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前回に続いて河野武平著『野菜が糖尿病をひきおこす!?』(宝島社新書)を中心に、「硝酸塩」と農業、食べ物、健康、環境などの関係を考えていきます。 同書に紹介されている東京都のデータによっても、日本の野菜は異常に硝酸塩の含有量が高くなっています。下記はその一部です。 EUでは2,000mg/kg以上の硝酸塩を含むものは「汚染野菜」とされているといいますが、この数値をご覧になってどのように思われますか。 【青果物中の硝酸塩の含有量】(mg/kg)
結論から先に申しましょう。一般的にいって、@ハウス栽培など施設内で短期間に促成栽培されたものは、もっとも硝酸塩濃度が高く危ない野菜といえます。つぎは、A化学肥料や農薬はある程度使っていても、露地で栽培される旬の野菜です。もっとも安心できるものは、B化学肥料や農薬の使用を控えた露地栽培の旬の野菜です。 農家の方々が、換金作物として市場出荷する野菜とは区別して、自家用につくって食べている旬の露地野菜は理想的です。そんなお百姓さんを「汚い」とか「けしからん」といって偽善者呼ばわりしますが、私はそうは思いません。 私は言います。安全、安心、健康、本物を口にしながらも、あれがうまい、これが安い、やれどれが大きいだのきれいだの、さてはこの方が簡単だの便利だのといって美食、飽食をほしいままにしている人達に。「彼らが食している自然的な野菜を買いますか。虫に食われ、キズやサビが付き、土に汚れ、形がいびつな不揃い品、しかも少々割高であってもです」と。 私は農家の方々といつもこのように話をしています。「少なくとも自分の食べるものは、自然力で育った安全な美味しい本物を作って家族に食べさせてください。それが農家としての特権でもあり良心です」と。苦労していい物をつくっても、市場も業者も消費者も評価してくれることもなく、報われることがないのが現実ですから。 こんな乱れた不自然な食生活は決して長続きはしません。今は聞く耳を持たない人たちも、近い将来にいやでも自分たちの間違っていた食に気づいて、自然に親しみ本物を食べて元気で幸せに暮らす農家の方々の姿を見て、「私たちにもあなたの食べているものを分けてくださいということになるでしょう」と。
河野氏は、ビニールハウスなどで短期に促成栽培される野菜は、自然なサイクルで栽培される野菜と比べて光合成が不足するため、高濃度の硝酸塩を含有しており、「食べてはいけない野菜」だとして次のように述べています。 土壌に施された窒素肥料は、野菜は根から吸収され、茎にまわり葉に移動して、光合成作用によって窒素成分はタンパク質に変わっていきます。 施設栽培の野菜は、ハウス内で温度管理をし、光合成管理をして生育期間を短縮して年間を通じた栽培ができる。例えば本来冬野菜であるほうれん草は、秋から冬にかけての露地栽培で約60日間かけて生育するが、施設栽培では半分の30日間程度で収穫できる。このような施設での短期促成で栽培する野菜では、まだ光合成が終わっていない早い時期に収穫するものが多く、見かけは生長していても、光合成は充分ではなく未完成の野菜である。そのため窒素成分がタンパク質に変化せず、高濃度の硝酸塩を含有することになる。 また液体肥料を収穫前に施すと亜硝酸塩濃度が高くなる傾向がある。特に関西から西の産地は液体肥料を利用することが多く、亜硝酸塩濃度の高い促成栽培の野菜が目立つ。一般に、高濃度の硝酸塩を含む野菜は、収穫前に肥料を施すことによって収量の増える根菜に多い。収穫前に曇天が続き降雨量の多い時の野菜も、硝酸塩の含有量は多くなる。 硝酸塩濃度が比較的低い野菜は、キュウリやトマトなどの果菜類やタマネギ、ニンニク、バレイショ、サツマイモなどです。これは、これらの野菜は葉野菜などと違って、栽培期間を半分近くに短縮するなどの短期栽培は不可能であって、生育までに充分な光合成をしているためです。食味を重視する果実や果菜類は、成育までに必要な時間をかけて光合成を充分にしないと商品にはならない作物ですから、硝酸塩濃度が低いのは当然であって、充分に光合成が行われないことには、エグ味が増し、まずくて食べられたものではないからです」。 施設栽培が盛んになって、旬がわからなくなるほど多くの野菜が周年栽培され出荷されています。一見便利で豊かになったように思われますが、健康な食を考えるとき、このことは多くの問題を生ずることになったのです。
北海道立上川農業試験場の相馬暁先生が著した『野菜学入門』の中からも、硝酸塩(この著書では硝酸態窒素と表現していますが同じ意味です)ご紹介しましょう。相馬先生は同書の中で「今、野菜が危ない」と、次のように述べています。 「科学・技術の進歩の名の下で、全国一律なインスタント(生育速度の早い)品種が普及し、旬をなくしたハウス周年栽培と、自然とは無関係な野菜工場が発達し、行き着くところ、土(自然)の力など頼りにしない多肥・多農薬農業へ、そして農業生産は工業化されインスタント化された。そこで作られる野菜は本当に野菜なのだろうか。多くの野菜で栄養価が低下し、安全性への疑いが高まっています。 例えば、食品成分表三訂(1936年)から四訂(1980年)にかけて、品種や作型・栽培方法の変化を反映し、ビタミンC含有量が減少した野菜は、総数23品目中13品目、カロチン含有量が減少した野菜は18品目中12品目。多くの野菜でビタミンCや鉄、カルシウムなどのミネラルが低下しているのです。 しかもこうした野菜には、発ガン性の疑いが強い硝酸態窒素(硝酸塩)が著しく高まっています。ほうれん草は本来、冬を旬とする作物です。北海道でも早春から秋に、ゆっくり40〜60日かけて育ったほうれん草は、ビタミンCをタップリ含んでいます。ハウスの水耕栽培で工場生産されるほうれん草は20日程度で収穫基準に達し、当然、ビタミンなどの成分は少なく、ミネラルも劣ります。このようなインスタント野菜が主流を占めるようになったらどうなることでしょう。 旬を忘れ、自然から離れた農業は、人間の健康を支え促進する成分や、ガン抑制効果を示す栄養価など、野菜の中の善玉を減らして、悪玉を増やしているかに見えます。自然から遊離しては、その生命力を失うことになります。 今、命を育み、生命と健康を守るべき農業・農産物が、人々の期待を裏切りかねない状況にあります。それは、旬を無視し、金儲けだけに狂奔した活動の行き着く結果であります」
物騒な言葉ですが、『野菜学入門』の中で相馬先生は、誤った現代農法によってダメになっていく野菜に対して大きな危惧を抱かれ、そうした野菜は、食べ方によっては命をも落しかねないのだと警告を発し、次のように述べています。 「野菜の中には、ビタミンやミネラルのような身体に有益な善玉の成分ばかりでなく、硝酸態窒素やシュウ酸などの悪玉もいる。高濃度のほうれん草を裏ごしして赤ん坊に与えると、30分もたたないうちに真っ青になり亡くなります。原因は高濃度に含まれた硝酸態窒素が、胃酸分泌の少ない赤ん坊の胃袋の中で、容易に亜硝酸に変わり、それが胃から吸収され血液に溶け込むと、赤血球のヘモグロビンと強く結びつき、赤血球が酸素を運べなくなって、酸素欠乏で死に至るのです。 成人の場合には胃酸が充分に分泌されるため、亜硝酸の生成は抑えられますが、たんぱく質のアミノ酸と結びついて、口の中で噛んでいるうちに、ニトロソミアンという発ガン物質が生成され、長く摂取を続けると、ガンになりかねないのです。特にラップでほうれん草を包み、電子レンジで手軽にお浸しをつくると、硝酸態窒素は少しもなくならず、亭主を早死にさせるのに効果的です。 あく抜きとして茹でることは、水に溶けやすい硝酸態窒素やシュウ酸を除くのに有効な手段です。 無理をしてつくる旬を無視した野菜の栽培は、どうしても多肥料・多農薬とならざるを得ません。その結果、ビタミンなど善玉がドンドン減少し、悪玉の硝酸態窒素がドンドン増えることになり、2,000ppm(mg/kg)を超える野菜が多く出回るようになり、恐ろしいことです」 月曜日 レンジ仕立てほうれん草おひたし、ハンバーグにサラダナ添え
荷見武敬著『有機農業に賭ける』(日本経済評論社)では、硝酸塩肥料の多投農業によって生じた、硝酸塩による人畜への障害について述べていますが、その要点を記します。 佐久総合病院長の若槻俊一先生は、高硝酸塩量の食物・母乳を摂取したり、硝酸塩含有量(濃度)の高い水源からの飲料水を飲んだりした人間――主として幼児――がメトヘモグロビン血症を起こした事例を紹介している。症状としては疲労、脱力、呼吸困難、頻脈、頭痛、目眩などが出る。乳児の場合窒息して死亡する例も多数報告されている。また発がん性について懸念される学説も出ている。野菜など農作物中に含まれる硝酸態窒素は、人体内で亜硝酸に変化し、胃の中でニトロソ化し、このニトロソ化合物に強いガン原生の疑いがある。 @ メトロヘモグロビン血症
効率優先の現代農業は、化学肥料や農薬の多投で面積当りの収穫増や労働力の軽減など飛躍的な発展を見ました。しかし、先にも述べてきたようにその農産物の栄養成分の低下や農薬による汚染、硝酸塩による危険性など、食べ物としての大きな質的低下をもたらし、健康な食生活のシンボルであった「もっと野菜を食べよう」が、「野菜が危ない」といわれるなど、とんでもない危機を迎えることになったのです。そしてこの真実は、一般の方にはほとんど知らされていません。だから、あえて非効率な農法に数倍の労力をかけ、健康な土づくりを進めながら、化学物質の使用を極力抑えて作られた良心的な農産物がまったく評価もされず、普及されず、よい生産農家も育ちません。 鳴り物入りで法制化された有機農産物も全体の1%にも満ちません。大事な命の食べ物として正しく評価し、力を注いで売ってくれるところも、買い支えてくれる消費者も極めて稀です。JAS有機農産物の規制は、日本の地理的条件や気候風土を無視し、現実にそぐわない欧米の基準に順応した理論先行型のものであって、決して日本農業の健全な発展には結びつくことがなく、却ってブレーキになるという意見もあります。その制約は想像を超える栽培上の困難さとたいへんな手続き上の煩雑さを伴います。したがって、一般農家にとって、何の保証もなく確かな成功の見通しも立たない厳しいJAS有機農業への取り組みは、生活の保障を根底から脅かす危険なものとなります。それでも日本国民の将来を憂い、農業を生命産業ととらえて労苦を惜しまない篤農家も沢山いてくれるのです。しかし、このままでは、有機農業が急速に拡大することはほとんど望めません。選んで、買って、食べてくれる消費者の大きな力の支えが必要なのです。 穀菜食民族である私たち日本人が、安心して暮らせる健康な長寿社会を創っていくためには、最低限、健全な日本農業の発展と、安心健康な農産物が必要なのです。それには作り手も、商い手も、食べ手も、目先の「自分さえよければいい」という利己的な食への関わり方を改め、日本農業と食べ物の作られ方の実態を認識し、国民ひとり一人の問題として行動することが大切だと思います。安心して「もっともっと野菜を食べよう」といえるように。
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