「有精卵」などと業者が勝手に表示して販売しているものもあり、これらを総称して「特殊卵」ともいわれています。



 差別化された特殊卵は栄養や健康面ではどうなのでしょう。同じく『安全な食べもの選び方Q&A』には次のように述べられています。
 健康面では「強化卵はヨードがコレステロールを下げる、アレルギーの改善等の作用がある(日本農産工ヨード卵部の説明)」ということですが、国民生活センターの分析結果から見ても、あえて人工的に付加価値をつけた強化卵を3倍近い高価で買うメリットがあるのでしょうか。
 栄養バランスの取れた食生活を心がければその必要はなく、逆に「米食品医局」(FDA)が「ヨード卵を過度に摂取すると害のないコレステロール量まで減らしてしまい、妊婦などの甲状腺炎、甲状腺機能高進病(バセドー)などの副作用がでる可能性がある」として記しています。
 高いヨード卵を買うより食事として昆布やワカメを食べる方が、食物繊維もあわせて摂れ一石二鳥ではないでしょうか。
 尚、有精卵と無精卵では分析上の成分差は認められないという報告があり、赤玉、白玉についても栄養的な差はなく、赤玉が高いのは卵を生む数が少ない分コスト高になるとのことです。





 

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生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

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