山ちゃんの食べもの考

 

 

その92
 

 健康志向の高まりから鶏肉の需要が高まりつつある。しかし、過密な飼育のためにとくに病気に罹りやすいのがブロイラーである。鶏肉について、日本子孫基金の『食べるな!危険』では以下のように述べています。
 「抗生物質などの薬漬けになっているのに、ヘルシーな食品だと誤解されているのが、鶏肉である。わずか畳2枚分の広さに、60羽から80羽を飼育するのが、多くのブロイラー(食肉専用若鶏)飼育方法だ」
 「超過密で病気が発生すれば、大きな被害になる。感染症は絶えない。だから、抗生物質や合成抗菌剤をエサに混ぜて飼育せざるを得なくなる。出荷前に休薬期間を設けているので、日本のブロイラーを食べる時に、抗生物質の残留はほとんどない。だが、違反残留がないわけではない」
 「残留より怖いのが耐性菌で、抗生物質で生まれた耐性菌は、休薬期間があっても簡単にはいなくならない。ブロイラーは常時、抗生物質を食べさせられているので、おなかの中にいる菌は、耐性菌になっている。体の表面にいる菌の多くも、耐性菌だ」
 日本の鶏肉だけが危ないわけではない。フランス産、タイ産、ブラジル産、中国産からもバンコマイシン耐性腸球菌が検出されている。ヨーロッパやアメリカをはじめ世界の多くの国で検出されるようになっていると言う。
 バンコマイシン耐性腸球菌は、全ての抗生物質が効かない細菌で、ブロイラーの腸の中で生まれている。畜産で使われる大量の抗生物質によって、ほとんどの抗生物質が効かない多剤耐性菌が生まれてしまったのです。そして耐性菌の汚染率が一番高いのが、ブロイラーです。


 大規模経営ではウインドレス鶏舎を取り入れています。ブロイラーは、窓のない鶏舎で50日くらいの短い一生を過ごす。窓をなくし、外部と遮断することによって、照明、換気、室温調整を可能にする。薄明るく調整された照明を、24時間つけ続けたり、1時間点灯し、2時間消灯する方法で、食べ続けさせ、急激に太らせるわけです。
 「抗生物質などを与えないで健康な鶏を育てている生産者もいないわけではない。山形県の米沢郷牧場では、外気が通る自然光の明るい解放鶏舎の中で、健康的な飼料を与え、平飼いで育てている。山口県の秋川牧園でも、解放鶏舎に独自の植物性飼料で、完全無投薬飼育を行っている」
 「抗菌剤を使わず、健康の育てられた鶏肉を選ぶには、飼育方法がわかっている鶏肉を求めるべきである。良い育てられ方をした鶏は、肉に旨味があり、食味が良く肉質が固い」と日本子孫基金は述べています。



 イギリスのジャーナリスト、ジョン・ハンフリースは、その著書『狂食の時代』の中で、ブロイラーについて次のように述べている。
 イギリスでは年間8億羽のブロイラーが生産されている。ブロイラーはすぐに成長し、卵から孵ってからわずか41日で食肉になる。一つの小屋には、おおむね2万5000羽の鶏がいる。小屋には窓がなく、人口照明があるだけだ。鶏は、成長すればするほど、場所は狭くなる。処分される体重に近づくころには、立ったままで身動きもできない。
 彼等のエサは、健康な体や骨を作るためのものではない。できるだけたくさんの肉――特に胸肉――をつけるためのものだ。


 
 私たちに、卵を提供してくれているものと肉を提供してくれているものとは、鶏は鶏でも全く別物である。伊藤宏著『食べものとしての動物たち』から、食肉用の鶏、「ブロイラー」について学んで見ましょう。
 現在の私たちが食べている鶏肉のほとんどがブロイラーと呼んで差し支えないものだといいます。ブロイラーには定義があって、「鶏肉を生産することだけを目的として、その産肉性、成長性、飼料利用性、抗病性、斉一性などを高めるように育種改良された鶏であり、それは鶏の品種には該当するものではなく、品種間あるいは系統間の雑種である」とされています。6〜12週齢の肉用若鶏の総称であって、焼いて(broil)食用にすることが多かったのでこの名がつけられたのことです。


 孵化器に入れられた鶏の卵は、21日で孵ります。肉用鶏は、産卵鶏のように雄を取り除くようなことはなく、雄も雌も肉用に育てられます。孵った雛は保温と保湿の効いた育雛器で3週間ばかりを過します。その後、彼等のねぐらである鶏舎に移されるわけですが、一般には幅13m、長さ50m、1棟200坪ほどの面積に1万羽ほどの雛が育てられます。中には窓なしのウインドレス鶏舎も多く使われ、すべての機能はコンピューターで制御され、わずかな人数で数棟にいる10数万羽が管理されます。
 孵化してから肉鶏として出荷されるまでの49日(7週間)とし、雌雄平均の体重が2.9kgすると、35日齢から49日齢までの2週間における1日当たりの憎大量は80gにも達します。この出荷時点においては、床面積1坪当たり36羽強が飼われています。わずか25Cm角に1羽の密度です。ブロイラーは、雛のときから余り運動しないようにし、一生の間、できるだけじっと生活するように仕向けられます。


 ブロイラーには、早い成長を促すために、栄養的に効率のよい飼料が与えられます。しかもそれは決して高価であってはなりません。家畜の種類や年齢、生産目的など、さまざまな用途によって、実に多種類の配合飼料が作られていますが、それらの大部分は、海外からの輸入に依存しているのです。
 ブロイラーの飼料には、トーモロコシ、大豆や菜種などの植物性油粕、魚粉や肉骨粉、小麦や米の糠などが用いられます。これに、成長促進と細胞の免疫活性を高めるために2種類の抗生物質が加えられます。但し、出荷前の7日間は、抗生物質が肉に残留しないように、飼料に加えることが禁じられています。しかし、「抗生物質は7日の内に肉から完全に消え去るのだろうか疑問も残る」と伊藤宏氏は述べています。


 ブロイラーの育成は、伝染病などの病気との闘いの連続であったが、抗菌性物質の開発によって少しずつ発症が抑えられるようになってきたということです。しかしながら、ウイルス性の疾患は依然として多く、強力な伝染力を持っており、急速に増体している鶏は、ウイルスやその他の病原菌に対する抵抗力が落ちて感染しやすくなっているといいます。
 ウイルスは伝染性疾患の主な原因になるもので、すべてのウイルスに対してそれぞれのワクチンを摂取する必要があり、多くは初生から20日齢までの間に行なわれます。すべてのワクチンを確実に接種するには、多くの時間と費用、労力を要し、鶏の受けるストレスも大きいが、その一つでも省略すると、万が一の時には、養鶏場のすべてが消滅しかねない被害を被ることになるという。
 ブロイラーは又、内蔵や骨格の発達と増体との間のバランスが崩れることによるさまざまな病気になりやすい。伊藤宏氏は「この体質的障害は、鶏自身が備え持っている以上の能力を引き出そうとする人間の欲望と、鶏の体力の限界との間のせめぎ合いの中で生じてきたとも考えられる。それほどきわどい生産活動を強いられているのがブロイラーである、といえるかもしれない」と述べている。


 集鳥機で掻き集められたブロイラーは、食鳥処理場に運ばれ、50日間の命を終える。高度な技術を駆使して作られたブロイラー処理加工機によって、屠殺され、脱羽し、内臓を取り除かれ、冷却、解体などの工程を経て肉塊として出てくる。
 日本でのブロイラー生産推移を見てみると、昭和40年(1965年)におけるブロイラー飼養農家は約2万戸で、一個当たりの飼養羽数は1000羽にも満たなかったが、平成11年(1999年)には農家戸数が約3000戸となり、平均飼養羽数3万羽を超えており、現在では100万羽単位の大規模養鶏場も現われている。しかし、総羽数は平成2年(1990年)を境に1億5000万羽から1億羽に減少の一途をたどっているという。
 反面、鶏肉の輸入量は1995年以降急増している。現在日本の鶏肉需給量は約150万トンであり、国内で生産される鶏肉は需要量の約3分の2で、残りの3分の1、約50万トンは中国、タイ、アメリカ、ブラジルから輸入されています。
 鶏肉の自給率は67%といわれますが、彼らに与える飼料の自給率を考えると、日本固有の資源で作られる鶏肉は10%程度にしか過ぎないわけです。
 1999年におけるは家畜用の配合飼料は2433万5000トン。米の収穫量900万トンの2.7倍という驚異的数量である。ブロイラー用には350万トンが当てられているという。


 さて、1980年代の前半に、アメリカで初めてブロイラーという鶏肉が味わられたそうです。しかし、妙に柔らかくて水っぽく、鶏肉臭さが残っていて簡単にはなじめなかったという。そして現在ではその鶏肉の屠殺方法や解体処理方法が改善され、臭みが抜け、スパイスを上手に利かせて調理されるようになり、その値段の安さや肉の柔から急速に需要を伸ばして行ったのだという。
 これらの肉を提供してくれる日本でのブロイラーの雛の大部分は、外国で育種されたものであります。鶏の飼料となる膨大な量の穀類や大豆などを、主にアメリカや中国、タイから輸入して飼育してきました。次いで、その飼料生産国である中国やタイで鶏を飼育・生産してもらい、大まかに処理した肉塊として輸入するようになったのです。
 その後、鶏肉は輸出国の現地で処理され、その鶏肉を刻んで竹串にさして味をつけて焼くだけの焼き鳥となって日本に上陸しているのです。そして今では、たれまで付けられて、なんと“チン”すれOKという製品になって入ってきているのですね。


 ずっと昔に食べた味のよい鶏肉が懐かしい。ちょっと前のその昔、田舎に行くと、農家の庭先を駆け回っていた鶏がいましたね。かしわ肉と称するものがありました。
 鶏の土産種は一般に地鶏と呼ばれているこの種の鶏は、多くの場合、形質が統一されていなかったり、能力も雑多で、改良種に押されて数は減り、消滅しそうになっているものも多い。しかし、これらの地鶏の形質はすべてで劣っているわけではないので、貴重な種として保存していく必要がある。
 秋田の「比内鶏」、岐阜の「美濃かしわ」、鹿児島の「薩摩鶏」「名古屋」などが古くから地鶏として知られていた。例えば比内鶏は、秋田県大館地方に飼われていた鶏の一種で、江戸時代中期以降に、いわゆる地鶏とされた鶏とシャモとを交配して作られた。その後、1942年に国の天然記念物に指定されている。
 従って、現在、比内鶏を食べることはできない。この鶏の雄をロードアイランドレッドの雌にかけ合わせてできた雛を“比内地鶏”と称して市販している。
 いま、地鶏への郷愁が強くなってきている。ブロイラーに比べて、放し飼いで十分な運動をしている地鶏は、その飼育日数の長さもあって、筋肉繊維が太く引き締り、歯応えがよくなっている。また、筋肉内の良質の貯蔵成分も増加して、噛むほどに旨味が溢れて風味がよく、コクがあるといわれている。




 

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生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

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