山ちゃんの食べもの考

 

 

その94
 

 日本人は、カルシウムが不足しているから、良質のカルシウム供給源である牛乳をもっと飲もう、乳製品をもっと食べようといわれる。その牛乳はどのように作られどのようなものなのであるか。伊藤宏著の『食べものとしての動物たち』から学んでいきたい。
 「牛が家畜化されたのは紀元前8000年ごろで、世界で最初に牛乳を飲んだのは、メソポタニア地方の人たちであったろう」という。
 「わが国へは、遠くインド、中国、朝鮮を経て、仏教文化に一つとして、“乳文化”が飛鳥時代の都に入ってきたとされている。古代乳製品といわれる“酪”“生蘇”“熟蘇”“醍醐”がどのように作られたものであろうか。これは、仏教でも牛乳を精製する時の“乳”を含めた5段階の味を指しており、“乳から酪を作り、酪から生蘇を作り、生蘇から熟蘇を作り、熟蘇から醍醐を作る”ということであったらしい。」
 「酪は、牛乳を煮詰めてから器で冷まし、上に浮いた皮膜を取り除き、古い酪を少量入れて封をしておくとできると書かれているので、現在の発酵乳、ヨーグルトのような食べ物であったろう。また、この酪を乾燥して集めたものを、しばらく煮詰めて塊にしたものを“乾酪”と称していたが、これは現在のチーズのようなものだったと考えられる。」と述べています。
 「“蘇”は、牛乳を攪拌加熱してから一夜放置し、上に出来た凝固物を再び加熱して濃縮したクリーム状に仕上げたものであり、これをさらに加熱したものを“熟蘇”と呼び、自然の甘味があるので、貴重な食品とされ、上流階級ではデザートとして珍重されていた。」と古文書には書かれているそうです。
 「“醍醐”は、幻の古代乳製品とされ、乳製品の五味の中の最上品で、“醍醐味”という美味をほめる言葉となっています。」
 ところが、それまで栄えた醍醐味の文化が、奈良時代や平安時代には、乳を食用にしたという記録があっても、乳製品の利用は鎌倉幕府の成立とともに日本の食卓から完全に姿を消しているというのです。


 又、伊藤宏著の『食べものとしての動物たち』には、牛乳について下記のように述べられています。
 日本人は、鎌倉時代に乳製品の利用が途絶えて以来、長い間牛乳を飲むことはなかった。明治に入って、欧米の食文化が紹介されるとともに、牛乳の飲用や乳製品の利用が始まりましたが、それは極一部の人たちのものであり、一般の人々の日常における食として広く普及することはありませんでした。
 現在の日本における牛乳や乳製品の利用は、戦後におけるアメリカからの援助物資として供給された脱脂粉乳が学校給食として取り入れられたことから急速に促進されました。
 これまで米を中心とした炭水化物を基盤とした日本の食生活が、わずか50年たらずでタンパク質と脂質を多摂取する食事へと急変しました。日本人が牛乳を飲むようになったのは、そんなに遠い話ではなく、つい先ごろのことなのです。
現在の日本人の牛乳消費量は、一人当り換算で西欧諸国の3分の1程度であります。


 言うまでもないことですが、私達が日常飲用する牛乳は、牛乳を搾るために人工授精で妊娠させられた乳牛が、生まれた子牛に飲ませるために出すお乳を横取りしたものです。
 子牛が誕生しました。この子牛に母親のお乳が与えられるのは、初乳、つまり免疫物質を多量に含んだ最初に分泌される母乳だけといいます。生まれて僅か5日間足らずで母牛から切り離された子牛は粉乳のような代用乳に切り替えて育てられることになります。そして母牛が作り出す大量の乳の大部分が販売用の商品となるわけです。乳牛は人間のためのミルク製造機なのです。
 日本人を始めとするアジアの黄色人種やエチオピア人などのセム人種には、乳糖を分解するラクターゼという分解酵素が、乳幼児期にはあるものの、成長するにしたがって乳離れをします。あらゆる哺乳動物はその幼児期を過ぎるともう母乳を飲むことを必要としません。人間の多くにしても、もう乳に含まれる乳糖を分解するラクターゼの活性を高く維持する必要はないのというので低下しなくなっていきます。だから牛乳を苦手とする成人が多いのも当然でありきわめて自然な姿だといえます。
 ところで、一般に牛乳と呼ばれるものの中で「牛乳」と表示できるのは、搾ったままで何の手も加えられていない生乳を100%使用したものに限られています。
 生乳を原料として、成分を減じたり、あるいは添加したりしたものは「加工乳」と表示されます。また、以前にはコーヒー牛乳やフルーツ牛乳などと呼ばれていたものは「乳飲料」と呼ばれ、牛乳の文字は使えなくなっています。 


 さて、牛乳類には「牛乳」、「加工乳」、「乳飲料」の3種類がありますが、その違いをもっと詳しく見てみましょう。この牛乳類は食品衛生法でその成分や表示がきびしく規定されていることはすでにご存知のことと思います。
 先にも述べたように、「牛乳」は搾乳された生乳以外のものは一切加えられないものにのみ表示が許され、「牛乳」の表示があれば、どのメーカーのものであっても、すべて乳脂肪分が3.0%以上、無脂乳固形分が8%以上含まれています。
 「加工乳」の場合には、無脂乳固形分が8%以上含まれていることが規定されていますが、乳脂肪分については規格がなく、牛乳にクリームや濃縮乳、脱脂粉乳、バターなど他の乳製品を加えて成分を調整したりして、乳脂肪分を濃くした濃厚牛乳や、逆に入脂肪分を少なくした低脂肪乳、あるいは全く脂肪分を抜いてしまった無脂肪乳などがあります。
 「乳飲料」は、牛乳や乳製品の外に、コーヒーや果汁、甘味料などを加えた嗜好飲料タイプのもの、ビタミンやミネラル、タンパク質やカルシウム、鉄分などを加えた栄養強化タイプがあります。また、乳糖分解酵素ラクターゼを持たないため、牛乳を飲むと下痢を起こしやすい人のために乳頭分解酵素を加えて乳糖を分解したものがあります。


 最近「低温殺菌牛乳」と表示されているものを見かけることが多くなってきましたが、牛乳には「低温殺菌乳」と「高温殺菌乳」があります。牛乳の殺菌は、牛乳中の有害な細菌を死滅させ、牛乳の品質を損なう恐れのある細菌を少なくし、牛乳に保存性を持たせるために行なわれます。
 低温殺菌は、高温殺菌に比べて自然の牛乳に含まれる成分を出来るだけ変えない殺菌方法として用いられるもので、牛乳を62〜65℃で30分間加熱して殺菌する方法のことです。しかし、わが国における低温殺菌牛乳は全体の数%に過ぎず、90%以上が「超高温殺菌乳」です。そのため外国の人から「日本の牛乳は本当の牛乳ではない」といわれることがあります。
 低温殺菌法は、卵を半熟にするような条件で殺菌するので、病原菌はほとんど死にますが、乳酸菌はかなり生き残れる。しかし完全に殺菌しないので、低温殺菌牛乳には、よほど質のよい牛乳しか用いることが出来ないといわれます。飼料や飼育方法にこだわって安全健康を指向する酪農家による牛乳には、「低温殺菌牛乳」が見られます。
超高温殺菌は、できるだけ牛乳の特性を維持しながら、効率よく殺菌しようとする方法で、120〜150度の高温で1〜3秒という超スピードで有害な細菌を死滅させようとするもので、日本ではこの方法が主流となっています。
 どちらが良いのか諸説がありますが、せっかく殺菌して安全性が確保できたとしても、栄養や美味しさが減少したのでは意味がありません。殺菌する温度や時間が違うだけで、牛乳の成分や栄養はほとんど変わらないというのが一般的な見方です。しかし、産地をお訪ねし飼育方法や与えている飼料、牛の健康管理などをお聞きしたり拝見すると、分析結果だけでは納得できないものがあり、やはり可能な限り自然な環境での無理のない生産方法のものに期待したくなります。




 

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生命の農と食を考える
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池田 優

 

 

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